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インデックス型の投資信託を広めた評論家

本書は、2024年に亡くなった経済評論家である著者が、息子に宛てた手紙、という形で若い世代への示唆を語る一冊だ。

著者の山崎元さんは、『ほったらかし投資術』などの著作で知られる経済評論家である。個人投資家や一般消費者に向けて資産形成の方法や金融ビジネスの仕組みを伝え続けていたところが彼の特徴だった。

いまでは常識になりつつある、インデックス型の投資信託を積み上げるような方法が広がったのも、彼の文章の功績が大きい、とさまざまな人が語る人物である。

そんな経済のプロが、「大学一年生になる息子」に宛てた手紙として書いたのが、本書となる。

経済のプロが、これから20歳を迎える若い世代への手紙を書いた 『経済評論家の父から息子への手紙』


そんな経緯でできた本なので、経済学の専門的な知識がなくとも、読者が自然と経済の仕組みやキャリアを作るときの考え方を理解できるように工夫されている。優しく語りかけられているうちに読み進めてしまう本書は、ある意味で、経済初心者にとって経済の仕組みを理解する入門書となっている、とも言える。

経済のプロが、息子に伝えたかったこと

本書で繰り返し説かれるのは、「資本主義経済はリスクを取りたくない人が、リスクを取ってもいい人から利益を吸い取られるような仕組みになっている」ということだ。

これだけ読むともしかすると誤解を招く表現になってしまうかもしれない。しかし、実際に資本主義社会で株式投資をするとき、リスクを取ることを避けては通れない。預金を株式に替えるとき、かならず損をする可能性はある。そのリスクをいかにバランスよく取り入れるか、を著者は幾度も息子に伝えようとしているのだ。

それゆえに、株式に関わることが重要で、そのための働き方を選ぶこともおすすめされている。が、このような働き方を選ぶかどうかは個人の自由だ。本書は決して生き方の正解を説いている本ではない。そうではなく、著者が経済評論家として息子に伝えたいことを、とにかく真摯に、優しく、伝えようとしている。

その結果として働き方や株式との関わり方も綴られているところが、本書の魅力となっている。

自分は何を幸福だと思うか言語化せよ

また、お金の問題だけでなく、将来的にどうやって幸福を得るか、というところまで著者は説く。

著者いわく、自由とお金はトレードオフになりやすい。そのなかでいかに自分のバランスを得ていくかが重要なのだという。

さらに「仲間に承認されること」は幸福感に寄与しやすいが、劇薬でもあることが強調される。認められたり褒められたりするともちろん嬉しいが、そこにとらわれすぎると人は不自由になってしまうという。

自己承認感には、他人との比較に陥りやすいという、回避の難しい問題がある。なかなか、「そこそこ」では、安心と満足を同時にもたらしてはくれない。対策は、何らかの比較から意図的に「降りる」ことだ。父は、主として所有不動産の比較から意図的に降りた。

(山崎元『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』/Gakken)

たしかに他人と比較し始めると、どこまで行っても終わりのない、満足の得られない状態になってしまう。――ではどうすればいいのか。

著者は他人との比較にとらわれすぎないためにも、「自分にとって、どのようなことが嬉しくて幸福に感じるのかに気づく」ことが重要であると説く。さらに、自分にとって何が幸福か考えたら「それを言語化しておこう」と言うのである。

一人一人、幸福な瞬間は違う。嬉しさを感じるタイミングは異なる。だからこそ、それを言語化し、そこに合わせて自分のキャリアや時間の使い方を調整していくことが重要だと本書は語る。

本書の構成は、著者が息子に宛てた手紙という形をとっているため、基本的に親しみやすい語り口だ。しかし読みやすいながら、伝えようとしていることは、タフでシビアな資本主義の原理原則であったり、幸福になることを怠けてはいけないという厳しいメッセージであったりする。そこには、若い世代にこそ本当のことを伝えたい、手加減せずに伝えるべきことを書く、という著者の姿勢が垣間見える。

本書を通して、経済の仕組みに興味をもったり、自分のキャリアや時間の使い方について考えたりする人が若い世代に一人でも増えることを祈りたくなる、そんな一冊である。

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