人口が減る中で日本経済は成長できるのか? 50年後に「半減」...の画像はこちら >>


人口が増える国は経済成長しやすい――これは経済分野で長く語られてきた“一般論”です。では、日本はどうでしょうか。

人口減少が進んでいくこの国で、経済や企業が成長していくためには何が必要なのでしょうか。

そこで取材したのが、人口問題の第一人者であり、人口減少対策総合研究所の理事長を務める河合雅司さん。取材を通してお金にまつわる学問を深掘りする本連載。今回は、人口減少の中で日本が目指すべき経済成長について、河合さんに聞きました。

私たちがよく見かける人口予測は「見立てが甘い」

人口が減る中で日本経済は成長できるのか? 50年後に「半減」もある中でこの国に必要なこと


――日本ではすでに人口減少が始まっています。河合さんは、今後どのようなペースで日本の人口減少が推移していくと見ていますか。たとえば今から50年後、2070年代の人口がどのようになっているのか、見立てを教えてください。

河合 想定よりも厳しいペースで減少していくと考えています。政府の国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」のうち、標準的な見通しである「中位推計」によれば、2070年の外国人を含む総人口は8699万6000人です。2025年9月時点の総人口は1億2319万2000人ですから、約3割減少するということですね。

しかし、この見立ては“甘い”と言わざるを得ません。実際は、もっと急激に人口減少が進むと見ています。理由はいくつかありますが、大きな要因は中位推計に用いられている「合計特殊出生率」がすでに実績値と乖離していることです。

合計特殊出生率は将来人口推計の結果を左右する重要な要素ですが、中位推計は1.36として計算しています。しかし、2024年は過去最低の1.15にまで下落しており、すでに中位推計の前提値を下回っているのです。

また中位推計では、今後相当なペースで外国人の増加が続くと予測しており、それを織り込んで50年後の総人口を推計しています。確かにここ数年の外国人の増加率は前年比1割以上という大幅な数字となっていますが、この勢いが50年後まで継続するかは疑問です。外国人の流入は国際情勢などに左右されるため、“水物”の要素が強いからです。

ではもっと現実的な視点で予測すると50年後の人口はどうなるのか。今お話ししたように、外国人の増加を予測するのは難しいので、ここは日本人の人口で考えてみましょう。

2019年~2024年の「日本人出生数」を見ると、前年より5%以上下落した年が目立ちます。仮に、毎年5%減ペースで出生数が減っていくとすると、日本人人口は毎年1%のペースで減っていきます。単純に説明するならば10年後には1割減、20年後には2割減、そして50年後の2070年代半ばには5割減になるということです。機械的な計算では2070年の日本人人口は6200万人です。多くの人が考えているより、日本の人口減少ペースは速いのです。



――今から人口減少を「回避する」ことはできないのでしょうか。

河合 難しいでしょう。なぜなら、20代後半から30代の出産期の女性人口が今後減っていくからです。出生数が毎年減少しているということは「未来の母親」が減っているということですよね。出産期の女性人口は今後25年間で25%ほど減りますので、人口減少が続く可能性は極めて高いといえます。子育て支援策を充実させたとしても、母親になり得る女性人口が少なくなるという構造的な問題は解決しません。

日本はこれからGDPを伸ばしていくべきか

――こうした中で気になるのが、今後の日本の経済成長です。人口が減っていく中では、国全体のGDP(国内総生産)を上げていくのは難しいと考えられますが、河合さんはどう見ていますか。

河合 もちろん人口が減っていけば、国全体のGDPを拡大するのも難しくなるでしょう。GDPはその国の「働き手の数」と「マーケットの規模」に大きく影響されます。人口が減ればこの両方が縮小しますので、GDPも縮小することとなるでしょう。

しかし、GDPだけが国の豊かさや経済の活気を示しているのかといえば、私はそうは思いません。これからの日本は、国全体のGDPではなく「1人あたりのGDP」の拡大を目指すことです。

