働きながら株式投資を継続するコツはどこにあるのだろうか。
前編では、淡々と株式投資を継続して「50歳で3億円」という目標を前倒しで達成した兼業投資家・とりでみなみさんに、これまでの経験について聞いた。
後編となる今回は、より具体的な投資手法と投資初心者が注意すべき点について伺う。
「バリュー投資」「グロース投資」でチェックする項目
とりでさんは時代の変化に合わせ、バリュー投資からグロース投資へと手法を変えていった。実際には、どのような部分に注目して投資してきたのだろうか。
「会社四季報をもとに選別することが多いのですが、バリュー投資を軸にしていた頃は、『時価総額』よりも『現金同等物』から『有利子負債』を差し引いた額のほうが多い銘柄に投資していました。いまバリュー投資をするとなるともう少し複雑だと思いますが、当時は時価総額が低い割に現金同等物をいっぱい持っている会社は安定しやすい、という考え方でしたね」(とりでさん・以下同)
グロース投資に軸を移してからは、チェックする項目が変わったという。
「『売上』『営業利益』が年々増えていて、『ROE(自己資本利益)』が10%を超えている銘柄を選んでいます。利益と資本効率がいい会社は、10年保有していると自然と株価が上がっていくという考え方です。さらに『予想PER(株価収益率)』が一桁のもので、今期よりも次期のほうが下がっているものは今後伸びる可能性が高いので、購入の決め手としています」
購入する際は情報をしっかりチェックするとりでさんだが、運用を開始すると会社の情報はほぼ見ないそう。兼業投資家として本業を優先しているからだ。ただし、そうしていると投資に対するモチベーションが下がってしまうときもあるため、ご褒美を用意していたとのこと。
「投資を始めた頃は、配当金を証券口座に入金してもらうのではなく、直接受け取る形にしていました。というのも、僕が投資を始めた頃は配当金が出る際にハガキが届いて、銀行や郵便局で引き換えてもらう仕組みだったのですが、それがご褒美のような感覚になれたんです。毎年300万円入金すると決めたものの、節約や副業をしていると心が折れそうになる瞬間もあるんですよね。
早いうちに経験した「損」が投資の指標になる
具体的な手法を教えてもらったが、とりでさんがまず初心者に勧めたいことは「株式投資をすること」だという。
「まずは投資を始めてみること。そして、早いうちに損をすることが大事だと思います。日本人の多くは資産が減る経験をしたことがほとんどないので、少額でも損が出るとパニックになると思います。その経験をすることで、資産が減る感覚を身に付けるとともに、損をしたときの感情を知ることができます。含み損でもイヤな人がいれば、含み損は耐えられるけど損切りがイヤな人がいたり、儲け損なうことがイヤな人もいます。その感情がわかると、自分に向いている手法が見えてくるんです。含み損に耐えられるならバリュー投資ができますが、含み損がイヤならグロース投資のほうが向いているといえるでしょう」
投資を始めるとなると「まずは勉強して、準備万端にしてから」と考える人は多いが、その前に始めるべきとのこと。
「『いまは相場が過熱してるから、暴落してから始める』とおっしゃる方がいますが、過熱しているときこそ参入してほしいです。そうすることで、早く損する経験を積めるから。暴落直後に始めて最初から順調に進められてしまうと、資産が増えたところで暴落などが起きてパニックになり、損した状態ですべてを売却してしまうというもっとも避けたいパターンになりやすいんです。始めたてであれば資産も少ないので、損をしても耐えやすいでしょう」
ここで大事なのが、損をしたときやパニックになって売却してしまったときなどに、自分が起こしたアクションを振り返ること。
「ただ落ち込んだり悔しがったりするのではなく、なぜそうしたのか、どんな情報を確認していれば売却せずに済んだのかということを振り返ることが大切です。『この情報を見ておけば、株価が回復する兆しを捉えられたかもしれない』ということがわかれば、同じような状況になったときに売らないという選択ができますよね。損や失敗は誰でもするので、次に活かすことが重要です」
長期投資のコツは「複数単元」「複数銘柄」を保有すること
実際に株式投資を始めてからも、意識してほしいことがあるそう。「複数単元・複数銘柄を保有すること」だ。
