子の看護休暇とは、主に子どもを看護することを目的に取得する休暇を指します。2025年の法律改正に伴い、対象の範囲が広がりました。
本記事では、子の看護(等)休暇制度の概要や、利用条件などについて詳しく解説します。
子の看護休暇とは
子の看護休暇とは、病気にかかった子どもや、けがをした子どもを看護することなどを目的に取得する休暇を指します。制度の根拠にあたる法律は、「育児・介護休業法」です。
ここから、育児・介護休業法の概要や、子の看護休暇と介護休暇の違いについて解説します。
関連する法律「育児・介護休業法」とは
子の看護休暇に関する規定は、育児・介護休業法で定められています。育児・介護休業法とは、労働者が家庭と仕事を無理なく両立できるようにするための法律です。
1995年に育児休業法が改正され、育児休業と介護休業に関する内容を盛り込んだ育児・介護休業法が成立しました。その後、度重なる改正を経て、現在に至ります。直近でも、2024年5月に改正がありました(2025年4月より段階的に施行)。
なお、育児・介護休業法は略称で、正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
子の看護休暇と介護休暇の違いとは
子の看護休暇と介護休暇の主な違いとして、対象とする家族が挙げられます。
介護休暇とは、要介護状態の家族を介護したり、世話をしたりするために取得する休暇です。介護休暇は「配偶者 ・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫」と幅広い家族が対象になるのに対し、子の看護休暇では対象が「子」に限定されます。
なお、取得できる日数が1年間に5日まで(対象が2人以上いる場合は10日まで)である点は、どちらも同じです。
【2025年4月~】子の看護休暇に関する法律改正のポイント
2025年4月1日に、改正された育児・介護休業法が施行されました。改正に伴い「子の看護休暇」の名称が「子の看護等休暇」と変更されています(「等」が追加)。
子の看護休暇について、法律改正に関するポイントは主に以下の通りです。
・対象者や取得事由の範囲が広がる
・賃金・取得可能日数・単位に変更はない
それぞれ解説します。
対象者や取得事由の範囲が広がる
育児・介護休業法の改正に伴い、子の看護休暇を取得できる対象となる子どもや、取得事由の範囲が広がる点がポイントです。
従来、小学校就学の始期に達するまでの子どもの看護でしか、子の看護休暇を取得できませんでした。一方、改正に伴い、条件が小学校3年生修了までに延長されています。
また、取得事由についても「病気・けが・予防接種・健康診断」に入園式や卒園式なども加わる点が重要です。名称が「看護等」になったことからもわかるように、看護以外でも取得できるように制度が変わっています。
さらに、労使協定の締結で除外される労働者の範囲が狭まりました。従来、「継続雇用期間が6カ月未満の労働者」は、労使協定の締結で除外される可能性がありましたが、改正後は撤廃されています。ただし、「週の所定労働日数が2日以下の労働者」は、依然として労使協定の締結による除外の対象です。
取得するための細かな条件については、「子の看護休暇制度を利用する条件」で詳しく解説します。
賃金・取得可能日数・単位に変更はない
法律が改正されても、子の看護(等)休暇を取得する場合の賃金・取得可能日数・取得単位に変更はありません。
年次有給休暇と異なり、休暇中に有給にするか無給にするかの規定は法律で定められていないため、従来通り各企業が有給にするか無給にするか判断します。また、取得可能日数は1年間に5日まで(対象の子どもが2人以上の場合は10日まで)です。
子の看護休暇制度を利用する条件
子の看護休暇(等)制度を利用するには、いくつかの条件を満たさなければなりません。改正後の条件を以下にまとめました。
・対象:小学校3年生を修了するまでの子ども
・取得事由:子どもの病気・けが・予防接種・健康診断、感染症に伴う子どもの学級閉鎖など、入園式・入学式・卒園式への参加
なお、利用条件は育児・介護休業法第16条の2に明記されています。
子の看護休暇の取得方法
子の看護(等)休暇を取得する際は、申出書を会社に提出します。会社にフォーマットがない場合は、厚生労働省の様式を活用するとよいでしょう。
申出書には、子どもの氏名・生年月日・申出理由・取得する日時などが必要です。当日急に子どもが病気にかかった場合は電話で会社に伝え、後日出勤した際に提出します。入園式や卒園式への参加のように日時が決まっている場合は、事前に提出しましょう。
