注目の人生戦略「DIE WITH ZERO」ってどんなお金の...の画像はこちら >>


米コンサルティング会社CEOのビル・パーキンスの著書『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ダイヤモンド社)が、世界的なベストセラーとなっている。

「ゼロで死ね。」という衝撃的なタイトルを冠しているが、実際にはどのような考え方なのだろうか。

そして、なぜ支持されているのだろうか。『50代から考える お金の減らし方』(成美堂出版)の著者でマネーコンサルタントの頼藤太希さんに聞いた。

資産を残しがちな日本人こそ取り入れたい考え方

「『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』は“死ぬまでにお金をどう使い切るか”というテーマで書かれた本で、お金の『貯め方』ではなく『使い切り方』に焦点を当てています」(頼藤さん・以下同)

ビル・パーキンスは「どんなにお金を貯めても、あの世にお金は持っていけない。お金を残して死ぬということは、得られたはずの経験を手放すのと同じこと。惜しみなく経験や思い出にお金を使っていこう」と説く。

「ビル・パーキンスがこの本を書いたのは、FIRE(経済的自立と早期リタイアを目指すライフスタイル)へのアンチテーゼではないかといわれています。若いうちに節約して資産をつくって早期退職するのではなく、若い間こそ価値の高い経験にお金を使うべきではないかと投げかけているのです」

日本に目を向けると、資産を残して亡くなる人が多いとのこと。

「内閣府が公表している『令和6年度 年次経済財政報告(経済財政白書)』によると、日本人の金融資産額は60~64歳でピークを迎え、65歳時点の平均額が1800万円、中央値が1000万円となっています。そこから老後資金として使われて減っていくと思われますが、実際は80歳時点で1~2割程度しか減っていないのです」

平均寿命から考えると、80歳以上で保有している資産のほとんどがそのまま残されている可能性が高いといえる。ちなみに、紹介してもらったデータに不動産は含まれない。

「日本人は『将来困らないためにお金を貯めておこう』と考える方が多いと推測されるからこそ、『DIE WITH ZERO』の考え方を取り入れることで、いままでよりもずっと生活が充実するのではないかと考えられます」

ちなみに、日本人の貯金志向を高めているもののひとつに、かつて話題になった「老後資金2000万円問題」がある。

「2000万円という数字は、2017年の総務省『家計調査報告』で示された高齢無職世帯(夫婦)の1カ月の収入と支出の平均額をもとに算出されたものです。2024年の同調査を見てみると、夫婦2人で1200万円程度備えていれば足りるという計算になるので、想定より余裕があると感じる人もいるのではないでしょうか。

これはあくまで平均額なので、自身の生活水準や老後のライフスタイルなどを加味して考える必要はありますが、漠然と2000万円貯めようとするのはもったいないでしょう」

若いうちこそ効果のある「記憶の配当」「幸せの配当」

ビル・パーキンスは「若いうちに経験にお金を使うべき」と説いているが、仮に同じ価格で同じ場所に旅行に行くのであれば、年齢は関係ないのではないだろうか。

「年齢を重ねるごとに体力や身体能力が低下していくため、『いまはお金を貯めて、定年退職したら旅行に行こう』と思っていても、いざ定年を過ぎると『体力もないし体も痛いし、家でゆっくりしていよう』という思考になりかねません。40代以降は前頭葉が萎縮し、好奇心そのものが低下するともいわれているので、思い立ったときに行動に移すことが大切です」

さらに、若いうちに経験することで、「記憶の配当」「幸せの配当」を得ることができるという。

「『記憶の配当』『幸せの配当』というと難しく聞こえますが、金銭的な投資と同じように複利効果が得られるということです。旅行先で得た経験が仕事に活きたり、習い事でできた人脈がどんどん広がっていったりする可能性がありますし、早い段階で経験したことは現役で働いているうちから老後まで長く活かすことができます。大それた自己成長のようなことでなくても、経験による思い出が積み重なるほど幸せを感じ、幸福度は高くなると考えられます」

旅行などのレジャーに限らず、自己投資といわれるような習い事や資格取得に使うのもいい。「いつかやろう」と思っていることを、いまやってみることが大切なのだ。

現役の間から「健康」にお金を使うのも、一種の投資といえるだろう。

「若いうちから健康に投資することで、病気やケガの予防になり、年齢を重ねたときにも身体能力の低下を食い止めることができるでしょう。そうすることで想定よりも長く働けたり、医療費や介護費を抑えたりすることにつながるので、結果的に長い間自分でお金を稼ぎながら、さまざまな経験を積むことができるといえます」

いまのうちにやっておきたい「お金を使う練習」

若い間から経験を積んだほうがいいとはいえ、やみくもにありったけのお金を使えばいいというわけではない。

「病気やケガに見舞われたときのためのお金や今後のライフイベントや老後のためのお金を備えたうえで、経験にもバランスよくお金を使っていくことが重要です。節約しすぎると負担に感じてしまうので、まずは日々の生活費や将来的に必要なお金を確認するところから始めてみましょう」

これまで節約を徹底してきたため、いざお金を使おうとしても、何に使えばいいかわからないという人も多いのではないだろうか。

「お金を使う練習をすることも大切です。

自分が何にお金を使ったときに、どの程度の満足感や幸福度を得られるのかということがわかると、お金の使い道が見えてくるはずです。ポイントは、少し贅沢なお金の使い方をしてみること」

外食をするのであれば、リーズナブルなファミリーレストランではなく高級焼肉店にも行ってみる。普段使う時計も、数千円のものではなく数十万円のものを買ってみる。飛行機のビジネスクラスや新幹線のグリーン席を使ってみる。少し頑張れば手が届く範囲の贅沢をしてみるのだ。

「贅沢をした結果、満足度が高いと感じたら、それがあなたにとっての合理的なお金の使い方といえるでしょう。あまり満足できず、無駄遣いと感じるのであれば、そこはお金をかけるべきではないところと判断できます。お金を使った経験が少ないと、老後に派手に使いすぎてしまったり、逆にお金を使うタイミングが読めずに貯め込んでしまったりする可能性があります。お金を使い、慣れていくことも大切なステップです」

漠然とした不安を抱え、ついついお金を貯め込んでしまう人は多いだろう。しかし、それでは物足りない人生になってしまうかもしれない。お金の使い道を考えることが、第一歩となりそうだ。

(取材・文/有竹亮介)

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