そのためには、働く人1人あたりの生産性を向上させるよう努力していくことです。

――どのようにそれを実現すればよいのでしょう。

河合 企業は経営モデルを、より少ない従業員数で利益を高める仕組みに変えることが求められます。そのためには、機械やAIといった設備投資、それを使う人的投資が重要となります。さらに、付加価値の高い商品、他が真似できない商品を生み出すことも求められます。なぜならそういった商品は利益率を高めるからです。人口減少社会では、企業は従業員1人あたりの利益を高めることです。

日本企業は、これまで多くの人に仕事が行き渡ることを重視してきました。戦後たくさんの人が職を失っていた時代に失業対策事業として作られた雇用の仕組みが現代まで引き継がれてきたのです。

しかし今後は働き手が減っていくため、なるべく少ない人数で生産性や付加価値を高める必要が出てきます。雇用の流動化も進むでしょう。こうした変化に対応できる企業が生き残るのです。



「働き手不足」よりも大きな問題がある

――そのほかに、人口減少下で企業が成長していくためのポイントはありますか。

河合 人口減少の本質的な問題は「消費者不足が起きること」です。企業はそれを認識した上で、ビジネスの戦略を練ることが重要でしょう。

――どういうことでしょうか。

河合 人口減少が起きると、まず注目が集まるのは「働き手不足」です。しかし、企業が本当に考えなければならないのは、働き手が足りなくなること以上に「消費者不足」なのです。

たとえば近年、地方の路線バスや鉄道が存続の危機に瀕しているということが話題に上ります。その原因として運転手の不足、つまり働き手がいないことがよく挙げられますよね。しかし問題の本質は、乗客が減っていることです。売り上げが伸びずに路線が赤字になっているのです。運転手を確保するために賃上げをしたくてもできないので、他の仕事に人材が流れます。こうして働き手の確保が難しくなっているのです。



――運転手不足を補うにも、まずは消費者が減っているという課題と向き合わなければならないと。

河合 はい。最近は自動運転によりバスの運転手不足をカバーする取り組みもありますが、仮に自動運転バスを実用化したとしても、乗客が減っていく路線では収益を上げるのが難しい。それでは自動運転バスの購入費用や維持費をまかなえませんよね。結局はバス事業として存続できません。

自動運転バスを導入することを否定するつもりはありません。しかしながら、消費者不足という根本の問題を解決しないかぎり、ビジネス上の課題は何ら片付きません。バス事業者に求められているのは、消費者不足が深刻化する中でどう利益を確保するかという事業モデルの転換なのです。

――ここまでは「企業がどうすべきか」というテーマでお話を伺いましたが、私たちが暮らす社会としては、人口減少下でどのような姿を目指せばよいのでしょうか。

河合 私が提唱しているのは可能な限り商圏を維持する政策です。特に地方圏では人々が点在して暮らすのではなく、地域ごとに人々が集まり住むことです。全国各地に小さな商圏をつくり、それらがネットワーク化することです。



各地に人口集積エリアをつくれば、そこでは企業や商店は成り立ち得ます。水道や電気、ガスなどの生活インフラも、地域を限定すれば維持費を削減できます。たとえば、広範囲に張り巡らした水道管の修繕や点検だってかなり効率化できます。集住すれば住民同士の助け合いもしやすくなるでしょう。

都市とは「人類最大の発明」だと思います。人が集まることで経済や文明、文化が成長するのです。人口減少下では、都市のメリットを最大限活かしていくことが必要だと思っています。

――最後に、日本の人口減少が進んでいくことをふまえて、個人投資家の方にメッセージはありますか。

河合 自分の資産を増やすために投資をすることはもちろん重要ですが、投資の役割はそれだけではないと思います。次の時代や社会を作る企業を支援していくために投資を行う人が増えていくことにも期待したいです。

人口減少が進む日本は、間違いなく「時代の転換点」を迎えています。こうした状況下では、この国の未来を作っていく企業、この国を支えていく企業が必要になります。そういった企業を育てていくという思いで、投資と向き合ってもらえたらうれしいですね。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2026年3月現在の情報です

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