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株主が集まり、企業にとっての重要事項を決定する場となる「株主総会」。かつては広い会場が用意され、株主が直接そこに集まる形で開催されていた。



しかし、コロナ禍の2021年に施行された「産業競争力強化等の一部を改正する等の法律」により、「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)」の開催が特例として認められるようになった。政府もバーチャルオンリー株主総会の実施を推奨しているが、企業の導入はどのように進んでいるのだろうか。

バーチャル株主総会総合支援サービスを提供しているSharelyの取締役・大島啓司さんに、バーチャル株主総会の現状や個人投資家が参加しやすい工夫について伺った。

参加のチャンスが広がる「バーチャル株主総会」

「Sharelyでは、バーチャル株主総会(※)の際に活用できるプラットフォーム『Sharely』の提供、バーチャル株主総会に向けた準備の伴走やプロジェクト管理などの総合支援を行っています。プラットフォームの『Sharely』では、株主の方々からの質問や動議、議決権行使などの株主総会に欠かせない事項をはじめ、株主からもアクションを起こせるようになっています」(大島さん・以下同)

個人投資家のメリットが大きいらしい「バーチャル株主総会」とは
画像提供/Sharely 「Sharely」でバーチャル株主総会を開催した際のイメージ画像。

※バーチャルオンリー株主総会だけでなく、会場とバーチャル上の同時開催となるハイブリッド型株主総会も含む。

最近は、ユーザーとなる企業の要望を受けて、決算説明会や株主向けのイベント、従業員向けの説明会といった場をバーチャル上に設けるサービスもスタートしている。

「企業の最高意思決定機関となる株主総会は、法律によって議事内容や進行方法などに関するルールが定められています。法律をクリアして株主総会の場を提供できているSharelyは、そのほかのイベントでも問題なく利用できると評価していただいています。株主総会などを実施する際には、参加される株主の方々にアンケートを実施することもあるのですが、バーチャルでの開催は概ね好評です」

従来の株主総会は、会場で直接企業の取締役に質問できるというメリットがあった一方、場所や時間の制約があり、参加したくてもできない株主がいるという課題があった。

「その点、バーチャル株主総会であれば、参加・出席機会の多様化が確保されます。仕事や家事、育児で会場に行けない人や遠方に住んでいる人でも、バーチャル上に会場があることで参加しやすくなり、株主として質問したり議決権を行使したりすることができるようになるので、海外に住む株主も含めてポジティブな声が多く見られます。これは例外的ではありますが、複数の株式を有している方の場合、株主総会が同日の同じ時間に開催されるとすべてに参加することは不可能でしたが、バーチャルであれば同時に視聴することができるというメリットもあります」

視聴デバイスの変化も見えてきているそう。

2021年頃はバーチャルで参加する株主の約8割がパソコンから視聴し、スマートフォンでの視聴は2割程度に留まったが、2024年の各社の平均ではパソコンが約4割、スマートフォンが6割程度に変化したとのこと。企業によっては、バーチャル参加の株主の約8割がスマートフォンから視聴していたという。

「より気軽に参加している株主の方々が増えているのだと思います。このような変化もありますし、政府もバーチャルオンリー株主総会の普及を掲げているので、バーチャル株主総会を取り入れる企業は増えてくるのではないかと感じています。2023年7月から2024年6月にかけて、アメリカで開催されたバーチャル株主総会の97%はバーチャルオンリーというデータも出ています。日本ではそこまで大きな規模に拡大することはないかもしれませんが、バーチャルオンリー株主総会はこれまで以上に普及していくでしょう」

バーチャルだからこそスムーズに進行しやすい「質疑応答」

従来の株主総会は、参加してくれた株主に対してお土産が用意されていたり、その日限りのイベントが開催されたりしていたが、バーチャルオンリーとなると難しいのではないだろうか。

「直接お土産などをお渡しすることは難しいですが、企業によってはeギフトを提供しているところもあります。また、物理的な特典以外にも、バーチャルだからこそのメリットは多くあると考えています」

バーチャル株主総会ならではのメリットのひとつが、事前質問の受付だ。総会当日に会場で質問するとなると、「恥ずかしくて手を挙げられない」「思い付かずに質疑応答が終わってしまう」「話がまとまらない」と感じる人は多いだろう。事前質問であれば、あらかじめ考える余裕があり、文章にまとめるため支離滅裂になりにくい。

個人投資家のメリットが大きいらしい「バーチャル株主総会」とは
画像提供/Sharely
バーチャル株主総会で質問を送る際のイメージ画像。

「事前質問は株主の方々にとってのメリットであると同時に、企業にとっても株主総会をスムーズに進行するための要素となります。バーチャル株主総会を実施し、事前質問を受け付けたマネックスグループからは、『事前質問によって傾向を把握できるので、想定問答をつくるうえでの参考になった』という声が上がっています。

総会のスタートと同時に質問を受け付ける企業もあり、議事内容を見ながら思い付いたタイミングで質問を送れるよさがあるといえます」

事前質問の場合、基本的にテキスト形式で、企業側が一方的に回答する形になるため、若干無機質な印象が出てしまう。そこを改善するべく、バーチャル株主総会でありながら口頭での質問を受け付けている企業も出てきている。

「半導体メーカーのルネサス エレクトロニクスでは、『株主様とのコミュニケーションをできるだけ密に行いたい』という思いから、テキスト形式だけでなく口頭での質疑応答も実施されています。出席された株主の方からは『生で直接経営陣と話せてよかった』という声が上がっていました。事前質問などのバーチャルのメリットを活かしつつ、従来の株主総会のよさを残す方法を試行錯誤していく段階にあるのだと思います」

個人投資家向け施策のキーワードは「二部制」「開会時間」

個人投資家のメリットが大きいらしい「バーチャル株主総会」とは
画像提供/Sharely
ハイブリッド型株主総会のイメージ。

個人投資家に向けて、バーチャル株主総会ならではの施策を取り入れている企業も出てきている。例えば、二部制の導入だ。

「株主総会を行った後、第二部として事業戦略説明会や懇談会のような場を用意する企業が増えてきています。株主総会はルール通り進めなければならず、企業側も最低限のことしか説明できない部分があるので、ルールに縛られない第二部を設定するのです。今後の戦略について話したり事業責任者が株主と交流したりする場を設けることで、より企業の思いが伝わり、つながりが深まると考えられます。第二部からは株主以外の方も視聴できるようにして、広く事業について発信している企業もあります」

バーチャル株主総会を行うことで、これまでの常識にとらわれない総会の在り方が模索され、「開会時間」も変わりつつあるという。

「『株主総会は10時開始』という定説がありますが、法的には時間に関するルールはありません。

個人投資家が仕事の前に見られるように時間を早める企業や、海外の投資家も参加しやすいように夕方に開始する企業も出てきています。午後からのスタートにすることで当日リハーサルが可能になり、役員の拘束が1日で済むという企業にとってのメリットもあります」

法律との兼ね合いで、まだ実現には至っていないが、株主総会とメタバースを掛け合わせる取り組みも動き始めているそう。

「メタバースプラットフォーム『XR CLOUD』を提供しているmonoAI technologyの事例では、メタバースの会場を用意し、株主総会のバーチャル会場に併設したこともあります。今後法律が変わっていけば、投資家の皆さんがさらに参加したくなるようなユニークな株主総会が増えてくるのではないかと感じています」

法律の変化とともにハードルが高いイメージが払しょくされ、個人投資家も参加しやすくなってきている株主総会。興味のある企業がどのような総会を実施しているか、調べてみるのも面白そうだ。

(取材・文/有竹亮介)

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