市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。今回取り上げるテーマは、「1億総推し活」。
推し活のひとつとして、多くのファンが楽しんでいるのが「聖地巡礼」。アニメやドラマ、映画の舞台となった場所を巡る活動だ。そこから派生して、近年は“聖地”に暮らし始める「聖地移住」に踏み出す人も出てきているという。
「聖地移住」が移住者自身、さらにその地域に与える影響や課題について、『アニメ聖地移住』(インターナショナル新書)の著者であるアニメ聖地巡礼・聖地移住研究者の千葉郁太郎さんに聞いた。
アニメ作品と社会の変化によって増えている「聖地移住」
聖地巡礼で秩父市を訪れた千葉さん。
秋田出身で、現在は京都に住んでいる千葉さん。大学時代を過ごした京都に愛着があり、社会人になってさまざまな経験を積んでから、再び京都に戻ったそう。千葉さん自身ももともと聖地巡礼を楽しんでいたが、2010年代後半、趣味を通じて出会った人のなかには京都府宇治市を舞台にしたアニメ『響け!ユーフォニアム』に影響を受け、京都に移住してきた人が数人いたという。
「そのときに、アニメがきっかけで移住する人は想像以上にいるのではないかという可能性に気付きました。論文検索サイトCiNiiで『聖地移住』と検索しても、当時はひとつもヒットしなかったので、未開拓の分野だと感じて研究を開始しました」(千葉さん・以下同)
さっそく移住者のインタビューを始めると、2010年頃に移住した人もわずかにいたが、多くは2010年代半ばから後半にかけて移住していることがわかった。その理由は、聖地巡礼作品が増えたことにあるという。
「2010年代に入ってから、『たまゆら』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『ガールズ&パンツァー』など、実在する地域を舞台にしたアニメ、いわゆる聖地巡礼作品が増えていきました。
アニメの聖地が増えたという理由だけでなく、東日本大震災を機に地方移住がムーブメントとなったことも影響しているそう。
「2010年代半ばに地方移住を支援する団体や地方自治体の支援策が整ってきたり、移住者の体験談を集めた本が出版されたりしたことで、移住のハードルが下がったことも関係しているといえます。また、聖地移住者の属性を見てみると、20代後半から30代前半の方が多いんです。移住した経緯を聞くと、聖地巡礼してすぐに移住を決意する方は少なく、学生や新社会人の頃から聖地巡礼を始めて、数年間通い続けながら社会人としてある程度の経験を積んだ末に、好きな地域で新たな人生を切り開いてみようと考える方が多いのだと思います」
社会の流れやライフスタイルの変化も、聖地移住に大きく影響しているということだ。
千葉さんが聖地移住に興味を持ってから10年ほどが経ち、現在は聖地移住者の数が増えてきているという。
「特に聖地移住者が多いコンテンツとして挙げられるのが、茨城県大洗町を舞台にした『ガールズ&パンツァー』と静岡県沼津市を舞台にした『ラブライブ!サンシャイン!!』で、各自治体の方に話を伺うとそれぞれに聖地移住者が100人以上いるとのことです。そのほかにも日本全国に聖地巡礼作品があり、聖地移住者が1人だけのところもあれば数十人いるところもあるので、トータルで300人以上になると考えられます。大洗町は人口1万5000人ほどの街なので、移住者が100人増えるのはインパクトがあると思います」
「聖地移住」の特徴:地域に根差した活動を行う人が多いこと
『ガールズ&パンツァー』の聖地として知られる茨城県大洗町の大洗磯前神社。
聖地移住は好きな作品の舞台に住むことだが、千葉さんがインタビューした聖地移住者のなかには、地域を盛り上げる活動に積極的に取り組んでいる人が多いという。
「『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』がきっかけで埼玉県秩父郡小鹿野町に移住した方は、当初地域おこし協力隊員として働き始め、任期の3年の間に地元商工関係者や農家の手伝いをしながら、現地での起業を構想したそうです。現在は、酒の街でもある秩父の特性を活かし、ジン蒸留所の立ち上げを目指しています。趣味のために移住するだけでなく、地域にプラスの影響を与える活動をされているという点でとても印象的な事例です」
秩父の事例以外にも、現地の農園に就職して地場産業の発展に貢献している人がいたり、地域のボランティア団体を立ち上げて活動している人がいたりと、各地の聖地移住者がさまざまな形で地域に根差している。
「一般的な地方移住と聖地移住を比べたときに、明確に違いが出るのが、移住に至るプロセスです。一般的な地方移住は『農業をやりたい』『自然が豊かなところに住みたい』といった目的が先にあり、その目的や条件とマッチする土地を探すケースが多いと思います。一方、聖地移住は数年間、長い人だと5年以上聖地に通い、その地域ならではの魅力を知ったり、“関係人口”と呼べるほどの交流をしたりしてから移住を決めるケースがほとんどです。そのため、地域のコミュニティに入って活動する方が多いのだと思います」
聖地移住者にインタビューすると、「この街とここに住んでいる人たちが好きになったから移住した」という話が必ずといっていいほど出てくるそう。
