高校進学時の授業料負担を軽減する制度として注目されているのが「高等学校等就学支援金制度」です。子どもの進学費用に不安を抱える保護者も多く、「制度の対象になるのか」「申請方法や支給額はどうなっているのか」といった疑問の声も少なくありません。
本記事では、このような不安や疑問を解消するために、高等学校等就学支援金制度の仕組みや受給条件、注意点を丁寧に解説します。あわせて、東京都や大阪府などの自治体が独自に設けている補助制度についても紹介し、家庭の経済状況に応じた制度の活用方法をわかりやすくお伝えします。
高等学校等就学支援金制度とは
高等学校等就学支援金制度とは、国が高校などに通う生徒に対し、就学支援金を通じて授業料の一部もしくは全部を支援する制度のことです。高等学校等就学支援金制度は、主に以下の仕組みで成り立っています。
1. 生徒が学校に申請書や保護者の課税証明書を提出する
2. 都道府県が学校に対して就学支援金を支給する(国は就学支援金の費用を都道府県に交付)
3. 学校側が生徒の代わりに就学支援金を受け取り、授業料にあてる
なお、支給額や支給要件は年度によって変更されることがあるため、最新の情報を都度確認しなければなりません。
高等学校等就学支援金制度が「高校無償化」と呼ばれる理由
高等学校等就学支援金制度は、「高校無償化」と表現されることもあります。2010年に高等学校等就学支援金制度が始まったことに伴い、要件を満たす家庭は公立高校の授業料が実質無償となったことが主な理由です。
高等学校等就学支援金制度は、公立高校にも私立高校にも適用されます。私立高校は授業料が高く、制度開始当初は就学支援金で全額を賄えませんでした。
しかし、2020年より加算されたことで、授業料が高額でない限りは私立高校でも実質無償化を実現しています。また、2025年、2026年と段階的に所得制限が撤廃されるため、さらに支給範囲が広がる見込みです。
就学支援金を受給できる条件
高等学校等就学支援金制度の就学支援金を受給するための条件は、以下の通りです。
・在学要件
・所得(収入)要件
それぞれ解説します。
在学要件
高等学校等就学支援金制度における在学要件とは、「日本国内に在住していること」「高校などに在学していること」です。
国公私立の高等学校・高等専門学校・特別支援学校の高等部・専修学校などが「高校など」の具体例として挙げられます。すでに高校を卒業している場合や、3年(定時制や通信制は4年)を超えて在学している場合などは、対象外です。
なお、高校専攻科(※)の生徒には、2020年度から「専攻科の生徒への就学支援」が始まっています。
※高校卒業以上の学歴を持つ人が専門的な知識を学ぶ場
所得(収入)要件
もともと、高等学校等就学支援金制度における世帯要件とは、「学生の世帯年収が910万円未満であること」です。ただし、2025年度については年収約910万円以上の世帯の生徒に対して「高校生臨時支援金」が支給されるため、所得制限の一部が事実上撤廃されています。
一方で、私立高校に加算される支援額を受け取れるのは、2025年度においても年収約590万円未満の生徒が対象である点に注意が必要です。ただ、2026年度以降は、就学支援金の上限額の所得制限についても撤廃が見込まれています。
就学支援金の支給額
就学支援金の支給額は、公立高校と私立高校で異なります。それぞれ押さえておきましょう。
公立高校の場合
公立高校(全日制)の場合は、支援金の限度額は月9,900円です。基本的に公立高校の授業料は9,900円程度のため、対象者に対しては高校の無償化を実現できています。
なお、公立高校(定時制)の限度額は月2,700円です。また、単位制の公立高校の場合は、全日制が1単位4,812円、定時制が1単位1,740円が限度額として定められています。
私立高校の場合
2025年度では、世帯年収が590万円未満であれば年間396,000円、世帯年収が590万円以上であれば年間118,800円を限度に受給可能です。そのため、同じ学校でも無償化を実現できる場合と、一部授業料の負担が必要な場合があります。
2026年度からは、上限額の所得制限についても撤廃される見込みです。撤廃された場合は、世帯年収に関係なく年間396,000円を限度に受給できます。
なお、2025年度時点で単位制の私立高校に通う生徒は、世帯年収が590万円未満であれば1単位16,040円(加算額11,228円)、世帯年収が590万円以上であれば1単位4,812円が支給額の限度です。
通信制高校の場合
公立の通信制高校の場合、支給額の限度は月520円もしくは1単位336円です。また、私立の通信制高校の場合は、私立高校と同様に世帯年収に応じて支給額が異なります(2025年の場合)。
世帯年収が590万円未満であれば年間297,000円もしくは1単位12,030円(加算額7,218円)、世帯年収が590万円以上であれば年間118,800円もしくは1単位4,812円が受給額の限度です。
