お久しぶりです。赤澤えるです。
「そんな高い物じゃないけど、これだけは捨てられない」
赤澤える(以下、える): 『記憶の一着』について聞かせてください。篠原恒木(以下、篠原):チャーリー・ブラウンが着てるのと同じ、ジグザグの模様が入ったTシャツです。える:あの、スヌーピーの飼い主の。篠原:そう。これはジャンクフードっていう昔よく流行ったブランドのTシャツで、ハワイのショッピングモールだか小さなショップだかで見つけたのかな、もう20年くらい前のもの。
える: 20年!長いですね。
える: それは別々の視点なんですか? 篠原:別々ですね。それがすごく面白くて、あれはもう子どもの読む漫画じゃない、大人が読む漫画なんだよ。スヌーピーグッズっていっぱいあるじゃない?底なし沼だから集めないようにしてるんだけど、それでもやっぱり気に入ったものは買っちゃってるよ。それほど好きだった。で、チャーリー・ブラウンには特に共鳴するところがあったから、このTシャツを見つけた時は「やった~!」なんて言って。ところがなんてことはない、「チャーリーブラウン Tシャツ」で検索すると、こんなのがいっぱい出てくるのね、今。ショックだったんですけど、当時はそんなのなかったからさ。
やっぱり僕は紙が好きだから、紙にこだわりたい。
える:私が篠原さんと出会ったのは『JJ』つまりファッション誌、そして時代はまさに篠原さんの生み出した言葉”おしゃP”が席巻している時なんですけど。当時私はイチ読者、篠原さんは編集長。なんだか今こうして仲良くさせていただいているのが不思議な感じも時々するのですが、やっぱり今日は改めて“紙モノをつくる人、つくってきた人”としての話をお伺いしたいです。私は篠原さんにたくさん影響を受けてこの仕事をしているから。文字に残したい。 篠原:今おしゃPなんて言っても全くわからないよね。死語だね。
える:『JJ』のは、字の部分もですよね?篠原:そうそう。デザイナーに怒られましたけどね。僕の仕事がないって言って。える:今でいったらみんなこれイラレとかでやるじゃないですか。でも篠原さんには「そんなの使えない」って言われましたね。篠原:僕はそういうのだめ。使えない。ワードしか無理。える:今でも「あの広告良かったです!」とか言うと「あれはね…」って切り貼りしたの見せてくれたりするじゃないですか。イラレでできたものじゃないやつ。篠原:僕ね、アナログなんです。なんでアナログなのかっていったら、出来ないっていうのが一番大きいんだけど。こうやって書いてるとさ、幾ばくかの念は入るんじゃないかなって思うわけ。マウス動かしてるより、自分の念が少しは入るかなっていうのはあるよね。自己満なんだけど。やっぱり愛情だよ。える:あそこまでする人って他にいないですよね?会ったことない。篠原:いないいない。普通は表紙に使う写真とかネームなんかを用意して「これ大きく、これは小さく」とか言ってデザイナーさんに渡すだけだと思うよ。える:だってそこから先はデザイナーさんの仕事ですもんね。篠原:そうそう。それでデザイナーから上がってきたら、これをどうとか、ここ小さくとか言うだけだと思うよ。でもそういうのが嫌だ。あれで渡せば修正ほとんどないんだよ。あと僕、打ち合わせが大嫌いで。なるべく打ち合わせを避けようとするからあぁいうことをしちゃう。撮影なんかでも、カメラマンと打ち合わせするじゃない?カメラマンの打ち合わせって大抵長いんですよ。どこで撮ろうか~から始まるわけ。どこで撮ろうかっていう打ち合わせをしている段階でもう駄目でしょ。だって撮る服は決まってるんだからさ、じゃあ今回撮りたい世界にふさわしい場所はどこかっていうのは編集者は絶対に分かってなきゃいけない。僕はそれを頭の中で考えて、絵コンテを描いて臨んでたから、打ち合わせはあっという間だったよ。これを言葉で色々やりとりしてたら大変。打ち合わせは嫌い。
もともとファッションて「僕は君じゃない」って意思表明でしょ?
