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ここ数年で日本のキャッシュレス化も大きく進み、日常的に電子マネーを使っているという人は多いのではないだろうか。

電子マネーにもさまざまな種類があるが、Suica、PASMOなどの「交通系電子マネー」やWAON、nanaco、楽天Edyなどの「商業系電子マネー」は、事前に現金をチャージして支払うタイプ。

ある程度の金額をまとめてチャージすることもあるだろう。

万が一、チャージした電子マネーを残したまま事故などにあって命を落としたとしたら、その電子マネーはどうなるのだろうか。電子マネーの相続について、Authense法律事務所の堅田勇気弁護士に聞いた。

「利用規約」によって相続できるかどうかが決まる

故人が残した「電子マネー」は相続財産になるのか?


「相続財産とは、原則として不動産や骨とう品、現金、有価証券など、形のある資産を指します。形のない電子マネーはそもそも所有権の有無が微妙なものなので、必ず相続できるとはいえません。というのも、サービスを提供している事業者によっては、名義変更や払い戻しを禁止している場合があるからです」(堅田弁護士・以下同)

代表的なサービスでは、利用者が亡くなった場合にどのような対応を取っているのだろうか。

●Suica
利用者が亡くなった場合、代理人による払い戻しが可能。「利用していた本人の死亡を証明する公的機関発行の書類」「代理で返金を受ける人の本人確認書類」のコピーを郵送し、専用フォームから申請すると、返金を受けることができる。

●PASMO
利用者が亡くなった場合、代理人による払い戻しが可能。専用フォームから申請した後、「利用していた本人の死亡を証明する公的機関発行の書類」「代理で返金を受ける人の本人確認書類」のコピーを郵送すると、返金を受けることができる。

●WAON
イオン銀行で相続の手続きを行うことで、WAON残高が返金される。相続手続きにはさまざまな書類や実印が必要になるため、イオン銀行のホームページで確認しよう。

●nanaco
以前は規約に「利用者が死亡した場合、残高はゼロとなり、払い戻しは行われない」と書かれていたが、現在はその条文が削除されている。

払い戻しの可否は、運営元のセブン・カードサービスに確認しよう。

●楽天Edy
残高がある場合、遺族がそのまま使い切ることを推奨している。

「利用規約によって払い戻しが認められている場合は、払い戻された現金を相続するという考え方になります。受け取ったお金は適当に管理せず、相続財産として扱いましょう。以前のnanacoのように、利用者が亡くなった際に残高がゼロになるサービスでは電子マネーが存在しないことになるため、相続もできません」

故人が残した「電子マネー」は相続財産になるのか?


ちなみに、法的には電子マネーをはじめとするデジタル遺産の相続に関して、明確な規定がないという。

「デジタル遺産は普及したばかりのもので、後期高齢者では使っていない方も多いため、法律ではまだ明確に規定されていません。サービスを提供している各社の利用規約などをもとに判断している状況です。今後、デジタル遺産の相続に関するトラブルや問い合わせが増えていくと、法改正やルールの統一が進んでいくでしょう」

残された電子マネーの無断利用は「単純承認」と見なされる

故人が残した「電子マネー」は相続財産になるのか?


サービスによっては電子マネーを払い戻すことで相続できることがわかったが、楽天Edyが推奨しているように、残高をそのまま利用してもいいのではないだろうか?

「ほとんどのサービスで利用規約に『譲渡禁止』と明記されており、利用者が亡くなった後に他者が無断で使うと契約違反となります。実際には誰が使ったかわからないかもしれませんが、万が一のことを考え、無断での利用は避けたほうが賢明でしょう」

サービスを提供する会社とのトラブルに発展するだけでなく、「相続」の観点からも残高の無断利用はしないほうがいいとのこと。

「払い戻すことで相続財産となる電子マネーを相続手続きを行わずに利用した場合、勝手に遺産を処分したことになり、『単純承認するもの』と見なされてしまいます」

単純承認とは、特別な手続きを行わずに亡くなった人が残した財産のすべてを相続する手続きのこと。重要なのが「財産のすべて」という部分。不動産や現金などのプラスの財産だけでなく、借金や未払い金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになる。

「残されているのがプラスの財産だけで、相続する想定であれば、単純承認と見なされたとしても問題ないでしょう。

しかし、亡くなった人がそれなりの額の借金を残していた場合、ほんのわずかな電子マネーを利用しただけで、その借金まで相続しなければいけなくなる可能性が出てきます。単純承認を行うと相続放棄ができなくなる、という点も押さえておきたいポイントです。マイナスの財産を引き継がないために相続放棄を行おうと考えているのであれば、少額の電子マネーだったとしても無断で利用しないようにしましょう」

電子マネーの相続を見越してやっておきたいこと

故人が残した「電子マネー」は相続財産になるのか?


万が一、自分自身が不慮の事故などで亡くなった場合、家族が遺産を整理することになる。そうなったときに電子マネーをはじめとするデジタル遺産のありかを明確にできるよう、やっておくべきことはあるだろうか。

「まずは、利用しているサービスやそれぞれのパスワードなどを、スマートフォンのメモ帳などにまとめましょう。そして、スマートフォンのロックを解除するパスワードをエンディングノートに書いたり、家族・親族以外の信頼できる第三者に伝えておいたりすることをおすすめします。近親者よりも第三者のほうがスマートフォンに近付く機会が少ないですし、相続に関係することなので近親者よりも安心感があるでしょう」

ある程度年齢を重ねて相続などを考えるようになったら、保有している資産を洗い出し、スマートフォンだけでなく、エンディングノートや遺言書にまとめておくことも重要だという。

さらに、もうひとつ、終活としてやっておきたいことがある。

「多くの電子マネーはチャージできる金額に上限があります。SuicaやPASMOは2万円、WAONやnanaco、楽天Edyは5万円に設定されています。仮に上限いっぱいまでチャージしたまま亡くなったとしても、その数万円は遺産全体から見るとわずかな額であるケースが多く、そのために家族に払い戻しなどの手間をかけるのは申し訳ないでしょう。ある程度の年齢を迎えたら、電子マネーは少額ずつチャージし、できるだけ使い切ることも終活のひとつといえます」

頑張って貯めた「ポイント」は原則として相続不可

故人が残した「電子マネー」は相続財産になるのか?


小売店やサービスを利用することで貯まるポイントも、「1ポイント=1円」のように現金と近い形で使えることが多いが、相続できるのだろうか。

「ポイントは資産ではなく、あくまで特典という性質が強く、利用規約で相続や譲渡が認められていないケースがほとんどでしょう。

ポイントを貯めていた方が亡くなった場合、どれだけ多くのポイントが貯まっていたとしても引き継がれずに消滅してしまうので、生きている間に使い切ることが大切です」

飛行機に乗ると貯まるマイルも、ポイントと同じようなイメージだが、実は相続できることが多いそう。

「航空会社の規約によりますが、多くの航空会社でマイルの相続は認められています。JALやANAのホームページには、『亡くなられた会員のマイル口座に残る有効なマイルを、法定相続人へ相続することが可能』と明記されています。マイルが残っている場合は、航空会社に問い合わせてみましょう」

各社の利用規約によって、相続の可否が変わってくる電子マネーやポイント。利用しているサービスを整理し、相続できるものに絞っておくのも、ひとつの手かもしれない。

(取材・文/有竹亮介 撮影/大庭元)

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