高等学校等就学支援金を申請する方法
高等学校等就学支援金を利用するためには、原則としてパソコンやスマートフォンを使用してのオンライン申請が必要です。入学時に学校から案内を受けてから、保護者のマイナンバーカードを使用するか個人番号を入力した上で、保護者の収入状況を登録します。
生徒の通う学校がオンライン申請に対応していない場合は、紙での申請が必要です。紙で申請する際は、受給資格認定申請書やマイナンバーカードの写しなどを学校に提出します。
高等学校等就学支援金制度を利用する際の注意点
高等学校等就学支援金制度を利用するにあたっては、以下の点に注意しなければなりません。
・支援金受給までのお金を用意しなくてはならない
・就学支援金は保護者の口座には入らない
・授業料以外の学費は対象にならない
・自治体独自の制度もある
各注意点について、解説します。
支援金受給までのお金を用意しなくてはならない
高等学校等就学支援金を受給するまでのお金は、保護者で用意しなければならない点に注意しましょう。
支援金の申請手続きを進めるのは、原則として4月です。高校に入学してから手続きするため、入学直後に支払う授業料については、まず保護者の手元にある資金から工面しなければなりません。
一般的に、高等学校等就学支援金制度の適用は、7月以降です。
就学支援金は保護者の口座には入らない
就学支援金が、保護者の口座には入らない点にも注意しましょう。就学支援金は、授業料の一部もしくは全部として学校側に支給されることが原則です。
なお、高等学校等就学支援金制度の手続き前に保護者が支払った数カ月分の授業料については、手続き完了後に保護者に返金されます。返金時期は学校によって異なるため、不明な点は確認しましょう。
授業料以外の学費は対象にならない
授業料以外の学費は、高等学校等就学支援金制度の対象外となる点にも注意が必要です。
高校生活を送るにあたっては、授業料以外にも入学金・教材購入費・制服代・交通費・学校納付金などさまざまな費用がかかります。たとえ高等学校等就学支援金制度を利用して私立高校の学費を無料にできたとしても、その他の費用が高額であれば家計の負担になるでしょう。
自治体独自の制度もある
自治体が、独自に学費を支援している制度もあります。居住する自治体で適用できる制度はないか、入学前に確認しておきましょう。
また、高校生等奨学給付金は、高等学校等就学支援金制度以外で国が支援している制度です。授業料以外の学費が高額で家計を圧迫しかねない場合などには、選択肢のひとつになる可能性があります。
地方自治体独自の支援制度の例
東京都では、都内在住で私立高校などに在学する生徒の保護者に対し、授業料軽減助成金を助成しています。支給上限は、国の「就学支援金」と都の「授業料軽減助成金」を合わせて、都内私立高校平均授業料相当(全日制・定時制課程は年額484,000円)です。年収によって国の就学支援金が少なくなっても、その分授業料軽減助成金が増えるため、東京都では所得関係なく私立高校の授業料を軽減できるようになりました。
なお、「都内在住」が要件のため、近隣県から東京都の私立高校に通う高校生は制度適用の対象外です。一方、東京都在住の高校生であれば、東京都以外の私立高校に通う場合でも、支援を受けられます(通信制過程を除く)。
大阪府でも、大阪府のすべての子どもを対象に、私立高等学校等授業料支援補助金を交付しています。授業料630,000円までは所得に関係なく授業料が無償、630,000円を超える部分については所得や学校などの要件を満たした場合(※)に無償になる点が特徴です。2026年度以降は、世帯の所得や授業料に関係なく、無償化を実現します。
※2024年度・2025年度で大阪府外の対象校に通う場合、授業料が63万円を超える分については保護者の負担
高等学校等就学支援金制度とは国が授業料を補助する制度
高等学校等就学支援金制度とは、国が高校などに通う生徒に対し、就学支援金を通じて授業料の一部もしくは全部を支援する制度です。
要件を満たす場合は、手続きすることで高校授業料の無償化を実現できる可能性があります。ただし、授業料以外の学費は対象にならないため、高等学校等就学支援金を受けてもそのほかの費用が高額で家計を圧迫する可能性がある点に注意が必要です。
子どもの進学に備え、あらかじめ貯蓄や資産運用などを検討してみてはいかがでしょうか。
参考:文部科学省「高校生等への修学支援 高等学校等就学支援金制度」
参考:文部科学省「高校生等への修学支援 高等学校等就学支援金制度に関するQ&A」
参考:東京都「所得制限なく私立高校等の授業料支援が受けられます 6月20日からオンラインで申請開始」
参考:大阪府「令和6年度以降に段階実施する授業料支援制度について」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。