NISAやiDeCoといった制度によって、始めやすくなった株式投資。NISAの成長投資枠を活用して個別株を購入するにしても、iDeCoなどで投資信託を活用するにしても、気になるのは値動きだ。
「株式投資のポイントは、途中で売却せずに市場に居続けることです。株式を長く保有することで、値上がりするタイミングを逃すリスクを避けられます」
そう教えてくれたのは、『年に471万円が入ってくる「鉄壁配当」後悔ゼロの“早期リタイア計画”』(KADOKAWA)の著者である日本の配当株専門の個人投資家・長期株式投資さん。株式を保有し、市場に居続ける意義について、詳しく聞いた。
「優良な銘柄を適正な価格で購入し長期保有」がカギ
2004年に個別株投資をスタートした長期株式投資さん。銀行の預貯金が低金利だったことがきっかけで、投資を始めたという。
「当時、社会人3~4年目で、銀行にお金を預けていても増えないなら、何かしら運用しなくてはと考えたんです。初めて買った銘柄は、玩具メーカーのタカラ(現タカラトミー)でした。その頃は深く企業研究したわけではなく、名前を知っている会社の株で慣れようという感覚が強かったです。タカラは株主優待があり、株価も手頃だったので選びました」(長期株式投資さん・以下同)
結果的にタカラの株式は長く保有せず、適当なタイミングで売却したそう。ほかの銘柄にも投資しながら、投資関連の雑誌や会社四季報などで情報を集め、株式投資のコツをつかんでいった。
「現在のようにSNSが普及しているわけではなかったですし、周囲に株式投資をしていることを大っぴらにしている人もいなかったので、地道に情報を集めるしかなかったですね。実践も重ねていくなかで、短期売買は大きな利益を生むときもあれば損失になるときもあり、手間暇がかかる割にパフォーマンスにつながらないことがわかり始めました。
長期株式投資さんは複数の銘柄を保有しており、長いものでは2007年頃から保有し続けているものもあるとのことだが、「優良株」はどのように見極めているのだろうか。
「特定の業界のなかから利益率の高い会社、業績が安定していて利益を上げ続けている会社をピックアップします。指標としては、1株当たりの純利益を意味する『EPS』や、利益と比べて割安かどうかを見る『PER(株価収益率)』を参考にしています。『EPS』が安定的に推移して、『PER』が1桁台にある企業の株式が好ましいと考えています。また各業界の優良株を見つけ、業界の偏りがないように複数の株式に投資することでリスクを抑えています」
「長期投資」によって得られる可能性が高まる「圧倒的リターン」
投資にはさまざまな商品や手法があるが、株式投資ならではの魅力を聞くと、「圧倒的なリターン」という回答が返ってきた。
「株式を長期的に保有すれば、年平均6%強のリターンが期待できます。一般的に株式投資はリスクが高いものというイメージが強いですが、長期保有することでリターンの振れ幅が平均値に収れんしていくので、リスクを抑えながらリターンを得ることができると考えられます。この特性を理解していれば、資産形成の大きな力となってくれるでしょう」
単に株式を買えばいいというわけではなく、「長期保有」がポイントだという。値上がりしそうな株式を狙って購入し、上がったタイミングで売却する短期的な投資だと、リターンはさらに大きくなりそうだが、実際は難しいのだろうか。
「投資のプロでも株価の変動を正確に予測することはできないので、確実に上昇のタイミングを狙って投資するのは困難だと考えましょう。また、ひとつの銘柄に一点集中させる方法は、見事に株価が上がれば大きなリターンとなりますが、万が一下落した場合に壊滅的な損失を被るリスクも秘めています。株式投資を行うのであれば、複数の銘柄に分散して投資し、長く保有することをおすすめします」
長期的な株式投資は「リターンが期待できるだけでなく、インフレ対策にもなる」と、長期株式投資さんは話す。
「インフレによって物価が上がると、基本的には企業の売上も上がり、営業利益や『EPS』も増加。
インフレは、株式投資においては追い風になり得るというわけだ。さらに、「お金の価値を下げない」といった効果も期待できる。
「現在の預貯金は金利が低いので、銀行口座に預けていてもほとんど増えません。一方、インフレで物価は上がっていくので、そのままだと購買力が下がってしまいます。資産の一部で株式投資をしていれば、資産を増やせる可能性があるので、お金の価値を下げずに購買力も維持できると考えられます」
例えば、銀行口座に100万円預けている間に、100万円で購入できる商品が120万円に値上がりした場合、預けていた金額は変わらないが、預貯金の価値は下がったといえる。このような状況を避けるためにも、資産を増やす選択肢である株式投資が有効といえるのだ。
「株価がもっとも上がった日」を逃さないための長期保有
株式への長期的な投資は、リターンを平均化するだけでなく、大きなリターンを逃さないといったメリットもあるという。
「チャールズ・エリスの著書『敗者のゲーム[原著第8版]』では、『もっとも上昇したベスト10日(検証期間全体のわずか0.1%にも満たない)を逃すだけで、リターンの平均水準は11.4%から9.2%へと低下する。ベストの上昇日をさらに20日間逃すと、リターンは9.2%から7.7%へと低下してしまう』と記されています。つまり、『もっとも上昇した日』をつかむことができれば大きなリターンを得られるということですが、先述したように投資のプロでも狙ってつかむことは難しいものです」
「もっとも上昇した日」をつかむには、市場に居続けることが重要になるのだ。
「株価が上がらないからといって売却してしまうと、その後に株価が上がった際のリターンを得ることができません。
もし、売却せずに株式を保有し続けていれば、「もっとも上昇した日」をつかむことができ、リターンの平均水準も上がる。
「長期投資を実践したからといって、『敗者のゲーム』にあるような11.4%のリターンを得られるとは限りませんが、年平均6%程度のリターンを得ることはできるでしょう。株価の変動で一喜一憂し、売却してしまう気持ちもわかりますが、長く保有するという意識を持つことが株式投資のコツではないかと考えています」
20年以上にわたって株式投資を実践してきた長期株式投資さんが行きついたのは、「長く保有すること」。後編では、初心者が陥りがちな失敗や具体的な投資術について伺う。
(取材・文/有竹亮介)