博報堂の新プロジェクト「偏愛会議(TM)」が探る“推し活×マ...の画像はこちら >>


市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。今回取り上げるテーマは、「1億総推し活」。



推し活とは、特定の人や物、地域などをさまざまな形で応援する活動のこと。一般化してきている推し活を、マーケティングに活かせるのではないかと動き出したのが博報堂の研究開発組織・生活者発想技術研究所(以下、発想技研)だ。

発想技研は2025年12月、推し活や界隈といった生活者の“好き”に対する熱量への理解を深め、生活者の視点に立ったマーケティング活用を推進することを目指したコミュニティ型研究プロジェクト「偏愛会議(TM)」を立ち上げた。100人以上の研究員全員が推し活を楽しむ当事者であり、研究員へのヒアリングやコミュニケーションをもとに調査や研究、マーケティングのサポートを行う取り組みだ。

推し活とマーケティングを掛け合わせる背景やその効果について、「偏愛会議(TM)」運営メンバーである発想技研 上席研究員の十河瑠璃さん、瀧﨑絵里香さんに聞いた。

ライトに“好き”を満喫できる時代になってきている

博報堂の新プロジェクト「偏愛会議(TM)」が探る“推し活×マーケティング”の可能性


「偏愛会議(TM)」立ち上げの背景には、推し活が一時的なムーブメントではなく、世代を超えた日常の一部になってきていることがあるという。

「2025年3月に発想技研が実施した『推し・界隈に関する調査』では、“推し”という言葉を知っている15~69歳の男女に限られるのですが、そのうちの53.7%が『推している人・モノ・コトがある』と回答しました。また、50代で44.9%、60代でも37.2%に“推し”がいることがわかり、推し活や界隈は全世代を取り巻く重要な視点になってきているといえます。かつての推し活のイメージの熱狂的な“好き”から、日常的な“好き”へと拡大しつつあるのだと感じています」(瀧﨑さん)

博報堂の新プロジェクト「偏愛会議(TM)」が探る“推し活×マーケティング”の可能性
画像提供/博報堂生活者発想技術研究所
「推している人・モノ・コトがある」人の割合は10代が圧倒的に多いものの、60代でも4割近い人が「ある」と回答している。

推し活のイメージや捉え方の変化は、コロナ禍の影響が大きいと考えられるそう。コロナ禍で変わったのは、情報の取り入れ方だ。

「コロナ禍以前はリアルを重視する社会が根強かったので、身近な人をはじめとする周囲の目を気にしてしまう状況にあったといえます。しかし、コロナ禍によりオンラインでのコミュニケーションが一般化したことで、周囲の目を気にせずに好きな情報だけを摂取しやすくなりました。

この変化で、以前よりもラフに“好き”に触れたり発信したりできるようになったのだと考えられます。SNSの普及によって、友人知人が“推し”を紹介する投稿やトレンドなどがきっかけで“推し”ができたというケースも増えているように感じます」(十河さん)

推し活のイメージや捉え方の変化は、コロナ禍の影響が大きいと考えられるそう。コロナ禍で変わったのは、情報の取り入れ方だ。

「コロナ禍以前はリアルを重視する社会が根強かったので、身近な人をはじめとする周囲の目を気にしてしまう状況にあったといえます。しかし、コロナ禍によりオンラインでのコミュニケーションが一般化したことで、周囲の目を気にせずに好きな情報だけを摂取しやすくなりました。この変化で、以前よりもラフに“好き”に触れたり発信したりできるようになったのだと考えられます。SNSの普及によって、友人知人が“推し”を紹介する投稿やトレンドなどがきっかけで“推し”ができたというケースも増えているように感じます」(十河さん)

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「かつて“好き”に触れるには、DVDや漫画を買ったりコンサートに行ったりと、少なからずお金がかかりました。一方、現在はサブスクリプションサービスが普及し、YouTubeなどで無料で見られるコンテンツも充実化しています。ライトに好きでいられる環境が整ったという外的要因も関係していると思います」(瀧﨑さん)

また、スピード感が速く、不安定な時代だからこそ、心の拠り所となる“推し”が求められているとのこと。

「コロナ禍のような予想もしない事態になったり、驚くべきスピードでAIが発展したりと、未来が想像できない不安定な時代のなかで、『同じ時代に頑張っている“推し”がいるから、自分も頑張れる』という気持ちがモチベーションになるんですよね。好きなものを通じて、自分の活動をどんどん広げていきたいというニーズもあります。もはや推し活は単なる娯楽ではなく、“推し”を介して一生の友だちに出会ったり、行ったことのない場所に出掛けたりするなど、ライフイベントに関わる大きなものになっているといえます」(瀧﨑さん)

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「現代は情報量がとにかく多いですが、SNSの進化によって“好き”を軸にした情報収集がしやすくなり、推し活も加速しているのかもしれません。

また、“推し”が共通している人から別の界隈の情報を得る、という流れも当たり前になりつつあります。『美容好きな人はカフェ巡りも好きなことが多い』という話をよく伺うのですが、美容の話からカフェの話につながって情報が広がるのです。こういった事例も踏まえると、推し活をしている生活者の“好き”を押さえ、その人たちの情報の導線に入っていくことはマーケティングにおいて非常に重要になると考えられます」(十河さん)

マーケティングの起点が「年齢・性別」から「好き」に変化

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十河さんの話にも出てきたように、推し活を含む生活者の“好き”を捉えることが、これからのマーケティングにおいて重要になってくるという。