える:篠原さんがファッション誌をやっていた頃から今の時代の流れを見て、どんな風に感じますか?あの頃はまだファストファッションがこんなに台頭していなかったはず。そう考えると凄く急激に時代が変わっていく瞬間に立ち会っているんじゃないかという気がするんです。
篠原:『JJ』をやってた頃、いわゆる“おしゃP”と呼ばれるデザイナーなりディレクターがいて、その子の物語性というか、生きてきた物語に惹かれてみんな物を買ってるんだなってなんとなく気付いたわけ。初めて服に物語がくっついてきたっていうのかな、その物語にみんなが金を払うっていう時代の始まりというか。そういう現象が起こり始めたわけですよ。考えてみたらやっぱり服やブランドには、デザイナーだったりの哲学や物語があるじゃない。物語性をちゃんと理解するとその服にも愛着が湧くしさ。ただ単にマスプロダクトな服っていう“消費財”っていう観点では、そんなにもうお金を払わないんだと思う。ファストファッションも別にいいんだけど、ファストファッションにはそういう愛着みたいなものがないわけじゃないですか。そうなってくると消費財だよね。カッコつけていうと、文化にはならないよね。偉そうなこと言うとさ、少しでも文化的なものに金払いたいじゃない。そうなってくるとやっぱり、物語のある服っていうのにすごく惹かれるよね。じゃないとこれからは無理だよ。ただ単に服を作りました、買ってください、じゃ通用しないと思う。やっぱり大量生産って辛いよ。ファッションってそもそも差別じゃん。差別って言葉が誤解を生むなら区別でもいいけどさ。もともとファッションて「僕は君じゃない」って意思表明でしょ?「私はあなたと違うのよ」って意思表明のはずだったわけじゃない、ファッションって。なぜならば一番外面に出てくるものだからさ。外見で分かるものだから。だけどそれすら今やひたすら潜っちゃてる時代なわけでしょ?横並びでいたいっていうような子が結構いる状態。 でも考えてみるといつの時代もそうだったのかもしれないなって思う。僕が『JJ』を作ってた時代も、8割の子はおしゃれに興味がなくて、2割の子が興味がある。この2割の子のために作ってたような気がする。それが2割1分や2分になればいいかなって作ってたところはあるよね。える: その8割は何に興味があるんですか?エンタメ? 篠原さん:おそらくね。服装にはあまり興味がないっていう。そういう子がいても不思議じゃないし、いっちゃ悪いけど、街歩いててもおしゃれだなって思うのは1割いるかいないかじゃないかな。だけどまぁそれでいいんじゃないかなって思う。ただ、もったいないなって思うけどね。
えるさん:もともとファッションが好きで『JJ』に関わるようになったんですか?篠原:あのね、どっちかっていうとそうかもしれない。 変な言い方だけど、裸の女の子より服着てる女の子を見る方が好きだった。だから、そういうのはあるかもしれないね。いわゆるモード的なことにあまり興味はなかったんだよね。それより、街の女の子が自分たちでどういう格好してるのかを見るのが好きだった。だからパリコレだとかデザイナーが自分の感性を見てくれっていってやるものよりも、ライフスタイルとファッションが結びつくようなものに対してすごく興味があったよね。えるさん:リアルクローズってやつですか。篠原さんが編集長だった頃の『JJ』はそれこそリアルクローズの世界に新しい価値を与えて、本当に時代の基礎を築いたのだと思います。“おしゃP”って本当にそういう存在だった。篠原さん:僕の仕事はね、カッコつけていうとね、小さいものを大きくする仕事なの。要するに、小さかったものを大きく見せる仕事。“おしゃP”も点では存在してたのよ、色んなところで。それをひと所にギュッと集めて、虫眼鏡でグッと拡大して見せるのが僕の仕事。言い換えると、誰も知らないブランドをみんなが知ってるブランドにするっていうのが僕の仕事だと思ってたところがあった。快感もそこにすごくあったね。
