ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店・森口泉さん

最近、本屋さんに行ったのはいつですか? ネット書店で買ったり、電子書籍で読んだりが主流で、もうしばらく店舗には行ってないな……という方も多いのではないでしょうか。

もちろんお目当ての本を検索して購入するのであればそれで十分ですが「書店」という場所の魅力は、検索ワードだけでは辿り着けない思いがけない出会いがあること。この連載では、全国のさまざまな店舗で働く書店員さんが、プロの目線で担当ジャンルの「お金の本」をセレクトします。



今回お話をお伺いするのは、ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店の児童書担当・森口泉さんです。令和の子どもたちだけでなく、大人にも届けたい「お金の本」とは?

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「私が児童書?」戸惑っていたら30年

私がジュンク堂書店に入社したのは1994年。振り返るともう人生の半分以上をこの会社で過ごしていることになります。

もともと私は漫画が大好きで、コミック担当になりたくて書店の扉を叩いたんです。でも、配属されたのはなんとコミックが置いていない店。なし崩し的に児童書担当になりました。

正直、幼少期にそこまで本が好きだったタイプでもなく、普段から子どもに接していたわけでもなく……。「私が児童書?」と戸惑いながら、このジャンル一筋で、気づけば30年以上が経ちました。

現在は書店員として店頭に立っているほか、西日本地域の「児童書ジャンルアドバイザー」として、新店舗のオープンや改装にあたっての売り場のレイアウトを考えたり、棚の構成を決めたりする仕事も担っています。

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」


私が働く「ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店」は、大阪のランドマーク・あべのハルカス内の近鉄百貨店にある店舗です。すぐ上の階にベビーグッズや子ども服のフロアが構えていることもあり、親子三世代でいらっしゃるお客様も多いですね。

おじいちゃん、おばあちゃんがお孫さんの手を引いて「好きな本を買ってあげるよ」と来店される。そんな光景が日常的に見られます。

レジで「私も子どもの頃、おばあちゃんに本を買ってもらったことをきっかけに本が好きになったな」と懐かしく思い起こすこともあります。

当店は760坪ほどの広さがあるのですが、これでもジュンク堂書店の中では「中型店」という位置付け。以前、日本でも有数の面積を誇る「MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店」で働いていた感覚からすると「ああ、もっと置きたい本があるのに!」ともどかしくなることも。当店に限らず、書店というのは限られたスペースの中で「今、この本を届けたい!」という私たちの情熱と工夫が詰め込まれた場所でもあるんですよ。

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店内には原画展ができる展示コーナーも

ロングセラーが強いからこそ、新刊の魅力を伝えたい

児童書は、ロングセラーがとても強いジャンルです。『ぐりとぐら』や『はらぺこあおむし』など、何世代にもわたって読み継がれる名作が多くあります。もちろんそうした本をしっかりそろえるのは大切ですが、それだけを置いていては、せっかくの新しい才能や面白い作品が埋もれてしまいます。

定番の作品が充実した図書館や、ネット書店の指名買いではなかなか難しい、「これから世に出ていく新しい才能を発掘し、光を当てること」こそが、私たち新刊書店の使命だと思っています。

だからこそ、私が意識しているのは、作家さんや編集者さん、来店いただける出版社の営業さんと一緒になって売り場を盛り上げていくこと。

例えば、今や大人気絵本作家となっているヨシタケシンスケさん。デビュー作の『りんごかもしれない』が発表された時、本当に面白くて感動して、絶対に多くの人に届けたい! と思いました。当時所属していた梅田店で「日本一ヨシタケシンスケを売る!」と意気込み、2~3本の本棚をすべてヨシタケさんの本で埋め尽くすような大展開をしたことをよく覚えています。

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梅田店時代にヨシタケシンスケさんを大展開
書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」
出版社と二人三脚で売り場を立体的にしていく

書店員の仕事はそんな風に、作家や編集者を含む作り手の熱量と、“第一読者”としての「この本、面白いよ!」をどうやって読者に伝えるか。

あの手この手で、来店してくださった方に手に取ってもらえるような仕掛けを日々考えています。

出版社さんに「この絵本のこのシーンを使って、こんなパネルを作ってください!」「こんなポスター準備できますか?」など具体的に制作をお願いすることもよくあります。各社の担当さんに「ジュンク堂書店の森口さんは注文が多いなぁ」と嫌がられているかもしれません(笑)。

本の世界観を立体的に表現することで情熱が伝わり、お客様が足を止め、本を手に取ってくれる。その瞬間が、書店員として一番嬉しい時ですね。

本屋さんに来たらぜひ、それぞれの店舗でのPOPやフェアをじっくり楽しんでほしいです。私たちの仕掛けにまんまと引っかかって(笑)、予定になかった本と出会ってしまう。そんな体験をぜひ楽しんでほしいなと思います。

子ども向けのお金の本、急増中!

今回のお題は「お金の本」ですが、私が担当する児童書の売り場でも、この数年で顕著に増えているジャンルです。

2025年に特によく売れたのは『漫画 お金の大冒険 黄金のライオンと5つの力』(ダイヤモンド社)。ベストセラー『本当の自由を手に入れる お金の大学』の著者による、冒険形式のフルカラー漫画です。児童書は実際に読む人とお金を出す人が違うのが特徴なのですが、この本は読み手と買い手、どちらからも人気な印象です。

ここまでお金に関する本が増えたきっかけは消費税の増税や、近年の投資ブーム、新NISA制度の開始などでしょうか。

当店の児童書コーナーでも、以前は「社会」という棚の一部に置かれる程度でしたが、今では「経済」という独立した棚を新設するほど多く出版されています。

素敵な本は数々ありますが、大人が読んでも発見があり、自信を持っておすすめできる本をいくつか選んでみました。

お金って何? 働くって何?を考える図鑑

まず1冊目は、2025年11月末に発売されたばかりの動く図鑑MOVEシリーズの新刊『お金と経済』(講談社)です。「図鑑でお金?」と驚かれるかもしれませんが、これが本当によくできているんです!