「推し活を行っている人の“好き”は、生活者がどのような人なのかを知るうえで絶対的に欠かせないインサイト(消費者行動の背景にある心理)になっているといえます。企業の製品やサービス、ブランドの情報を届けるためのコミュニケーション戦略を考えるうえでも大切な要素になるでしょう」(瀧﨑さん)

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“好き”を取り入れる考え方は、従来のマーケティングとは異なる発想で取り組む必要があるとのこと。そのキーワードとなるのが「消齢化(しょうれいか)」。

「『消齢化』は博報堂生活総合研究所が提唱した概念で、生活者の意識や好み、価値観などに関して、年齢による違いが小さくなってきている現象を指します」(瀧﨑さん)

「かつてマーケティングの世界では、『F1層(20~34歳の女性)』『F2層(35~49歳の女性)』といった年齢や性別で区切って戦略を立てることが一般的でした。しかし、“好き”もライフスタイルも多様化している現代では、年齢・性別が同じ人でも生活の送り方や必要としているものがまったく違うんですよね。そうなると、属性で区切った訴求が届かない人も多くなっていきます」(十河さん)

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特定のアイドルが好きな人であれば、そのアイドルが情報や写真、動画をアップしているSNSと同じSNSのアカウントを持っているだろう。つまり、20代であっても60代であっても、同じアイドルが好きであれば同じSNSを利用している可能性が高い。逆に、同じ20代であっても好きな人や物が違えば、メインで利用しているSNSやコミュニケーションツールは異なる。打ち出す方向は年代ではなく、“好き”によって変わるというわけだ。

企業がまず行うべきは「詳しい人を頼る」

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ただし、“好き”の対象は無限に存在する。「偏愛会議(TM)」に所属している研究員のなかにも、特定のアイドルグループやキャラクターが好きな人もいれば、「路線バス」「赤べこグッズ」「ロケ地巡り」が好きな人もいる。

どの層に向けてどのように情報を発信するか、判断するのは難しいだろう。

「私たちも推し活をする側ですが、自分と異なる界隈のことは全然わかりません。話題になっているものについて調べようと思っても、スピードが速すぎて追いつけないところもあります。そのため、情報を発信する側の企業が取れる手段は、『その界隈に詳しい人を頼る』というシンプルなものになると思います。無理に飛び込んで目線を合わせるというよりは、コミュニティを形成して仲間をつくっていくことが大事なのかなと」(瀧﨑さん)

その第一歩をサポートする組織として、「偏愛会議(TM)」が立ち上げられたという経緯もあるそう。

「その界隈に所属している人にしかわからないことがあるという点が、推し活の面白さであり難しさでもあり、推し活をしている当事者ならではの意見や視点を持ち寄って研究するのが『偏愛会議(TM)』です。このところ、企業の方々のご相談内容が変わってきた気がします。以前は『自社のブランドのファンと話したい』という直接的なものだったのですが、最近は『自社ブランドの周辺のコンテンツが好きな層ってどういう人なんだろう』など、“好き”を起点に生活者像を知りたいという要望が増しています」(瀧﨑さん)

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「推し活が、新たなユーザーとつながるためのターゲットのひとつになってきているのだと思います。今後もマーケティングの目線で推し活に着目する企業は増えていくでしょう。特定のコンテンツをビジネスに掛け合わせる行為は、炎上や反発のリスクがないとはいえません。ただ、そのコンテンツを推している方々のことを知り、きちんと配慮して対応すると喜んでくれる方も多く、企業とのつながりを強く感じてもらえるチャンスになるのではないかと感じています」(十河さん)

“推し活当事者に寄り添う”コラボが企業価値を上げる

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推し活をビジネスに掛け合わせる事例として、コラボグッズやコラボカフェなどが挙げられるが、単にコラボすればいいというわけではないとのこと。

「コラボ案件は増加してきていますが、増えてきただけに推し活をしている方々も『自分たちや“推し”が消費されているのではないか』という感覚を持ち始めています。

だからこそ、その界隈が本当に求めているものを押さえることが非常に重要です」(十河さん)

「以前、とあるアニメとラグジュアリーコスメを扱うセレクトショップのコラボがありました。そのアニメは、私たちが10代だった頃に放送が開始した作品なんです。私たちも30代になり、ラグジュアリーコスメを持っていたい世代になったところでコラボが実施されたので、このアニメが好きな人の間ですごく歓迎されていました。SNSを見ていても、『私たちのことをわかってくれてる』『コラボ商品以外のコスメも買っちゃった』といった声が投稿されていて、そのセレクトショップのイメージが上がった人も多いと思います」(瀧﨑さん)

特定のコンテンツを推している人の気持ちに寄り添うことで、多くの人に愛されるコラボが生まれ、企業価値も高まっていくというわけだ。

「以前のコラボはカフェや食玩など、消費財に近いものが多かった印象がありますが、最近は家電・家具などの耐久消費財や高額商材、携帯インフラ、町おこしなどにコンテンツが活用されるケースが出てきています。推し活が、どんどん生活に根差したものになってきているのだと思います。あらゆる分野のビジネスにおいて、“好き”と向き合うことがマストになってきているといえます」(瀧﨑さん)

「もちろん従来の定量的な調査も大事です。一方で、生活者の生の声を聞くインタビューを行ったりSNSに落ちているポストを捉えたりして、こういうものが求められているのではないかと発想していくことが、今後ますます重要になると感じています」(十河さん)

娯楽から生活の一部へと変化しつつある「推し活」。その当事者の声を聞き、ニーズを丁寧に捉えていくことで、新たなビジネスが生まれるかもしれない。

博報堂の新プロジェクト「偏愛会議(TM)」が探る“推し活×マーケティング”の可能性


(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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