「地方移住で失敗する事例の多くは、その土地のことをよく知らなかったことが要因だと考えられます。地域の自治会ならではのルールやもともと住んでいる方々の特性、その土地の気候などの情報が不足していると、『住んでみたものの、思ったのと違った』となりやすいでしょう。その点、聖地移住者は何度もその地域を訪ねていて情報量が多いので、成功する確率が高いのではないかと感じています」
千葉さんは研究を始めた当初、「アニメ作品に対する興味を失うと、移住を後悔するケースもあるのではないか」と考えていたそう。しかし、実際は地域や住民を好きになって移住を決意する人が多いため、アニメ作品への熱量がなくなったからかつて住んでいた土地に戻るという事例は少ないという。
聖地移住者が地域コミュニティをつなぐ存在になる
アニメ『たまゆら』の舞台となった広島県竹原市は、アニメが終了して10年以上が経ったいまも聖地移住者が増えているそう。
聖地移住は移住・定住者を増やすカギになるだけでなく、地域のコミュニティを新たに生み出し、広げていくきっかけにもなるかもしれない。
「地方の課題である人口減少や高齢化は、地域のコミュニティを希薄にする要因になっています。若い世代が都市部に出ていき“地縁”や“血縁”が薄くなっているなかで、地方を再生するのは“趣味縁”ではないかと考えています。
その一歩として、聖地移住者はその土地を訪れる聖地巡礼者と地域を結び付ける存在になるという。
「自治体職員の方々も含めた地域の方々のなかには、アニメ作品そのものや聖地巡礼者の行動、求めているものなどがわからないという方がたくさんいます。一方で、その地域のマナーやルールを知らない聖地巡礼者もいます。その間に立ち、それぞれの立場から情報を伝えられる聖地移住者は、“趣味縁”を中心としたコミュニティをつくるうえで大切な役割を果たすと考えています」
実際に、移住先でファン団体を立ち上げたり、聖地巡礼者が交流できる場所を整備したりしている聖地移住者もいるという。
「聖地移住者の方から『東京で暮らしていた頃は、グッズが出たらすべて買うような生活で割と余裕がなかったけれど、移住してからはグッズ欲が落ち着き、身の丈に合った推し活ができている』という話を伺ったことがあり、印象に残っています。用意されたものを消費するだけでなく、自らコミュニティをつくったりイベントを企画したりといったクリエイティブな推し活ができるところも、聖地移住の魅力なのかなと思います」
聖地移住は「推し活に限らず、移住者自身のQOLを高める可能性もある」と、千葉さんは自身の経験も交えて話してくれた。
「私は大学卒業後に就職した会社の配属で京都を離れ、別の土地で勤務したのですが、会社にも土地にも馴染むことができなかったんです。住む場所を自分で決められる公認会計士になることを決めて、愛着があり魅力も感じていた京都に戻りました。その経験があるので、望まない場所で生活を送ることの辛さがわかります。そういう意味で、自分が好きな作品を感じ、好きな地域や人と一緒に暮らしていける聖地移住は、QOLを大きく高められるのではないかと思っています」
自治体のアクションが「聖地移住」を実現させる
『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場する静岡県沼津市の仲見世商店街。
地方移住は移住者自身にとっても地域にとっても可能性があることだが、課題も見えてきているという。
「自治体職員の方から『聖地巡礼が賑わっている地域で移住者が増えたらいいな』という話を伺うことがありますが、PRや支援に動いているか聞くと『何もやっていない』というところがほとんどです。
好事例となっているのが、聖地移住者が増えている静岡県沼津市。『ラブライブ!サンシャイン!!』のファンを対象にした移住相談会を、過去3回にわたって実施している。
「1回きりで終わるのではなく、3回も開催しているところに自治体の本気度が感じられます。また、移住相談会のアドバイザー的な立ち位置にいるのが、沼津市に聖地移住した自治体職員の方という点が特徴的で、とても大切な部分です。まさに、聖地移住者が聖地巡礼者と地域の間に立った事例といえます」
聖地移住したいと考えている人に正確な情報を伝える場を設けることが、地域にとってもプラスに働いていくというわけだ。
最後に、千葉さんが感じている聖地移住の面白さを聞いた。
「アニメをはじめとするエンターテインメント産業には、東京一極集中という特徴があります。制作会社が東京にあり、ライブやイベントも東京圏で行われることがほとんどなので、働くためにも楽しむためにも地方から東京に出るしかありません。しかし、聖地巡礼・移住によって、逆の流れができ始めています。その地域にしかない楽しさを見出すこと、地方を盛り上げることのきっかけになっている点が、非常にユニークで好ましいことだと思っています」
推し活の範囲を超えて、地域活性化にもつながっている「聖地移住」。さまざまな街を再び盛り上げるキーワードとなっていくだろう。
(取材・文/有竹亮介)

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