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宇宙ビジネスの市場拡大が予想されている。経済産業省が2024年3月に公表した資料によると、2022年時点で約54兆円だった世界の宇宙ビジネスの規模は、2040年までに約140兆円になると予測されている。

その背景には何があるのか。

市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。宇宙ビジネス編の本記事では、PwCコンサルティング合同会社 執行役員であり、宇宙・海洋・新エネルギー領域をはじめ、産業成長に向けたテーマを推進している渡邊敏康氏に、この領域が注目される理由や、その中でも特に成長が期待される事業を尋ねた。

急激な市場活性の背景に「2つの進化」

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


ひとことで宇宙ビジネスといっても、その事業領域は幅広い。PwCコンサルティングでは、宇宙ビジネスを「バリューチェーン」と「事業エリア」の2軸で整理し、代表的な18の事業領域を示している。

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


バリューチェーンを軸に見ると、上流(Upstream)では、ロケットによる人工衛星の打ち上げや軌道投入などがあり、中流(Midstream)では、衛星の運用やそれらを使った衛星間通信、宇宙開発・探査などがある。さらに下流(Downstream)では、GPSなどの位置情報や通信・放送など、私たちの生活に関わるサービスが挙げられている。

この記事の冒頭では、経産省の資料をもとに市場の成長可能性を紹介したが、PwCでも同様の分析を行っている。それによると、世界の宇宙ビジネスは2024年時点で4030億米ドル(約60兆円)と推定され、その内訳は、上流が260億米ドル、中流が410億米ドル、下流が2430億米ドル、研究機関予算が930億米ドルとなっている。「桁数が1つ変わるほど、下流の市場規模は圧倒的に大きいと言えます」と渡邊氏は伝える。

「今後の市場成長についても、さまざまな金融機関が予測を出していますが、2040年に1兆米ドル(約150兆円)まで伸びるとの見解もあれば、2030年頃にはその域に達するという予測もあります」

なぜ宇宙ビジネスは、ここに来て急速な発展期を迎えているのか。代表的な要因として、「衛星」と「ロケット」に関する進化があるという。

「まずは衛星そのものが小型化・高性能化し、さまざまな機能を付加できるようになったこと、そして高度な運用・制御ができるようになったことが大きいでしょう。

あわせて、それらの衛星を宇宙に運ぶロケットも小型化が進み、打ち上げコストも下がりました。これにより、JAXAやNASAといった国の機関だけでなく、多くの民間企業がロケットの開発・製造を担えるようになり、宇宙への進出が加速しているといえます」

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


近年、この領域における技術革新は凄まじく、たとえば衛星なら、複数の小型衛星を連携させて一体的に運用する「衛星コンステレーション」というシステムが注目されている。多い時には数百から数千の衛星を一体管理し、従来より高速かつ安定した通信ネットワークの形成、あるいは広範囲の地球観測などを実現する。「自動車業界ではCASE(※)という革新が起きましたが、宇宙ビジネスでも同様の動きが生まれていると見ています」。

※自動車業界における進化を象徴する4領域「Connected:コネクティッド」「Autonomous:自動運転」「Shared & Service:シェアリング・サービス」「Electric:電動化」の頭文字を取った言葉。

これらがもたらすのは、地上で使えるデータの急増ともいえる。多数の衛星がさまざまなデータを観測し、それを高速に通信していく。そして膨大なデータをAIなどで分析することで、地上のビジネスが発展していくだろう。

宇宙ゴミへの投資は「世界の議論」に委ねられる

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


数ある宇宙ビジネスの中でも、特に今後の成長が期待されるのはどんな領域なのか。渡邊氏は、まず「HAPS」という言葉を口にする。

「HAPS(High Altitude Platform Station)とは“成層圏プラットフォーム”のことで、宇宙空間に入る手前の成層圏(高度約10~50km)に無人航空機を飛ばし、それを基地局のような通信拠点にします。携帯電話でいえば、従来の地上基地局と衛星に加えて、成層圏にもネットワークの結節点ができるため、通信品質の向上が期待できます」

注目すべき領域は他にもある。その1つが「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」に関するビジネスだ。

宇宙ゴミとは、宇宙空間に漂っている運用終了後の衛星や役目を終えたロケットといった人工物、あるいはその残骸などのこと。これらは年々増えており、軌道上を周回しているものも少なくない。衛星などに衝突するリスクもあり、宇宙活動の妨げになるため、これらをなくすことが重要課題となっている。

「宇宙ゴミに関連するプレイヤーは増えており、特殊な技術によって宇宙ゴミを捕獲したり軌道上から外したりとアクティブに減少させようとするケースと、打ち上げ後のロケットの部品や衛星などが将来の宇宙ゴミにならないよう防止するシステムを開発しているケースの2つが主流となっています」

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


この領域への投資が加速するかどうかは、今まさに世界中で行われている宇宙ゴミの国際ルールや標準化に関する議論が鍵を握る。「これらの進展次第では、宇宙ゴミへの取り組みが“事業者の果たすべき責任”になります、その場合は、資金の流入にも変化が出てくるでしょう」。

近年、多くの企業が取り組んでいる「CO2削減」についても、世界的な方針や規制ができてから急速に活動が加速した。「宇宙ゴミでも同様の動きが起きる可能性はあります」とのこと。どの機関がイニシアチブを取り、どの方向に議論が進むのか。進捗を注視する必要があるという。

その他に成長が期待できる領域として、先述した「ロケット打ち上げ」関連もあるという。宇宙に送る衛星は年々増えており、それはロケット打ち上げの頻度が増加することも意味するからだ。

「さらに中長期の視点では、宇宙発電も見逃せない領域です。

サービス化を検討している事業者は国内外に多数おり、たとえばソーラーパネルによる発電を宇宙で行い、その電力を地上に送って使用する、または宇宙にある機器に活用することが考えられます」

日本の強みは“要素技術”の担い手がいること

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


世界中で活気を帯びる宇宙ビジネスだが、日本もこの市場での成長を目指している。経産省が2024年に公表した資料によると、日本の宇宙ビジネスの市場規模は4兆円ほどであり、政府は2030年代に約8兆円まで拡大することを目指している。

では、世界の宇宙ビジネスにおいて、日本は現在どのようなポジションにいるのか。どのような領域で強いのか。渡邊氏はこう分析する。

「まず日本の特色として、上・中・下流それぞれにプレイヤーがいることが挙げられます。これは世界でも珍しいでしょう。また、宇宙ビジネス全体の枠組み設計や、そこで得られたデータなどから私たち生活者にサービスを提供するのは海外のプレイヤーが強いかもしれませんが、日本では、衛星やロケット、あるいは宇宙発電などの次世代ビジネスを構成する個々の技術、いわゆる“要素技術”を開発しているプレイヤーが多数います。こうした点が強みになるのではないでしょうか」

空の向こうのビジネスが隆盛する中で、日本企業はどのように存在感を示していけるのか。今後、宇宙ビジネスに携わる国内企業への取材を通じて、その問いを深掘りしていきたい。

世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり


(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2025年4月現在の情報です

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