える:またファッションの仕事してっていわれたらやりますか?篠原:自信ない。今「ファッションに金かけられない」とか言うじゃない?そういう人たちの心境が理解できないんだから、ちょっとそれは無理。財布の中に10万あったら10万の服買えよって思う人間だから、やるとしたらもう夢物語みたいな雑誌になっちゃうよね。このままいくとシャネルやエルメスのブティックに死ぬまで一回も入ったことのない人がどんどん増えていくと思うよ。「それでいい」って言われたらそこまでなんだけど、それはちょっと悲しくないかな?って思います。何も借金してまでいっぱい洋服買えとは言わないけど、やっぱり自己表現の一つだしさ。「僕と君とは違うんんだよ」ってメッセージを発する手段はファッションなんじゃないの。対話だったら1時間はかかりますよ。ところがファッションだと1秒で分かる。そういう意味ではファッションって有効な気がするんですけどね。喋っててすごく時代遅れな気がしてきたけどね、こういう考え。えるちゃんは、今の若い子のファッションについてどう思ってるの?逆にそれ聞きたい。える:私もともとお洋服の勉強もしてないし、販売もしたことないのに今服屋をやっていて、ずーと違和感と闘っているという感じです。篠原さん:違和感ねえ。どういうこと?える:言いづらいですけど、ずっと会社だとかファストファッションにくくられる業界の服の扱い方に対して納得できてないまま進んでる感じなんです。私のところは会社に所属させていただいているブランドですし、会社の方針に対して今納得できるレベルの100%は常に目指して運営をしていますけど、もちろん。でも元々その必要以上に多く作るというやり方に対して全く納得感はないので、その時点で会社のやってることとか選んでいるものと、私が選びんでいきたいものとが大きく違うので。そこにはずっと違和感があります。きっとここにいる限り解決しきることは出来ない。篠原:出来ない出来ない。それはね、自分で会社を作っても出来ないと思う。ギャップがあるんだな。それは多分ね、僕も同じ思いだよ。える:うん。諦めてるわけじゃなくて。正解がひとつじゃないんですよ。私も正解、会社も正解。お客様ひとりひとりがどっちをどう選ぶか。若い子の服についてどう思うかってよりも、私は元々「みんなが同じ見た目になる」みたいなそういうものに興味がないんです。だからこそ自分のやってることに向き合わなきゃっていうのがあって、そのためにこういう連載を今やってて、捨てられないものは何かを聞くことによって、どんなものを自分が作ろうかを考えています。
篠原:じゃあなに、自分が今まで服を作ってきてさ、トレンドを少しぶっこもうとか思ったことないわけ?える:ないです。デザイナーがトレンドを意識した提案をしてくれてそれを受け入れることはありますけど、私はできない。やろうとしたことは何度もあるけど。つまらなかった。篠原:そりゃ素晴らしいね。トレンドを意識しないこと自体すごく努力がいることじゃないの?える:多分しっかりお勉強をしてきた人であれば努力がいることだと思います。私は学生としての勉強はしてこなかったから。篠原:インプットしちゃうと気になるよな。える:そういうトレンド意識が必要不可欠だっていうのを座学で勉強してしまったら、私はプレッシャーに負けると思います。私はとにかく私の好きなことをやれば良いといっていただけてそこから全てが始まっているので、好きなことになるべく集中するかたちで今はいられてるんです。篠原:それは良いね。える:どこかでずれてくるかもしれないんですけど、結局自分が良くないって思ったもの作った結果が良くなかったので、じゃあ駄目になるなら納得するもので駄目にしてくれっていう感じでやってる感じです。篠原:あのね、すごく賛成できるのは、自分の好きなものって万人に愛されるわけないのよ。でも、万人に愛されるってものもまずないのよ。「どうでも良い」って思われるのが一番やばくて、好きでも嫌いでもないって思われちゃうと、これはもう存在意義がないわけ。