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」
『お金と経済』(編集:講談社 、監修:泉 美智子、講談社)

内容としては「お金をはらう」「お金をかせぐ」「お金でそなえる」「お金を知る」の4章に分かれています。お金の歴史、消費や税金の仕組み、世界経済についてなどいわゆる学校で学ぶような内容に近い要素のほか、投資や保険に関する基礎知識や、「かせぐこと=働くこと」の本質まで考えさせる骨太な内容になっています。

ちょっと面白いのが、具体的な金額がバシッと書いてあるところ。「公立小中学校の先生の平均給料は◯◯万円」など、リアルな数字が出てくるのでお金に興味のある子どもたちも興味津々になるはず。

大人が読んでも「へえ、そうなんだ!」となる知識が満載で、親子でページをめくりながら「お父さんの仕事はね」なんて会話が生まれるきっかけになる1冊です。知識を深めることは、将来の選択肢を広げる第一歩。図鑑の可能性や進化を感じる、挑戦的なテーマなのもおすすめポイントです。

社会のひみつを垣間見る絵本

続いて、もう少し年齢の低い子でも楽しめる2冊の絵本を紹介します。

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」
『100円たんけん』(文:中川ひろたか、絵:岡本よしろう、くもん出版)

1冊目は『100円たんけん』(くもん出版)。「100円で何が買える?」をテーマにした絵本です。スーパーやお肉屋さん、ケーキ屋さんに行って、100円分だけくださいと言うと、どれくらいの量になるでしょうか?

コンビニの駐車場なら20分しか止められないとか、ケーキならほんの一口分だとか。

同じ100円でも、買えるものの価値は場所や物によって変わるということを、実感として理解できます。作者の中川ひろたかさんは元保育士さん。子どもへの語り口がとても柔らかく、すっと入ってくるのも魅力です。

もうひとつ、身近な例で社会の仕組みがわかる1冊が『絵本でわかる経済のおはなし バブルが村にやってきた!』(講談社)。著者は、経済アナリストの森永卓郎さん。経済のプロが子どもたちに向けて書いた物語です。

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」
『バブルが村にやってきた!』(森永卓郎、講談社)

主人公はアニマル村に住む元家具職人のペンギンさん。いつもお世話になっている人に「なんでもおてつだいします」と書いたクーポン券を発行するのですが、みんながそれを欲しがって、値段がどんどん上がっていきます。そして最後には……! かわいい絵柄で、バブル経済の仕組みと崩壊を描いたお話です。

「おてつだい券」という子どもたちにも身近なものを通して、実態のない価値が膨れ上がっていく怖さを描いています。経済の仕組みを物語として理解できる、非常に優れた一冊です。投資ブームでお金を「増やす」ことに目が行きがちな大人もぜひ。



ビジネスは稼ぐだけじゃない!チームを作る喜び

小学校高学年から中学生くらいのお子さんには『起業家フェリックスは12歳』(あすなろ書房)がおすすめ。

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」
『起業家フェリックスは12歳』(著 アンドリュー・ノリス、訳 千葉茂樹、あすなろ書房)

主人公の男の子・フェリックスが、お母さんに誕生日カードを買いたいけれどお金がない、というところから物語は始まります。「お金がないなら自分で稼ごう!」と一念発起し、あるビジネスを思いつくのですが……。

この本が素晴らしいのは、単なる「お金儲けのノウハウ本」ではないところ。フェリックスは一人で頑張るのではなく、計算が得意な友人やインターネットに詳しい友人、時には大人を巻き込み、チームで事業を大きくしていきます。

「稼いだお金で、協力してくれた仲間に何をプレゼントするか?」といった、お金を通じた人間関係やコミュニケーションの大切さも丁寧に描かれていて、働くことの楽しさや仲間と何かを成し遂げる喜びを教えてくれます。

読み終わった後に「よし、自分も何かやってみよう!」と前向きな気持ちになれる、希望のある物語です。

人生の選択肢を広げる手段

最後にご紹介したいのが『つる子さんからの奨学金』(偕成社)です。曾祖母・つる子に「ある条件を満たせば、奨学金を出す」と言われた中学生・わかばが、部活との両立や両親とのプレッシャーに悩みながら受験勉強に向き合っていきます。

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」
『つる子さんからの奨学金』(まはら三桃
、偕成社)

つる子さんは自身の学生時代、女子ゆえに進学に苦労した経験を持つ人。世代を超えて、「お金に振り回されず自分の人生を選ぶこと」について考えさせられる物語で、ぜひ10代のみなさんに読んでほしい1冊です。

書店員さんに聞いてみた!今あなたに読んでほしい「お金の本」


児童書売り場には、これからの社会を生きる子どもたちが未来を切り拓くためのヒントがたくさん詰まっています。普段書店に行っても児童書コーナーには行かないな、という方も、ぜひこの機会に覗いてみてください!

あべのハルカスで、たくさんの本と一緒にお待ちしています。



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