国民年金の第3号被保険者には、会社員の配偶者の専業主婦(主夫)やパート収入が一定以下の人が該当する可能性があります。該当する場合は、将来受け取れる額について注意しましょう。
本記事では、第3号被保険者と他の被保険者との違いや、廃止議論についても解説します。
国民年金の第3号被保険者とは
国民年金の第3号被保険者とは、第2号被保険者に扶養されている配偶者で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の人のことです。例えば、会社員の配偶者でパート収入が90万円の場合は、該当する可能性があります。
なお、保険料は第2号被保険者の負担分に含まれているため、第3号被保険者は個別の支払いは不要です。
そもそも国民年金制度とは
国民年金制度とは、20歳以上60歳未満の人が皆加入しなければならない公的年金制度のことです。
老齢・障害・死亡でその人や家族の生活に支障をきたさないように保障することが、制度の主な目的です。また、基本的に対象年齢の人たちが保険料を納め、その保険料を高齢者へ給付する仕組みで成り立っています。対象年齢に該当していても、一定の要件を満たす場合は保険料の免除制度や納付猶予制度などを適用可能です。
国民年金の加入者は、条件によって第1号被保険者・第2号被保険者・第3号被保険者のいずれかに該当します。
第3号被保険者に該当するための条件
以下の条件を満たす場合に、第3号被保険者に該当します。年齢や年収面でも条件が設けられている点に注意しましょう。
・第2号被保険者に扶養されている配偶者
・年収が130万円未満
・20歳以上60歳未満
なお、上記の条件を満たしている場合でも、厚生年金保険の加入要件に該当する場合は、第3号被保険者の対象外です。厚生年金(保険)とは、会社などに勤務する人が加入する年金を指します。
第3号被保険者と他の被保険者の違い
2023年度時点で、国民年金(基礎年金)の加入している人約6,745万人のうち、第3号被保険者は約686万人です。残りは、第1号被保険者か第2号被保険者のいずれかに該当します。
ここで、第3号被保険者と第1号・第2号被保険者の違いを理解できるように、それぞれの対象について押さえておきましょう。
第1号被保険者の対象
第1号被保険者の主な対象は、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の自営業者・農業者・学生・無職の人や、その配偶者(*)です。保険料は納付書や口座振替、クレジットカードなどにより、自身で支払わなければなりません。
2023年度における第1号被保険者の加入者数は、約1,387万人です。
*厚生年金保険などに加入していないこと、第3号被保険者でないことが条件
第2号被保険者の対象
第2号被保険者は、厚生年金保険・共済組合などに加入している会社員や公務員が主な対象です。保険料については、勤め先が加入者の給料から天引きし、会社負担分とあわせて納付します。
第2号被保険者の年金制度は、2階建てが特徴です。対象年齢の人たちがすべて加入する国民年金(基礎年金)に加え、厚生年金保険にも加入しています。
2023年度における第2号被保険者の加入者数は、約4,672万人です。
国民年金第3号被保険者に関する手続き
国民年金第3号被保険者は、以下に該当する場合に手続きが必要です。
・第3号被保険者になったとき
・第3号被保険者でなくなったとき
・海外に転居するとき
手続きの概要や流れについて、簡単に紹介します。
第3号被保険者になったとき
結婚や妊娠などをきっかけに現在の勤め先を退職したり、パートの収入が減少したりすることによって第3号被保険者になったときは、手続きをしなければなりません。第3号被保険者の配偶者(第2号被保険者)が、勤め先に申請して手続きを進めます。
万が一手続きが漏れていると、年金の未納期間が発生して将来受け取る年金額に影響を及ぼすことがあるため、注意が必要です。
第3号被保険者でなくなったとき
第3号被保険者に該当しなくなったときも、理由次第では手続きが必要になることがあります。手続きが必要な具体例は、以下の3つです。
・1.第2号被保険者の配偶者がリタイアするケース・個人自営業者として独立するケース・65歳を超えるケース・亡くなるケース
・2.第2号被保険者の配偶者と離婚するケース
・3.自身の収入が一定基準を上回るケース
1・2や3の一部では、第1号被保険者として市区町村の年金窓口で、手続きをしなければなりません。就職や労働時間・賃金増をきっかけに、勤め先の厚生年金保険などに加入して第3号被保険者から第2号被保険者になる場合は、市区町村窓口での手続きは不要です。
なお、2や3のケースでは、別途配偶者(配偶者であった人)が勤め先へ届出なければなりません。
海外に転居するとき
海外に転居するときも、配偶者(第2号被保険者)が勤め先に届出が必要です。
2020年4月1日から、海外に住んでいる間は原則として第3号被保険者として認められなくなりました。ただし、特例に該当する場合は引き続き第3号被保険者になれます。
特例の主な対象は、留学する人や海外赴任する第2号被保険者に同行する人、働く以外の目的で一時的に海外渡航する人などです。また当初対象者であっても、離婚して被扶養配偶者でなくなった場合は該当しません。
国民年金の第3号被保険者が押さえておくべきこと
国民年金の第3号被保険者は厚生年金保険の上乗せ分がないため、配偶者(第2号被保険者)と比べて、将来受け取れる給付が少ないことを押さえておきましょう。2025年度における計算では、仮に20歳から60歳までの40年間ずっと第3号被保険者として保険料を納めていた場合、将来受け取れる年金額は年間831,700円(月額69,308円)です。
また、第1号被保険者のように、国民年金基金を活用して上乗せ給付を受け取る方法がないことも理解しておかなければなりません。国民年金基金とは、自営業者やフリーランスなどが、将来老後に必要な生活費が不足することに備えて、公的年金を上乗せする制度のことです。
国民年金基金について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
国民年金基金とは?加入するメリットや国民年金との違いについて解説
国民年金の第3号被保険者制度が廃止される可能性は?
