労働者がキャリアアップや希望部署への異動などを目指し、資格や知識を得るために学ぶ機会のことを「教育訓練」と呼ぶ。雇用保険の被保険者やハローワークに求職の申し込みをしている人が対象となるもので、簿記やTOEIC、IT関連、介護系の資格など、学べる内容は多岐にわたる。
そして、「教育訓練」を受けやすくなる新たな制度「教育訓練休暇給付金」が、2025年10月1日にスタートした。
「教育訓練休暇給付金」とは、どのような制度なのだろうか。ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに教えてもらった。
生活費を得ながら「教育訓練」に集中できる制度
厚生労働省の資料によると、「教育訓練休暇給付金」は次のように説明されている。
労働者(雇用保険の一般被保険者)が離職することなく、教育訓練に専念するため自発的に休暇を取得して仕事から離れる場合、休暇期間中の生活費を保障する制度。
「つまり、仕事に必要な資格や知識を習得するため、自主的に休暇を取って学習に専念する場合に、日々の生活費として『教育訓練休暇給付金』が支給されるという制度です」(川部さん・以下同)
会社によっては、学習のための休暇を取得できるところもあるだろう。ただ、会社に籍を残すことができ、社会保険も維持されるが、休暇中は給与が発生しないケースもあったため、一歩踏み出せない人もいたかもしれない。「教育訓練休暇給付金」ができたことで、金銭的なハードルがぐっと下がることになる。
「近年、厚生労働省は国民のキャリア形成やリスキリングを推進する動きを見せています。例えば、2024年10月には、教育訓練の費用の一部が支給される『教育訓練給付制度』が拡充され、金銭的な負担が軽くなりました。一方で、『仕事と学習の両立が難しい』という課題も見えてきているため、一定の収入を確保しながら集中的に学べる機会を提供すべく、『教育訓練休暇給付金』が創設されたのだと考えられます。国民のリスキリングを支援することで、国の競争力を強化しようという狙いもあるでしょう」
「教育訓練休暇給付金」を受け取るための要件
ただし、「教育訓練休暇給付金」はいつでも誰でも給付を受けられるわけではないようだ。ポイントとなるのは、厚生労働省の説明にもある「労働者(雇用保険の一般被保険者)」。以下の2つの要件を満たすことで、支給の対象となる。
●「教育訓練休暇給付金」の支給対象者
(1)休暇開始前2年間に12カ月以上の被保険者期間があること(※1)
(2)休暇開始前に5年以上、雇用保険に加入していた期間があること(※2)
※1 原則、11日以上の賃金支払いの基礎となった日数がある月が算定の対象。
※2 離職期間があったとしても、12カ月以内であれば離職前後の期間を通算できる。ただし、過去に基本手当(失業給付)や教育訓練休暇給付金、育児休業給付金、出生時育児休業給付金を受けたことがある場合、通算できない期間が生じる場合がある。
「これらの要件から、就職したばかりの方は対象にならない可能性が高いといえます。また、雇用保険の一般被保険者が対象なので、1週間の所定労働時間が20時間に満たないパート・アルバイトの方や自営業の方は対象になりません。そして、もうひとつ押さえておきたいのが、休暇に関する要件です」
●「教育訓練休暇給付金」の支給対象となる休暇
(1)就業規則や労働協約等に規定された休暇制度に基づく休暇
(2)労働者本人が教育訓練を受講するため自発的に取得することを希望し、事業主の承認を得て取得する30日以上の無給の休暇(※3)
(3)次に定める教育訓練等を受けるための休暇
・学校教育法に基づく大学、大学院、短大、高専、専修学校または各種学校が提供する教育訓練等
・教育訓練給付金の指定口座を有する法人等が提供する教育訓練等
・職業に関する教育訓練として職業安定局長が定めるもの(司法修習、語学留学、海外大学院での博士号の取得等)
※3 収入を伴う就労を行った日、教育訓練休暇とは異なる休暇・休業(有給休暇や育児休業等)を取得した日は教育訓練のための休暇とは認められず、当該日については支給を受けられない。
「ポイントとなるのは(1)の項目。会社が教育訓練のための休暇制度を設けており、その制度を使って休暇を取得した場合のみ、『教育訓練休暇給付金』が支給されることになります。このような要件になっているのは、労働者が教育訓練のための休暇を取得する際、会社がハローワークに賃金月額証明書などを提出するといった手続きが発生するからでしょう。労働者が会社に申請せず、ハローワークに『休暇中に学習する』と申し出ても給付は受けられません。また、『30日以上の無給の休暇』という要件もあるので、1週間程度の短い休暇は対象になりません」
教育訓練を目的とした中長期的な休暇が支給対象となるよう、厳格な要件が定められている。ちなみに、受給期間や金額はどうなっているのだろうか。
「給付を受けられる期間は、『休暇開始日から起算して1年間であり、受給期間内の教育訓練休暇を取得した日について給付を受けられる』と定められています。つまり、休暇を開始してからの1年間は、その間に分割して休暇を取得しても、取得した日数分の給付金が支給されるというわけです。例えば、30日休暇を取り、半年間復職した後、さらに30日休暇を取るというケースであれば、60日分支給されることになります」
ただし、給付を受けられる日数は雇用保険に加入していた期間によって異なるため、取得した休暇の全日程分の給付金が支給されるとは限らない。例えば、雇用保険の加入期間が6年であれば、給付日数の上限は90日となる。
●給付日数
「給付額に関しては、失業中に雇用保険から支給される基本手当(失業給付)の算定方法と同様で、『休暇開始日の直前の6カ月に毎月決まって支払われた賃金(賞与等は除く)の合計を180で割って算出した金額のおよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)』とされており、賃金が低いほど給付の割合が高くなります。概算ではありますが、月給30万円の30歳の人なら日額6207円、月給40万円の40歳の人なら日額6666円、月給50万円の50歳の人なら日額8333円程度となるでしょう」
給付を受けると「雇用保険の被保険者期間」がリセットされる
給付金を得ながら学習できる「教育訓練休暇給付金」はメリットの大きい制度だが、注意点があるという。
「『教育訓練休暇給付金』は雇用保険から支給されるものなので、給付を受けることで休暇開始日より前の被保険者期間はリセットされます。そのため、休暇を終えてからの一定期間は、基本手当などの雇用保険の給付を受けることができなくなるのです」
失業中に基本手当の給付を受けるには、「離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12カ月以上あること」という要件がある。つまり、「教育訓練休暇給付金」の給付を受けた場合、休暇を終えてからの被保険者期間が12カ月を超えていなければ、失業したとしても基本手当は受け取れないということだ。
「休暇中に予期していなかった仕事が入ったり、副業を行ったりした場合も注意が必要です。厚生労働省の資料によると『就労を行った日については給付を受けられない』となっているので、給付額が下がります。人事担当者や同僚とコミュニケーションを取るくらいであれば就労には当たらないようなので、休暇に関する手続きなどは問題ないでしょう」
「教育訓練休暇給付金」ができたことによって、集中して学習に取り組みやすくなった。
(取材・文/有竹亮介)

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