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長寿化がもたらす人生の再設計

リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットによる共著『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)は、「資産」の考え方をぐるりと変えてくれる名著である。

寿命100年時代の人生設計を考える『LIFE SHIFT――100年時代の人生戦略』
リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)

本書のタイトルを聞いて、ビジネス書に詳しい方なら「少し前に流行った本だなあ」と感じることもあるかもしれない。その通り、日本語版が刊行されたのは2016年。

刊行からもうすぐ10年が経とうとしている。本書が提唱する「100才まで生きるかもしれない私たちの人生を、どう設計するか、考え直そう」という議題が世の中で語られはじめてからそれだけの時間が経った。

しかし10年経とうとしても、実は本書の魅力は決して色褪せない。むしろ、コロナ禍や少子化、働き方の変化を経た今の私たちこそ、もう少し丁寧に本書を掘り下げて読んだほうがいいのでは? と感じてしまうのである。

作者はこの本で何を言おうとしたのか。

それは、従来の「学習→仕事→引退」という3ステージの人生モデルが、今の人生100年時代には合ってない、ということである。

そして、今の私たちに必要なものは、実は「無形資産」を形成することだ、と作者は告げるのである。

マルチステージ型の人生を提唱する

作者のリンダ・グラットンは、人材論・組織論の専門家。そしてもう一人の作者であるアンドリュー・スコットは経済学の専門家。つまり人材教育や経済学の観点から、本書は人生100年時代について考えている。

そんな彼らが示す重要な働き方の概念のひとつに、「マルチステージの人生」がある。

これは、キャリアの途中で学習期間を設けたり、異なる職種に挑戦したりするなど、人生のさまざまな段階で、多様な活動を組み合わせる働き方のことだ。

つまり仕事をしている年齢は仕事ばかりする、終わったら引退、というはっきりしたライフステージの分け方に彼らは疑問を呈しているのである。



マルチステージ型になると何が良いのか? 新卒の時から培ってきたスキルや職務に依存していると、それが時代の変化とともに使えなくなった時のリスクが大きい。

さらに、技術革新の激しい時代においては、絶え間ないキャッチアップが必要になる。そのときマルチステージ型になっていると、50代で新たなスキルを習得し、全く異なる分野でセカンドキャリアを築くといった選択肢が現実味を帯びるだろう。

無形資産の重要性

さらに本書が強調するのは、「無形資産」への投資である。

無形資産とは、従来の金融資産のような有形資産だけが資産ではない、とする考え方である。では何が資産に加わるのか。

それは、仕事に使えるスキルや知識のような「生産性資産」。
健康や幸福といった、生きるうえでの基礎活力になり得る「活力資産」。
そして、変化への適応能力や多様な人間関係を築く「変身資産」。

これらこそが、長期的なキャリア形成と幸福な人生の基盤となる、と説くのだ。

つまり金融資産とともに、これらの無形資産への継続的な投資こそが、人生100年時代を豊かに生き抜くための鍵となる、と作者は言うのである。

言うまでもなく、活力資産や生産性資産に投資するには、金融資産が不可欠だ。だからこそ本書を読むと、なぜ自分は金融資産を増やしたいのか、増やすべきなのか、その目的が明確になるかもしれない。



日本社会全体で考えていくべき「人生100年時代」

世界有数の長寿国である日本は、「人生100年時代」の最前線に立っている。

『ライフ・シフト』は、ただひたすらに自己責任で個人で資産を増やしキャリアを設計すべきだ、と主張しているように見える。しかしページを巡ってみると、社会全体として年金制度や医療制度といった社会保障システムを持続可能な形で構築することも重要だ、と説いていることもまた確かなのである。

もちろん昔よりも、個人がリスクを適切に管理し、投資を通じて資産形成を行うことの重要性はたしかに上がっている。だが、これは個人の努力のみに委ねられるべきではないはずだ。
社会全体のセーフティネットを構築し、リスクを取っても大丈夫だと感じられる世の中にしていくことが、持続可能な経済成長に繋がる――本書を読むとそれがよくわかる。

いまや、定年まで勤め上げても40年以上人生の時間が残っているかもしれない。その人生の長さにうんざりする人もいるだろう。だが、社会全体が、その寿命の前提で組み立てる人生設計にシフトしていくことで、より多くの人が人生の長さを楽しめるようになってほしい。今回この本読んで、改めてそう感じた。

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