「106万円の壁」ギリギリで働いたら社会保険料はいくら?の画像はこちら >>


2024年末、厚生労働省が「106万円の壁」を撤廃する案を年金部会で示し、大筋で了承された。撤廃の想定時期は2026年10月とされている。



「106万円の壁」とは、一定の条件を満たした場合に社会保険料(厚生年金保険料や健康保険料)が発生する収入条件のこと。「106万円の壁」がなくなるということは、いずれ働く人の多くが社会保険料を納めなければいけなくなるということ。

収入以外の条件も改正される予定となっているため、今後の変化について、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに教えてもらった。

「社会保険料の納付」=「将来への備え」

社会保険への加入が義務付けられ、社会保険料を支払わなければならなくなる条件は、次のように定められている。

●社会保険加入の条件
□給与(通勤手当や残業代を含まない)が月額8万8000円以上
□週の勤務が20時間以上
□2カ月を超えて働く予定がある
□学生ではない
□従業員51人以上の企業で働いている

「実は2024年10月に社会保険適用が拡大され、『従業員51人以上の企業』も対象となりました。それまでは『従業員101人以上の企業』が対象だったのですが、範囲が広がったので、社会保険加入の条件を満たす人が増えたといえます」(川部さん・以下同)

「社会保険料は負担が大きい」といわれるが、実際はどの程度の社会保険料が発生するのだろうか。ひと月8万8000円稼いだと仮定して、計算してみよう。

「東京都の『令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表』の本人の負担分を見てみると、月収8万8000円の人の健康保険料が月4360円、厚生年金保険料が月8052円となっています。40歳以上で介護保険にも加入する場合は、健康保険料が月5060円になります」

40歳未満であれば健康保険料と厚生年金保険料をあわせて年間14万8944円、40歳以上の場合は年間15万7344円となる。それだけの社会保険料が年収から差し引かれるため、年間の手取りは90万円前後。「106万円の壁」をギリギリ超えない年収105万円の人と比べて多く働いているにもかかわらず、手取り額は15万円程度も下がってしまうのだ。

「手取りが減って損しているように感じられますが、社会保険料を納めているということは、老後に一生涯受け取れる厚生老齢年金が増えることにもつながり、長生きを見据えるとメリットがあります。ただし、年収が106万円を少し超えたくらいだと105万円以下のほうが手取りは多くなり、損をしたように感じてしまうので、働くのであればもっと思い切って稼ぐことをおすすめします」

ちなみに、従業員50人以下の企業で働いている場合は、年収130万円以上稼ぐと社会保険加入が義務付けられ、社会保険料が発生する。

年収130万円(月収10万8334円、40歳未満とする)の場合の東京都の健康保険料は月5450円、厚生年金保険料は月1万65円となり、年間の社会保険料は18万6180円。手取りが111万円を超えるため、ここまで稼ぐと「106万円の壁」も気にならなくなるかもしれない。

「撤廃される条件」と「残される条件」がある

冒頭でも紹介した通り、2026年10月には「106万円の壁」の撤廃が予定されている。正確には「給与(通勤手当や残業代を含まない)が月額8万8000円以上」という条件が撤廃となるため、そのほかの条件を満たさなければ、社会保険加入義務は発生しない

ただし、収入以外の条件の一部も撤廃されるという。

「2027年10月には『従業員51人以上の企業で働いている』が撤廃され、2029年10月には『従業員5人以上の個人事業所』も社会保険加入の対象になる予定です。つまり、今後は企業規模に関係なく、給料をもらって働いている人の多くが社会保険の加入対象になるということを意味しています」

ここで重要なのが、「給料をもらって働いている人全員」ではなく「給料をもらって働いている人の多く」が加入対象となる点。

「『週の勤務が20時間以上』『学生ではない』という条件は残される予定なので、週2~3日だけ数時間のパート・アルバイトをしている人や学生は社会保険の加入対象に含まれません。今後のライフプランや働き方などを踏まえて、条件に当てはまるか確認してみましょう」

「男性稼ぎ主モデル」から「個人モデル」への転換期

いくつかの条件は残されるが、基本的には給料をもらって働く人の多くが社会保険に加入することになる。いままさに、社会が変化し始めているのだ。

「これまでの日本は、主に夫が働いて家計を支え、妻が夫の扶養に入る『男性稼ぎ主モデル』を前提として制度が設計されていました。しかし、社会保険をはじめとした公的制度が大きく変化しようとしているいま、夫婦それぞれが個々に備えていく『個人モデル』に移行していくのだと考えられます。それぞれが働いて社会保険料などを納め、給付なども個別に受け取る形が主流となっていくでしょう」

変化の一例として、遺族年金も挙げられる。これまで30歳以上の女性が夫と死別した場合は無期限で遺族年金を受給できた一方で、男性は55歳未満で妻と死別した場合は給付なしとされていた。

しかし、遺族厚生年金の見直しにより、男女問わず「原則5年間の有期給付」となる。

「これまでは専業主婦にやさしい制度となっていましたが、共働き世帯が増えていますし、少子高齢化も進んでいるため、遺族年金の長期間給付が見直されたのだと考えられます。性別に関係なく、個々に生きる力を付けることができる時代になっているといえるかもしれません」

社会や制度の変化を受けて、準備すべきことはあるだろうか。

「男性も女性も、本格的に『夫婦の片方が家計を支え、片方が家庭に入る』という考え方を改めるときが来ているといえます。制度が変わるタイミングなどもチェックし、夫婦がともに働き、ともに備えていくことを前提に、ライフプランや働き方を考えていくことが重要です。互いにどう考えているのか、話し合うことから始めてみましょう」

働き方に関する前提が大きく変わろうとしている。制度を知るだけでなく、現在の働き方だと負担が増えるのか、どのような保障を得られるのかといったことも踏まえて、今後を考えていけるといいだろう。

(取材・文/有竹亮介)

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