世界的ベストセラーとなっている『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ダイヤモンド社)で書かれているのは、「お金を残して死ぬということは、得られたはずの経験を手放すのと同じこと。惜しみなく経験や思い出にお金を使っていこう」という考え方。
ただし、注意が必要なのは、あるだけお金を使えばいいというわけではないこと。亡くなるときに資産ゼロになるよう、バランスよくお金を備えながら使うことが重要だ。そのために、現役の間からできるお金の備え方について、『50代から考える お金の減らし方』(成美堂出版)の著者でマネーコンサルタントの頼藤太希さんに教えてもらった。
第一歩となる「必要なお金の見える化」
「老後が心配だからといってやみくもに貯金すると、経験や思い出にお金を使いにくくなります。とはいえ、全部使ってしまうと、老後が心配ですよね。そこで、まずは必要なお金を『見える化』しましょう。今後発生するであろうライフイベントや老後の働き方などを考え、備えておくべき金額を明確にすることが第一歩となります」(頼藤さん・以下同)
結婚資金やマイホームの購入費、子どもの教育費などの支払うお金だけでなく、定年退職時の退職金や老齢年金、さまざまな補助金など、受け取れる可能性のあるお金も把握することで、本当に備えるべき金額が見えてくる。
「老後は医療費や介護費がかかるため、たくさん備えておいたほうがいいと思う方も多いでしょう。厚生労働省が公表した『医療保険に関する基礎資料(令和3年度)』によると、生涯にかかる医療費約2800万円のうち、およそ半分となる1400万円程度は70歳以上で発生すると推計されています。ただし、これは医療費の総計であり、自己負担額はもっと少なくなります」
病院や処方箋薬局で保険証を提示すると、医療費は原則3割負担となる。さらに、70歳以上は原則2割負担(※)、75歳以上は原則1割負担(※)となるため、年齢を重ねるほど医療費の負担は軽くなる。
※所得に応じて2割負担、3割負担となることがある。
「高額な医療費が発生した場合は『高額療養費制度』を利用できるので、毎月数十万円の医療費がかかるということもありません。
介護費も見てみよう。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2024年度)」によると、介護に必要な器具の購入や住宅リフォームなどの一時費用の平均が47万円、月々の介護費の平均が9万円。平均4年7カ月の介護期間と照らし合わせると、介護費の合計は542万円となる。
「介護費も介護保険の給付があり、原則として1割負担となります。介護保険サービスの利用料が高額になった場合には、一定の上限額を超えた分が払い戻される『高額介護サービス費』もあります。そのため、データよりも自己負担額を抑えられる可能性があります。ただし、支給限度額を超えた部分に関しては、全額自己負担となることを覚えておきましょう」
「必要な老後資金」を導き出す計算式
「お金の見える化」の考え方はわかったが、実際にはどのように必要なお金を導き出すといいだろうか。
「自分にとって必要な老後資金を、次の計算式で見積もってみましょう」
●用意しておきたい老後資金額の計算式
ステップ1
現在(現役世代)の年間支出×0.7=老後の年間支出(A)
ステップ2
(A-老後の年金額)×老後の年数=最低限必要な老後資金(B)
ステップ3
B+医療費・介護費(夫婦で1000万円、単身で500万円)=用意しておきたい老後資金額
「ステップ1の『0.7』という数字は、総務省の『家計調査(家計収支編)(2023年)』を参考にしています。70歳以上の夫婦の生活費は、現役世代(50~59歳夫婦)の71.6%というデータが出ているので、現在の支出に0.7をかけることで、老後の支出を大まかに把握できるというわけです。老後は子どもの教育費や住宅ローンの返済がなくなるため、支出が減るのだと考えられます。裏を返すと、老後も住宅ローンの返済が続く方や賃貸住宅に住む方は、もう少しお金がかかるといえるでしょう」
ステップ2に出てくる「老後の年金額」は、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できる。現時点でどの程度の年金を受け取れるのか、チェックしておこう。
「医療費・介護費に関しては、先述した内容を考慮して、1人当たり500万円程度備えておくと安心だといえます。最低限用意しておきたい金額を明確にすることで漠然とした不安が解消され、使えるお金も見えてきます。あてのない節約をすることなく、経験にお金を使うことができるでしょう」
資産を築くコツは「金融資産への投資」
用意しておきたい金額を把握したら、あとは実践するのみ。とはいえ、何から始めたらいいのだろうか。
「人によって用意しておきたい金額は異なるので、一概にはいえませんが、夫婦2人で現預金とは別に1000万~1500万円の資産を目指すケースを例に考えてみましょう」
ポイントは「現預金とは別に」という点。頼藤さんは「金融資産への投資で、お金に働いてもらうことが大事」と話す。
「給与を増やすのは時間がかかりますし、副業を行うにしても時間の限界がありますよね。節約で支出を抑えるのも、最低限のラインがあります。一方、金融資産への投資であれば、自分自身が働かなくてもお金が増える可能性があります。また、物価上昇による資産の目減りを防ぐ効果も期待できるため、インフレ対策にもなります」
「長期」「積立」「分散」を意識した投資を実践するとともに、50代までは株式などでの積極的な資産形成がカギになるという。
「もしものときのための生活費6カ月分を現預金で確保しつつ、60歳までに投資資産500万円を築くのが第一の目標となります。60歳以降は引き続き500万円を運用しながら、労働収入の一部(月1万~5万円程度)を積立投資に回し、年3~4%の利回りで運用することができれば、70歳までに1000万~1500万円を築くことが可能だといえるでしょう」
ちなみに、ここで重要なのが「お金を使うこと」。
「余裕資金を経験や思い出に使うことが前提ではありますが、運用資産が想定よりも大きくなっているようであれば、そのなかから取り崩すのもひとつの方法です。その場合は、年間利回りを超えない範囲で使いましょう。例えば、年間利回りが4%であれば、資産の4%を取り崩しても元本を減らさずに済むからです。投資を行うことで、経験や思い出に回せるお金も増えるといえます」
必要なお金を見える化したうえで、そこに向かって資産形成していくのが理想の形だ。そして、使っていいお金は思い切って経験・思い出に充てる。そうすることで、金銭的な不安を解消しつつ、充実した日々を送れるようになるだろう。
(取材・文/有竹亮介)