投資信託が低コストかの判断は「信託報酬」ではなく「総経費率(...の画像はこちら >>


投資信託は「低コスト(=信託報酬が低い)」のものを選ぶのが重要です。
投資である以上、将来の運用成績の保証はありません。

しかしながら、支払うことが決まっているのが保有中の手数料です。つまり、運用成績が良かろうが、悪かろうが、払わないと行けません。

ただし、「信託報酬が低い」ものを選ぶのは一つの真理ではあるものの、不十分です。
個人投資家としてぜひとも抑えたいのが「総経費率(実質コスト)」です。

信託報酬自体が安く抑えられていても、その他の手数料がかかり、想定以上の負担をしている場合が結構あります。2025年9月末をめどに事業を終了すると発表した「PayPayアセットマネジメント」が運用していた商品例を用いながら解説していきます。

PayPayアセットマネジメントの事業終了に伴い、「繰上償還」と「一部移管」が行われる

2024年10月11日、PayPayアセットマネジメントが「2025年9月末をめどに事業を終了する」と発表しました。事業終了の理由は、業績が低迷していたためです。
同社の決算公告を見ると、2020年3月期から2024年3月期まで、5期連続で当期純損失を計上していました。

PayPayアセットマネジメントが運用していた商品は全部で12本あり、うち8本はアセットマネジメントOneに移管され、引き続き運用が行われます。

アセットマネジメントOneは、みずほフィナンシャルグループの資産運用会社です。
2016年10月1日に、DIAMアセットマネジメント、みずほ信託銀行の資産運用部門、みずほ投信投資顧問、新光投信株の4社が統合し新会社として発足。資産運用残高は約69兆円(2024年3月時点)と、国内トップクラスの規模です。



残りの4本は2025年9月末までにその時点の基準価額で繰上償還となる予定。
繰上償還とは、本来の運用期間が満了する前に運用を終了して、その資金を投資家に返還することです。繰上償還になった場合、「資金が返還されるのであれば問題ない」というわけではありません。繰上償還が行われる時点で運用損を抱えていたら、強制的に「実現損」となります。インデックス運用では、長期投資が前提です。本来なら、その後の回復や値上がりを待つことができなくなるのですからマイナスです。

投資信託のコストは「総経費率(実質コスト)」で選ばないと痛い目を見る

筆者自身も、多くの専門家が発信するように「低コストの投資信託の中から選びましょう」という話をしていますが、最近は手数料引き下げ合戦で、昔と比べ信託報酬はこれ以上下げることが難しいくらい低水準となりました。

ただ、実際に投資家が負担した手数料は「実質コスト」です。
信託報酬自体が安く抑えられていても、その他の手数料がかかり、想定以上の負担をしている場合があります。

投資信託を保有する際には、信託報酬以外に次のようなコストが発生します。

投資信託が低コストかの判断は「信託報酬」ではなく「総経費率(実質コスト)」が新常識


たとえば、アセットマネジメントOneが運用を引き継ぐ「PayPay投資信託インデックス先進国株式」の信託報酬(税込)は年0.0572%と同種ファンドの中で最安水準でした。しかし、2023年6月28日から2024年7月10日の実質コストは1.482%となっています。

<PayPay投資信託インデックス先進国株式の実質コスト>

投資信託が低コストかの判断は「信託報酬」ではなく「総経費率(実質コスト)」が新常識
PayPay投資信託インデックス先進国株式の運用報告書より

「その他費用」の欄を見ると、PayPay投資信託インデックス先進国株式の資産は「海外における保管銀行等に支払う有価証券等の保管及び資金の送金・資産の移転等に要する費用」、要するに保管費用が1.422%と高いことがわかります。



2024年4月から、投資信託の目論見書に「総経費率」が記載されるようになりました。
総経費率とは、投資信託の運用にかかった費用を合計した総経費を平均純資産総額で割ったものです。

「総経費率≒実質コスト」と考えて問題ないのですが、総経費率はあくまで概算であり含まれていない費用もあります。

目論見書の注には、

投資信託が低コストかの判断は「信託報酬」ではなく「総経費率(実質コスト)」が新常識


と一般的に記載されます。

非常に軽微ではあるので気にする必要はないのですが、総経費率と実質コストの数字が完全に一致はしない点には留意しておきましょう。

移管された投資信託はどうなる?

さて、上記で紹介した「PayPay投資信託インデックス先進国株式」は運用会社(委託者)がアセットマネジメントOneに変わります。それに伴い、投資信託約款が変更となるようです。Paypayアセットマネジメントのリリースを元に解説します。

指数の変更
運用の効率化を目指すために、「FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックス」(以下、FTSE)から「MSCIコクサイ・インデックス」(以下、MSCI)へ変更となります。

PayPayアセットマネジメントが委託していた際は、シュワブ・U.S.ブロードマーケット・ETFおよびSPDRポートフォリオディベロップドワールド(米国を除く)・ETFへの投資を通じて、FTSEへの連動を目指していましたが、今後は、アセットマネジメントOneを委託者とする「外国株式パッシブ・ファンド・マザーファンド」への投資を通じて、MSCIへの連動を目指すようになります。

新旧指数は過去のパフォーマンスにおいても高い類似性を示していることから影響は限定的と考えて良いでしょう。

信託報酬、総経費率の変更
投資対象が「ETF」から「マザーファンド」に変更することにより、これまでETF内で発生していた信託報酬の実質的な負担(年0.03%程度)が発生しなくなる一方で、マザーファンド運用に伴う業務にかかる費用が発生するため、信託報酬(税込)が年0.0572%から0.09889%へ引き上がります。

一方で、総経費率の抑制を図るために、現状ファンドで負担(投資家が実質負担)することが可能となっている各種書類の印刷、作成等に伴う費用については委託者負担とする変更が行われます。

また、投資対象が運用資産規模の大きいマザーファンドに変更されることにより、投資対象証券の売買及び保有に伴う保管費用の負担軽減も見込まれています。

<新旧の信託報酬、総経費率>

投資信託が低コストかの判断は「信託報酬」ではなく「総経費率(実質コスト)」が新常識
Paypayアセットマネジメントのリリースより抜粋

信託報酬は若干高くなるものの、総経費率がグッと下がりますので投資家にとってはポジティブな変更と言えるでしょう。

真にコストが安く、良い投資信託を選ぶポイント

信託報酬の低水準化が進んだ今、信託報酬だけで判断は禁物です。
昔の常識は、今の非常識。
なお、投資信託の実質コストは、投資信託の運用から1年経過後に出される運用報告書でわかります。低コストの新設ファンドが出てきた時は、実質コストがわからないので注意が必要です。

真にコストの安い投資信託を選ぶには、

(1)運用から1年以上経過しているファンドの中から、
(2)信託報酬で手数料の安い商品を選び、
(3)総経費率および実質コストが安いものを選ぶ

という流れがよいでしょう。

最近は「ザイオンライン」など、信託報酬・総経費率・実質コストをまとめて比較しているサイトもあるので参考にしてみるといいでしょう。

その上で、良い投資信託を選ぶポイントとして

・月次資金流入が堅調で、純資産総額と基準価額は右肩上がりのファンド
・業績が安定している「運用会社」のファンド

は抑えたいところです。
繰上償還リスクを下げることはもちろん、投資方針に沿った着実な運用が期待できます。

本稿が皆様の投資行動の参考になれば幸いです。

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