宇宙ビジネスが急速に発展する近年、それらに活用される人工衛星の技術革新も進んでいる。そんな中、小型衛星の開発やビジネス展開において「日本のパイオニア企業」に位置付けられるのがアクセルスペースだ。
市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。宇宙ビジネス編の本記事では、アクセルスペースのビジネスについて、同社AxelLiner事業本部 副本部長の倉田稔氏と、AxelGlobe事業本部 プロダクト&ソリューショングループの星崎ダニエル氏に聞いた。
衛星の小型化・低コスト化を実現した裏に「民生品」の活用
アクセルスペースの創業は2008年。東京大学大学院で小型衛星の技術を研究していた中村友哉氏(現代表取締役)が中心となって設立された。以来、一貫して小型衛星の開発や、それらを活用したサービスを展開してきた。
「以前の人工衛星は、重さ数トン、一辺数メートルに及ぶものが多く、開発期間も5年から長いときは10年かかるケースもありました。対して当社の人工衛星は、重さ100~200キログラム、大きさも一辺1メートルほどが主流となっています。開発期間も大幅に短縮しています」
そう話すのは、同社で人工衛星の開発を手がける倉田氏。小型化や開発のスピード化により、コストもかなり低く抑えられているという。
同社の衛星開発における特徴のひとつが、「民生品の活用」だ。民生品とは、私たち一般消費者が日常的に利用している製品のこと。
「今までの衛星は、宇宙での使用を想定して特別に開発した部品を用いていましたが、それらは作るだけでも予算と時間がかかります。そこで、人工衛星に搭載するセンサーやコンピュータなどに民生品を活用し、コストダウンやスピード化を推進しました」(倉田氏)
民生品は、たくさんの人の使いやすさを追求して作るため、小型化の技術が進む傾向にある。スマートフォンは良い例で、かつて大きなコンピュータが有していた以上の性能を、あのサイズで実現している。こうした民生品を活用することが、小型化にも貢献しているという。
加えて近年は、さらなる開発の低コスト化・スピード化を叶えるため、人工衛星の基本機能に必要な機器と構造を汎用化したシステム(汎用バスシステム)を設計しているという。
「以前は、プロジェクトの目的や顧客のニーズに合わせ、毎回新たに衛星を開発していました。しかしそれは、時間と費用がかさみます。そこで、幅広い活用が可能な汎用バスシステムを設計し、それを土台にして、プロジェクトごとに必要なカスタマイズを加えられるようにしました。個別に衛星を設計するのに比べて、半分以下の期間で開発できるケースが増えています」(倉田氏)
同社の企業ビジョンには「宇宙を普通の場所に」という文言がある。衛星開発の低コスト化やスピード化、それらをさらに加速させる汎用バスシステムの設計は、人工衛星の活用を少しでも手軽にし、誰もが宇宙を普通に使えるようにするための取り組みといえるだろう。
こうした歴史の中で、同社は累計11機の衛星を開発・運用するなど、国内でもトップクラスの実績を持っている。
衛星の開発にとどまらない、アクセルスペースの事業
小型衛星の開発からスタートしたアクセルスペースは、現在、より広い領域で事業を展開している。そのひとつが「AxelGlobe」というサービスだ。これは、同社で開発した複数の衛星を宇宙で運用し、そこで取得した地球の観測データや分析結果を企業などに提供するもの。2025年時点で5機の衛星を運用しており、2026年には、より性能を高めたな自社の衛星を7機打ち上げてAxelGlobeに活用する。
「AxelGlobeは、地球上のあらゆる場所を撮影でき、それらのデータは農業や地図制作、不動産のトレンド分析など、さまざまな用途で活用されています」。そう説明するのは、同社で衛星データの分析や提供などを行う星崎氏だ。
たとえば農業については、衛星画像をもとに、生育している農作物の健康状態を可視化するという。
植物の葉は、さまざまな波長の光を反射しており、その反射の様子を調べることで健康状態を解析できると考えられている。AxelGlobeで活用している人工衛星は、人の目に見えるものから目に見えないものまで、幅広い波長の光を捉えられるため、農作物の反射の様子を明らかにできる。そこから健康状態を分析していく。
「それらのデータを提供するのに加え、近年は、1年を通じて同じ農地を撮影し、その画像分析から収穫量を予測するモデルを開発しました。このモデルによる予測結果も提供しています」(星崎氏)
地図制作においては、さまざまな地域を撮影し、その画像を組み合わせて地図のベースにするといった活用があるという。衛星は周回しており、同じ地点を一定周期で繰り返し撮影することが可能。
不動産のトレンド分析については、衛星画像から都市構造の変化を抽出し、まちづくりのトレンドを把握したり、次の都市開発のヒントにしたりという活用方法があるという。他のデータと組み合わせて、都市構造の変化と人の動きの関係を明らかにするといったこともできるだろう。
これ以外にも、災害が発生した地域の状況把握や、陸地から離れた海上の監視など、幅広い用途でAxelGlobeが活用されている。
「わからないことばかり」の宇宙プロジェクトを一貫支援
同社のもうひとつの主力ビジネスが「AxelLiner」だ。人工衛星を活用したプロジェクトを実施する企業などに対し、計画から終了に至るまで、アクセルスペースがワンストップで支援する。
「お客さまが使う人工衛星を用意するのはもちろん、それを載せて宇宙空間に飛ばすためのロケットの手配、あるいは、宇宙上の衛星と通信する際の周波数調整、必要な法律の手続きなどを当社が一連で支援します。宇宙プロジェクトを進める上では、やらなければならないことがたくさんあり、初めての方にはわからないことばかりです。私たちがこれらを支援することで、気軽に宇宙を活用していただきたいと思っています」(倉田氏)
たとえば、最近は宇宙ビジネスの盛り上がりに合わせて、「宇宙機器の部品開発に新規参入する企業も増えています」と倉田氏。そういった企業にとっては、開発した部品をまずは試験的に宇宙空間で動かし、データを取ることが重要になる。そこでAxelLinerを検討するケースも増えているようだ。「当社の開発した人工衛星に対象の部品を載せて、宇宙空間で稼働させてみるといったことも行っていきます」。
このサービスにおいては、先述した汎用バスシステムも活用されている。
宇宙へのハードルを、もっと低くしたい
自社での衛星運用(AxelGlobe)と、外部に向けた宇宙プロジェクトの支援(AxelLiner)を行うアクセルスペース。自社運用と外部支援の両方に携わっているのが同社の特徴であり、その成果を互いに行き来させて相乗効果を生んでいるという。
そんな同社のこれからを聞かれて、倉田氏は「宇宙進出をもっとハードルの低いものにしたいと思っています」と語る。「宇宙ビジネスは盛り上がっているものの、まだ多くの方にとって“宇宙で何かを行う”のは大変なイメージがあるのではないでしょうか。私たちのサービスを進化させ、少しでも挑戦のハードルを下げていきたいですね」と話す。
一方、星崎氏はこれからの目標として、「衛星から得られるデータにどのような価値があり、どんな使い道が考えられるのか、私たちがノウハウを広めていきたい」と口にする。この言葉の裏には、衛星データの活用方法や可能性がまだ十分に知られていないという思いがある。その状況を変えることで、日本の宇宙ビジネスをより活性化させたいと意気込む。
創業から17年。小型衛星のパイオニアとして実績を積んできたアクセルスペースは、これからも“宇宙を普通の場所”にすべく、歩みを続けていく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2025年11月現在の情報です

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