「僕が初めて投資したとき、ワタミの株式を1単元しか保有していなかったので、株価が上がって売却したいと思ったものの、売ってしまうと株主優待が得られないため売れなかったという経験がありました。複数単元を保有していれば、株価が上がって売却したいと思ったときに一部を売り、残りで株主優待を得るといった選択ができますし、複数単元保有することで資産も増えやすくなると思います」
「複数銘柄」は、いわゆる分散投資ということだ。ひとつの銘柄に集中させずに複数の銘柄を保有することで、リスクを抑えることができる。
「2003年4月にソニーが業績見通しの大幅な下方修正を発表し、株価が暴落してストップ安になった『ソニーショック』がありました。当時、僕もソニーの株式を保有していたのですが、アナリストも予想できなかった下方修正にショックを受け、仕事が手に付かなくなってしまったんです。『ソニーショック』のようなことってそれなりに起こるものなので、1銘柄に固執するのは危険だと学びましたね」
「複数銘柄」といっても、数十~数百銘柄も保有するわけではない。とりでさんは「10銘柄程度がちょうどいい」と話す。
「10銘柄ぐらいに分散させておくと、仮にそのうちの1銘柄の株価が50%下落したとしても、保有している株式全体で見ると10分の1、つまり5%しか下落していないことになります。複数銘柄を保有することでボラティリティ(価格変動)が下がるので、精神的な負担を感じにくく、投資を継続しやすくなります」
一方で、「これだけはしないほうがいい」ということはあるだろうか。
「SNSで話題になっている銘柄を買うのは避けましょう。その時点でその銘柄は注目を集めていて買い需要が高まっており、ブームが去ると売り需要が高まるといったように、業績とは別の理由で株価が変動するため、難易度が高いといえます。話題になっていない銘柄のほうが、フラットな状態で情報を読み解きやすいでしょう。また、SNSに書かれている『この銘柄は売ったほうがいい』といった情報を真に受けないことも大事。誰かが書いた情報を鵜呑みにすると、損をしたときにとても後悔するので、自分の目を信じて自分で判断しましょう」
「25歳・貯金ゼロ」でも“億り人”になるチャンスはある
「仮に株価が100%下落するとわかっていても売却しないこと」をベースに投資を続けているとりでさんだが、絶対に売らないわけではないそう。
「普段は各銘柄の情報をほぼ見ないのですが、年1回株主総会の招集通知に記載されている売上と利益だけは見るようにしています。直近3年連続で売上も利益も下がっている銘柄があったら、その理由を調べ、経営者がいろいろな施策を打っても効かずに今後も下がりそうであれば売却します。逆に、改革の途中で回復する見込みがあれば売りませんし、1年ぐらいの減益は市場環境の変化やトラブルを受けてのものかもしれないので、あまり気にしません。冷静に判断することが大事だと思っています」
とりでさんのようにあまり情報に左右されず、淡々と投資を継続することが、投資のコツといえるだろう。
「誰でも“億り人”になれると思います。仮に25歳で貯金ゼロだったとしても、毎年頑張って200万円を入金し、年7%のパフォーマンスで運用していけば、48歳で資産が1億円になり、56歳で2億円、62歳で3億円になると計算できます。若いうちは資産がないと思うかもしれませんが、例えば親から借りたお金を元手に運用を始め、資産が増えた段階で親に返済するという方法も考えられるでしょう」
ある程度年齢を重ねていても、投資を始めるのに遅いことはない。
「定年を迎えて手にした退職金を、一気に投資に回すという話を聞くことがありますが、投資時期はずらしたほうがいいと思います。退職金が3000万円あるなら、毎年300万円ずつ入金するイメージです。時期を分散することでパフォーマンスが安定しやすくなるとともに、自身の経験やリテラシーも上がっていくので、時間が経つごとによりよい選択ができるようになっていきます。ときには失敗もあると思いますが、その経験を振り返ったうえで『もう1回チャレンジしよう』と運用を継続することが大切だと思います」
株式投資で大事なことは「目標を定めること」と「自身に合う手法を見つけること」。多くの人が、日々の仕事や家事などで行っていることだろう。その考え方を投資にも当てはめると、自分なりのスタイルが見つかるはずだ。
(取材・文/有竹亮介)

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