参考:厚生労働省 大分労働局「モデル例・様式集(雇用環境・均等室)」
子の看護休暇を取得する際の注意点
会社によって子の看護(等)休暇を有給にするか無給にするかが異なるため、事前に就業規則などで確認しておきましょう。厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、子の看護休暇制度を取得した場合の扱いについて、「無給」が65.1%、「有給」が27.5%、「一部有給」が7.4%でした。
また、原則として自分が希望した日時で看護(等)休暇を取得できることも理解しておきましょう。年次有給休暇と異なり、会社側は労働者に対してほかの時季での取得を依頼する権利(時季変更権)はありません。
育児・介護休業法改正で子の看護休暇以外に変わった内容
育児・介護休業法の改正では、「子の看護休暇」だけでなく以下の内容も変更されています。
・所定外労働を制限する対象の拡大
・短時間勤務の代替措置としてテレワークを追加
・育児休業取得状況公表を義務付ける企業の範囲の拡大
・事業者に対する新たな義務の追加
それぞれ押さえておきましょう。
所定外労働を制限する対象の拡大
育児・介護休業法の改正に伴い、所定外の労働を制限する対象が拡大されています。所定外労働の制限とは、家族が一定の要件を満たす労働者から請求された場合に、会社は所定労働時間を超えた労働をさせられなくなることです。
従来、3歳未満の子どもを養育する労働者が対象でしたが、改正に伴い小学校に入学する前の子どもを育てる労働者までが対象に含まれます。例えば、5歳の子どもがいる労働者が請求した場合に、会社は1カ月につき24時間、1年につき150時間を超える労働をさせられません。
なお、所定外労働の制限は「子」だけでなく、要介護状態にある家族を介護するために申請した場合も適用されます。
短時間勤務の代替措置としてテレワークを追加
育児・介護休業法の改正で、短時間勤務の代替措置としてテレワークが追加されました。
そもそも、3歳未満の子どもを育てている労働者で育児休業していない人から申し出があった場合に、会社は短時間労働で育児しやすくするための措置を講じなければなりません。今回の改正により、短期間勤務の代わりの方法として、始業時刻の変更に加えて在宅勤務などの措置(リモートワーク)が加えられています。
関連して、3歳未満の子どもを育てる労働者で育児休業していない人が、在宅勤務を選択肢に入れられるように会社が必要な措置を取るよう努めなければならなくなりました(努力義務)。
育児休業取得状況公表を義務付ける企業の範囲の拡大
育児・介護休業法の改正に伴い、育児休業などの取得状況を公表しなければならない企業の範囲が拡大しています。
従来、従業員数が1,000人を超える企業に、育児休業などの状況を公表する義務が課されていました。改正後は、従業員数が300人を超える企業も状況を公表しなければなりません。
公表内容は、育児休業などの取得率です。任意で、育児休業平均取得日数を公表し、自社をPRするケースもあります。
事業者に対する新たな義務の追加
ここまで紹介した内容以外にも、法律改正に伴い事業主に対していくつかの義務が追加されました。
まず、事業主は3歳から小学校就学前の子どもを育てる労働者に対し、柔軟な働き方を実現するための措置を講じなければなりません。
また、事業主には仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取や配慮も義務付けられています。本人や配偶者が妊娠・出産を申し出たタイミングや、子どもが3歳の誕生日を迎える1カ月前までの1年間に、意向聴取が必要です。
子の看護休暇等は小学校3年生までの子どもが対象
子の看護休暇とは、病気にかかった子どもや、けがをした子どもを看護することなどを目的に取得する休暇のことです。ただし、育児・介護休業法の改正に伴い、子の看護等休暇に名称が変わりました。
法律改正に伴う主な変更点は、対象が小学校就学の始期に達するまでの子どもから小学校3年生修了までの子どもに延長された点、取得事由に入園式・卒園式への参加など看護以外も追加された点などです。万が一子どもが病気になったときなどに備え、あらかじめ勤め先の休暇制度を確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「育児休業制度 特設サイト」
参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」
参考:厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。