学習指導要領の改訂等に伴い、学校でも金融教育が盛んな昨今。「東証マネ部!」では、教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追っていく。
今回は、お金の仕組みを学べるマネー学習アプリ、「まねぶー」開発陣を直撃。ゲームを通して社会の仕組みを学ぶこのアプリの開発の経緯とは――? 株式会社medibaの中村啓次郎氏と、株式会社ORSOの高田和彦氏にご登場いただいた。
ゲーム内のリアルな体験を通して、経済の仕組みを知る

乙武 「まねぶー」の制作に関して、お二方の会社はそれぞれどのような棲み分けで協業されているのでしょうか。
中村 我々、株式会社medibaはKDDI株式会社の子会社で、今回の「まねぶー」の企画立案を担う立場になります。そして、実際の制作につきましては、もともとゲームコンテンツの開発領域に長けた株式会社ORSOさんの力をお借りした、ということですね。
乙武 なるほど。その「まねぶー」ですが、あらためてどういうゲームなのか、簡単にご説明をお願いできますか。
中村 「まねぶー」はマップ上に点在する店舗で、プレイヤーがお仕事体験をしたり、アプリ内通貨「マネブ」を使ってお買い物をしたり、ゲーム感覚でお金の仕組みを学ぶことができる学習アプリです。架空の店舗だけでなく、一部、実在の店舗も出店しているのも特徴です。なお、対象年齢は「3~8歳」に設定しています。
乙武 身近に実在する店舗で働いたり、買い物をしたりという、リアルな体験を通して経済の仕組みを知るということですね。
中村 そうですね。たとえばお仕事体験では計算してお客さまにお釣りを渡したり、買い物体験では手持ちのお金で何がどれだけ買えるのかを考えたり、実践的にお金に関する知恵を身に付けることができます。
乙武 ちなみにこの「まねぶー」が、いかにゲームとして優れているかということに繋がるエピソードだと思うのですが、50歳になるうちのスタッフが昨晩、試しにプレイしてみたら夢中になってやり込んでしまい、あっという間にレベル10に達するほどハマっていました。対象年齢は3~8歳なんですよね?(笑)
高田 それは嬉しいですね(笑)。けっこうやり込まないとそこまでレベルが上がらないはずなので。
「ヒトに“HAPPY”を」の理念に基づいた取り組み

乙武 そもそもこの「まねぶー」は、どのような経緯で開発されたものなのでしょうか。
中村 KDDIグループとして、SDGsの4番目にあたる「質の高い教育をみんなに」への貢献を検討し始めたことがきっかけのひとつになります。ちょうど社会的にも、老後2000万円問題に端を発し、資産運用の重要性に対する注目が高まっていましたし、小中高での金融教育導入といった動きがあったことから、子どもの金融教育に白羽の矢を立てた形ですね。
乙武 教育とひとくちにいっても、外国語教育もあればプログラミング教育もあり、なかなか幅広い分野だと思います。そのなかで金融教育にフォーカスした要因は何ですか?
中村 私たち40~50代から見ると、投資の重要性がことさら強く言われるようになったのは、本当にここ数年のことだと思います。でも、関心を持ってこなかった人にとっては、何から始めればいいのかわからず、心理的ハードルが高いのが実情です。そこで、なるべく早期からそうしたテーマに触れられる環境が作れたら、我々世代のように大人になってから困る人を減らせるのではないかと考えたんです。
乙武 たしかに、いまだに銀行預金の残高を見て満足している人は、少なくないですものね。
中村 そうなんです。それに、弊社のクレドに「ヒトに“HAPPY”を」というミッションがありまして、ここにもシンクロする事業になるだろう、との思いもありました。
乙武 では、子どもたちにお金の大切さや経済の仕組みを伝えるうえで、このようなゲーム形式を採ったのはどのような理由がありますか。
高田 弊社がオファーを受けた時点で、ターゲットは子ども、そしてよりカジュアルにお金に関する知識が得られるコンテンツを、という前提が決まっていました。それならゲームが一番だろうと、そのあたりはわりと自然に着地したように思います。
中村 最初にオファーを差し上げたのが、2019年の終わり頃だったように記憶しています。そして「まねぶー」の正式リリースが、2021年の6月になります。
乙武 すると、実質1年強で企画からローンチまで漕ぎ着けたわけですね。
高田 そうですね。まずベータ版を作って、それを元にmedibaさん側でユーザーアンケートを募ってもらい、得られたデータを活用して本開発に移行した、という流れになります。
乙武 現在までの反響や成果はいかがでしょう。
中村 いまの時点で15万ダウンロード(※2024年12月時点)まで来ました。それなりの数字ではありますが、まだまだ伸ばせると思っています。
「お買い物」は誰もが親しんできた行為

乙武 開発にあたって意識したことは何ですか。
高田 「まねぶー」はお金に関することを“勉強する”ものではなく、ゲームという媒体を使って、楽しみながら“触れてもらう”ことに主軸を置いています。そうしてまずは自然に興味を持ってもらうことが大前提ということですね。
乙武 しかし、子どもたちにお金や経済に関心を持ってもらうというのは、決して簡単なことではないのでは?
高田 おっしゃる通りなのですが、お買い物という行為自体には、誰しも幼い頃から馴染みがあるはずです。親御さんと一緒にスーパーへ行くという体験もあるでしょうし、テレビでも「はじめてのおつかい」というコンテンツがヒットしています。それに、家庭で初めて経験するお手伝いとしても、買い物はわりと定番だと思いますから、そのあたりはあまり心配していませんでした。
乙武 お買い物を疑似体験してもらいさえすれば、決して小難しいことではない、と。
高田 そうですね。そしてその疑似体験を通して、基本的なお金の流れや商売の仕組みに触れてもらう。これが最大のコンセプトです。だからこそ、わかりやすいものであることが絶対条件でした。
乙武 対象年齢が3~8歳となれば、そこは欠かせないですよね。
高田 大人の感覚で作ってしまうと、絶対に理解されない部分が出てきますから。

乙武 また、子どもを対象にするといっても、実際には未就学児から18歳の高校生まで幅広い層が「子ども」として括られると思います。そのなかでどこにターゲティングするかという点については、どのような議論があったのでしょうか。
中村 お買い物体験を通して早期に経済を知るというコンセプトからすると早いほどいいですから、3~8歳をイメージするのが妥当だろうと、すんなり決断しました。
乙武 しかし、3歳というとかなり幼い印象もあります。
中村 そうなのですが、最近の子どもはiPadを感覚的に使いこなしていたりしますから、意外とすんなり適応してくれるのではないかという期待もありました。
乙武 なるほど、たしかにそうかもしれません。親のiPadで勝手にYouTubeを見ているような子どもも、珍しくないですものね。後編ではゲームとしての「まねぶー」のさらなる詳細と、その世界観について掘り下げていきたいと思います。
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