株式投資と聞くと、「株価が下がったタイミングで買い、上がったタイミングで売り、その差額で儲けるもの」というイメージを抱く人は多いだろう。
しかし、株式を長く保有することで資産を築く方法もある。
企業のスクリーニングにもつながる「増配銘柄への投資」
株式投資に関心があった父の影響で、四季報や日経新聞を読み始めた立川さん。社会人になってから投資信託やミニ株での投資を始め、2004年にウォーレン・バフェットの書籍に出会ったことがきっかけで、本格的に株式投資を開始したという。
「当初は株式を売買した差額で儲ける方法で資産を築こうと考えたんですが、株式投資を始めた2004年は資産が15%程度減ってしまったんです(苦笑)。すぐに株式投資が簡単ではないことを理解し、翌年から『PBR(株価純資産倍率)』や『PER(株価収益率)』が低く、保有資産や収益に対して割安な銘柄を売買するバリュー投資に切り替え、翌年には資産が倍増していました」(立川さん・以下同)
順調に見えたバリュー投資だったが、さらに翌年の2006年、ライブドア・ショックが引き金となり、資産が3割ほど減少してしまった。
「そんな経験もあり、売買して儲ける手法は自分に合っていない気がしたんです。そのタイミングで保有していた銘柄の事業報告書が届き、なんとなく読んでみると、その企業は右肩上がりの売上と利益に応じて配当も増やしていました。こういう銘柄を持っていれば、頻繁に売買しなくても働きながら資産形成できるんじゃないかと思って、そこからは配当を増やしてくれそうな銘柄(増配銘柄)に投資するようになりました」
企業は、利益の一部を配当金として株主に分配する。配当が増加するということは、株式を保有しているだけで収入が増えていくことになる。ただし、株式自体の価格は市場環境や企業業績によって上下するため、配当による収入増加があっても、株価の変動によって資産価値が減少する可能性はあるが、増配銘柄に投資することでそのリスクを抑えられるそう。
「増配銘柄への投資は、同時にスクリーニング(条件を設定して銘柄を絞り込むこと)にもつながるという考えもありました。事業が好調で利益を得られていなければ、配当を増やすことはできませんから。また、利益に応じて配当を増やすという還元姿勢から、株主を大切にしている企業かどうかを見極めることもできます。
福利厚生や社員研修などの人事サービスを提供しているベネフィット・ワンは、一社との契約で数年単位の売上が見込める。全国保証は、住宅ローン契約の際の保証料の一部を収益に回している。この2社は今後も利益や配当が増えるであろうビジネスモデルと考えて保有を決め、実際に配当も増えたそう。一方で、想定とは異なる動きを見せた企業もあったという。
「当時、セブン銀行は好調に推移すると予想していました。銀行にとってATMの保有や管理は負担になるので、セブン銀行に頼ると想像したんです。しかし、想定していた以上にキャッシュレスが進み、セブン銀行のATMの取引高は増えませんでした。いいビジネスだと感じても、思ったほど伸びなかったという銘柄はよくあります。ただ、想定と違ったからといって、すぐに全部売るということはしません。私は未練がましいので、来年あたりうまくいくかもしれないって思っちゃうんですよね(笑)。ひとまず半分売るなど、不安にならないレベルまで減らしてから様子を見て、本当にダメだと思ったら全部売ることもあります」
増配銘柄への分散投資を始めてから18年ほどが経ち、現在は資産4億円を超えている。
「家庭の事情で早期退職したんですが、現在も仕事は続けています。投資を始めた頃から、『配当金が増えたら仕事を辞めよう』と思ったことはないんです。株式はいつどうなるかわからない資産なので、そこに頼りっきりになるほうが不安ですし、日々の生活費を得るというよりは自分が働けなくなったときのためのリスクヘッジとして確保しておきたいという気持ちが強かったんです。いまも考えは変わっていません」
「増配銘柄への長期投資」が兼業投資家にマッチする理由
立川さんは、「増配銘柄への長期投資は、働きながら資産運用したい人にこそ向いている手法」と話す。
「株式の売買で儲けるには、財務分析やビジネス分析が必要だと思いますが、財務に詳しい会計士やプロのアナリストでも将来伸びる企業や業界を探し当てることは難しいので、仕事をしながら分析するのは困難だといえます。そもそも株式の売買は証券取引所が開いている時間(※)しかできないので、フルタイムで働いている人には難しいですよね。その点、配当金を得る方法であれば株式を保有していればいいので、ハードルが下がります」