だからLEBECCA boutiqueの服が大好きで大好きでたまらないって子がいれば、意地悪に言えばLEBECCA boutiqueの服ってどこが良いのっていう人がいると思うわけ。でもそういうブランドの方が強い。それはタレントもそう、アーティストもそう、モデルもそう、本もそう、雑誌もそう。あらゆる存在がそうかもしれない。要するに好きでも嫌いでもない、なんかどうでも良いやっていう反応が一番やばいよね。える:それは今も昔も変わらないことですか?篠原:うん。だから、「あのモデルがJJに出ている限り私はJJを買いません」って投書が来たりすると、しめしめと思うわけ。こいつ人気出るなって。だってそんなに、積極的に憎むことって相当エネルギーがいるわけじゃない?そしたらその裏には、「このモデルがいる限りは私はJJを買います」っていう人は絶対にいるはずだと思って。それを僕はアクが強いっていう言葉で言ってたんですけど、アクが強くないと駄目だと思うわけ。それはLEBECCA boutiqueって良い感じでできてるよね。 やっぱり、同じ服をさ二日続けて着てバレない服ってさ、ファッションという観点ではなんの意味もないと思うわけ僕は。える:わかります。篠原:また着てる!って気付かれる服の方が良いと思ってて。それくらいの服が僕は好きだけどね。
える:自己表現ってそういうことな気がします。える:ちょっと話を戻しますけど、それだけファッションについて考えていたり感じていたり、実際に仕事としてやってきたり、こうしてお話してくださる方が捨てられないものっていうのがそのチャーリーブラウンのTシャツっていうのはなんだか良いなと思います。チャーリーブラウン的なセレクトに感じちゃいます。それに「ファッションは内面の一番外側」だなってことも思う。篠原:その通りだね。える:篠原さんはチャーリーブラウンだと思うんですよね。自分に似てるから好きなんじゃないかなって。篠原:それはあるかもしれない。チャーリーブラウンの本、読んでみて。皮肉屋というか、すごく人生を悲観的に見てる。える:語弊を恐れずに言うと、篠原さんもそういうチャーリーみたいなところがあると思うんですよ。とてもよく似てます。きっと。篠原:やっぱり同じ匂いを感じるのかもしれないね。だいたいね、チャーリーはかわいそうな子なんですよ。あのピッチャーなんですけど、だいたいホームラン打たれるんですよ。そういうところがね、愛おしいんですよ。
私がブランドディレクターになるなんて誰も予想していなかった頃に出会った篠原さんはその頃から、時には面白おかしく、時には皮肉交じりに、独り言のように置いていくというような感じで、そっと大切なことを教えてくださっていました。独特の“諦念の空気”をいつも感じていましたが、チャーリー・ブラウンに似ていると気付いてからは妙に納得してしまって。共に溜息をつくような感覚でご一緒させていただいておりました。こうして改めて話してみると、編集者という立場から長い間ファッション界を見つめてきた人だからこその思考や言葉にたくさん出会うことができました。きっと私はこれからも、どこか篠原さんに見てもらいたい気持ちでモノづくりをするのだと思います。私にとって、そして今の私がいる世界にとって篠原さんは「時代をつくった人」であり、その時代の延長線上に私がいるのだから!
篠原恒木
1960年東京都生まれ。光文社に入社後、雑誌編集に携わり、JJ編集長を計3回、のべ10年間経験。その後は単行本の編集へ。片岡義男著『珈琲が呼ぶ』は現在7刷のロングセラーに。現・宣伝部長。口癖は「カミさんが怖いからやめとく」。
Eru Akazawa(赤澤 える)
LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
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