2025年4月23日現在、国民年金の第3号被保険者制度の廃止は決まっていません。ただし、廃止に関する議論が度々出ることはあります。
ここで、廃止議論が生じる理由や廃止された場合の影響、関連するトピックについて押さえておきましょう。
第3号被保険者制度の廃止議論が起こる理由
第3号被保険者制度の廃止議論が起こる理由のひとつが、第3号被保険者は第2号被保険者が代わりに保険料を支払っている点です。一方、第1号被保険者や第2号被保険者は、自身で保険料を納付しています。
また、片働き世帯を優遇しているとの見解があることも、廃止議論が起こる理由です。第3号被保険者制度があることで、パートタイム従業員が働き控えをすることにつながるとの考え方もあります。
廃止された場合に対象者に及ぼす影響
仮に第3号被保険者制度が廃止されると、対象者は新たに保険料を支払わなければなりません。
もし、従来第3号被保険者だった人も個人自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者と同額の保険料を支払う必要が生じると、家計にとって大きな負担になるでしょう。例えば、2025年度の国民年金保険料の金額は、1カ月あたり17,510円です。
なお、2024年12月に開催された社会保障審議会年金部会では、年金法改正案に第3号被保険者の廃止を盛り込まない方針を明らかにしています。ただし、将来的な廃止を含めて、今後も議論が重ねられるでしょう。
第3号被保険者制度廃止に関連するトピック
第3号被保険者制度廃止に関連するトピックのひとつが、社会保険の適用拡大です。
従来、パート・アルバイトで社会保険の適用対象となりうるのは、101人以上の企業で働く人でした。しかし、2024年10月から社会保険の適用が拡大されたため、今後は従業員数51~100人の企業でパートやアルバイトとして働く人も対象となる可能性があります。
対象となる従業員の主な条件は、以下の通りです。
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・所定内賃金が月額8.8万円以上
・2カ月を超えて雇用される見込みがある
・学生ではない
第3号被保険者制度が廃止にならなくても、第3号被保険者だった人が、今後上記条件を満たすことにより第2号被保険者になることはあるでしょう。
今後第3号被保険者が減少する可能性がある
国民年金の第3号被保険者とは、第2号被保険者に扶養されている配偶者で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の人のことです。第3号被保険者に該当する人や第3号被保険者になる予定の人は、厚生年金保険の上乗せがない分、配偶者(第2号被保険者)と比べて将来受け取れる給付が少ないことを理解しておきましょう。
また、第3号被保険者制度廃止に関する議論が度々起こっている点も注目すべきポイントです。現状、第3号被保険者制度の廃止は決まっていません。ただし共働き世帯が増えたり、社会保険の適用範囲が拡大されたりすることで、今後第3号被保険者が減少する可能性はあります。
今後も議論が重ねられる見込みのため、随時第3号被保険者制度に関するニュースをチェックしましょう。
参考:日本年金機構「国民年金の「第1号被保険者」、「第3号被保険者」とは何ですか。」
参考:日本年金機構「年金用語集 た行 第3号被保険者」
参考:政府広報オンライン「年金の手続。国民年金の第3号被保険者のかたへ。」
参考:日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。