※東京証券取引所の場合は平日9:00~11:30、12:30~15:30。
先ほどの話にも出てきたが、継続的に配当を増やしている企業は、一般的に何年にもわたってビジネスが成功している企業が多く、安定感もある。
「実際に会社として利益を上げていて、増配が続いている銘柄を買っておけば、そこまで大きな事故なく資産形成できるのではないかと思いますし、売買と比べて手間も時間もかかりません。また、配当金は定期的に入ってくるので、その銘柄の配当利回りにもよりますが、多くの場合15~20年も保有していれば元本を回収できます。そうなるとほぼリスクフリーで株式を保有している状態になります。よくよく探してみると、配当を年率1割ぐらい増やしている銘柄はたくさんあります。
立川さんは2025年末現在で200銘柄ほど保有しているそうだが、一般的にはそこまで多くなくていいとのこと。
「増配銘柄を運用するのであれば、数十銘柄に分散できるといいのではないかと考えます。例えば、10万~20万円貯まるごとにひとつの銘柄を1単元ずつ買っていくという手法でも、資産形成には効果的でしょう」
ひとつの銘柄に絞ったほうが利益を得られそうな気もするが、あえて分散させるのは、万が一のリスクを抑えるためだという。
「株式投資をしていると、なかには配当や株価が下がってしまう銘柄や上場廃止となる銘柄もあります。しかし、自身の経験からすると、複数銘柄に分散投資していれば、突出して成長してくる銘柄も出てくるものです。保有しているうちの10分の1、20分の1でも2~3年で配当が倍増するような銘柄があれば、失敗した銘柄がどうでもよくなるくらいに成長した銘柄が補ってくれるんですよね。だから、各銘柄を詳細に分析する時間のない方にこそ、分散投資をしてほしいんです。私自身も多少自信のある銘柄への投資であったとしても、自分の資産に大きな影響が出てしまうほどの金額は投入しないようにしています」
「増配傾向にある銘柄」の見つけ方
ここで気になるのが、増配傾向にある銘柄の見つけ方だ。
「私は『PER(株価収益率)20倍以下』かつ『配当利回り2%以上』という基準で探してきましたが、最近は配当利回り3~4%の銘柄も増えてきたので、以前より高い水準で見つけやすいと思います。『配当性向(当期純利益のうち配当として株主に分配する割合)』も注目しています。同じ業界で配当性向10%のメーカーと30%のメーカーがあったとしたら、10%のメーカーのほうが先々配当を増やしてくれる可能性が高いといえます。配当として分配する余地があるからです。
もうひとつ重要なのが、増配が続いていること。過去のデータも確認し、配当が上がり続けているか確認してみよう。
「子どもや配偶者におこづかいを渡すとして、『毎月増やして』とお願いされたら困りますよね。増配は、それを実践しているということなんです。日本は減配に厳しい国なので、増配は少なくともその水準で維持できることの表れで、利益水準から想定される適切な増配を続けているということはビジネスが好調だという意味です。さまざまなメディアで増配が続いている銘柄のランキングが発表されているので、それを参考にして知っている企業に投資してみるのもいいと思います」
増配銘柄の探し方を教えてもらったが、立川さん自身は配当性向の高い銘柄への投資に動き出しているそう。
「配当性向の高い銘柄、つまり利益以上に配当している企業もチェックしています。配当を出すことで企業が抱える現金が減り、財務がスリムになって『ROE(自己資本利益率)』が上がるので、機関投資家の投資対象になりやすいと考えられるからです。『ROEが高い=株主が出資した資本を生かしている』と捉えられ、将来評価される可能性があるんじゃないかと感じていますし、いままでと違う視点で投資することで分散にもなるかなと。この選択が正しいかどうかは、数年後に答えが出ると思います」
増配銘柄への長期投資で、コツコツと資産を築いてきた立川さん。後編では、立川さんが経験したさらなる失敗と、株式投資だからこそ得られる経験について伺う。
(取材・文/有竹亮介)

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