成人男性の約4分の1。これは、日本国内でED(勃起障がい)を経験したことのある人の割合だ。2019年時点の調査により、全国で深刻なEDに悩む男性は約1400万人にものぼると推測されている(参照元:浜松町第一クリニック)。同調査では、20代、30代の若年層においても7人に1人が抱えていることが明かされた。一見、遠い話題のように感じられるEDは、実は多くの人が経験する可能性のある、国民的な悩みなのである。
そんな悩みを解決するために、2021年4月にローンチされたのがED診療サービスの「Oops(ウープス)」だ。オンラインで手軽に診察を申し込むことができ、直接病院に出向くことなく自宅に治療薬を届けてもらうことができる。場所や時間を気にせずにサービスを受けることができるため、既存の診療に比べて受診のハードルが低く感じられるのだろう。ユーザーの7割ほどが20代、30代の若者だ。 OopsはED診療を最初の切り口として、パートナー間の性に関する問題や、さらにはEDの原因でもあるメンタルヘルスの問題の解決をサポートしようとしている。サービスサイトを覗けば、男性だけではなく女性やノンバイナリーのモデルを起用したポップなクリエイティブが目に入る。既存のED診療のイメージとは一線を画すOopsの誕生の裏にはどんな思いや工夫があるのだろうか。

今あるクリニックは「自分に向いてくれてない」と感じた
サービス立ち上げのきっかけは、平野自身の大学3年生生の頃の経験に遡る。当時20歳だった彼は、これまで自分からは遠い問題だと考えていたEDの当事者に突然なったのだ。当時は原因が分からず不安を抱えながらも数ヶ月で症状は治った。しかし、それから10年が経とうとしていたある日、再びEDの症状が出るようになったという。何か対処法があるはずだ、とスマートフォンで調べ、辿り着いたのがクリニックだった。処方された薬には、効果を感じながらも少しの違和感が残った。「クリニックを調べていると『若い頃の自信を取り戻そう』『男の自信を取り戻そう』といったキャッチコピーが出てくるんですよね。『俺まだ若いんだけどな』と思いながらも他に行く場所がないから雑居ビルの中に入っていくと、やっぱりなんとなく自分向けでなないと感じてしまいました。薬自体は効果があって、きっとこれに救われる人はもっといるはずなのに、イメージで損している部分があるのではないだろうか、そこを変えたいと思ったのがサービス立ち上げのきっかけです」

多くの人が、EDは中年以降の、それもごく一部の男性がかかるものといったイメージを持っているのではないだろうか。そのせいか、既存のEDの治療にはいくつかのハードルがあるという。「特に若い人が感じやすいのかなと思うのですが、『クリニックに行くのを誰かに見られたら恥ずかしい』とか、そういった心理的ハードルがあると思います。他にもOopsのユーザーの話を聞いていると、40代以降であっても『クリニックはとっつきにくい』と話す人もいました。
SEXは一人でするものではないから
Oopsの大きな特徴の一つでもある、親しみやすいクリエイティブ。カラフルな色使いに優しい語り口のコピーのサービスサイトはED診療のイメージを塗り替え、ポップなイラストの描かれたプロダクトは小さなお守りのようにユーザーに寄り添ってくれる。さらに、プロダクトのイメージモデルには従来のED治療の広告のようにストレート男性のみならず、ノンバイナリー、ゲイ、さらには女性も起用され、性に関わる全ての人に向けたサービスであることが示されている。このクリエイティブ作りにもあるこだわりがあった。「EDで悩むのは当然本人が多いのですが、パートナーも同じくらい悩むと思うんです。『思い合うふたりのためのED診療サービス』というキャッチコピーをつけているのは、そんなふうに悩む人のパートナーにも知ってもらいたいと考えているからです。例えば女性でも気楽にサイトを開いて、話題に出せて、知識を得られるようなサイトにしたいと思っていました」

また、恋人同士、カジュアルな関係、ワンナイトなどセックスに関わる人々の関係性はさまざまだ。

既存のクリニックの多くが「男らしさ」を強調しているのに対し、Oopsが目指すのは多様性と柔軟性のあるブランドだ。その第一歩として、制作チームにも女性を起用している。さらにチーム内では、「挿入だけがセックスではない」という共通認識があるという。挿入をセックスのメインとする男性優位の思想ではなく、セックスをコミュニケーションとして捉えていることがよく分かる。チーム内に多様性があることによって、このような議論が日々行われているのだと言う。「Oopsのゴールは、挿入できるようにすることではなくて、お互いが満足できる幸せな時間を提供することだと考えています。より良いセックスライフを送るための手段の一つとしてED治療薬もあるし、挿入を望まないのであれば、それは不要だと思います。
相談したい人が、相談できる環境を
冒頭でも述べたように、多くの人が直面する可能性が高い問題でありながらも、気軽に話すことはなかなか難しいのがEDの現状である。そんな壁を壊すように、Oops運営のウェブマガジンには、平野やイメージモデルを務める俳優の松㟢翔平(まつざき しょうへい)をはじめとしたED当事者たちのストーリーが掲載されている。実際にユーザーのなかにも、OopsのWebマガジンを見てこれまで踏み切れなかった診療に踏み切れたという人もいる。「欧米ではEDで悩む人のうち50%ほどが診療を受けるのに対して、日本だと8%ほどだと言われています。悩んでいる人同士が話し合う機会って、まだあんまりないように思います。でも、例えば僕が『最近ダメなんだよね、勃たなくて』と話をすると、『実は俺も』と返ってくることがあるんです。だから個人同士の会話と同じように、ブランドとしてオープンに同じような悩みを抱えた人のストーリーを見せてあげることが後押しになると思っています」

同マガジンでは、EDの専門家への取材記事なども掲載されている。取材記事を通してEDの原因の一つであるメンタルヘルスに関する問題提起なども、今後の取り組みとして考えているという。「SNSでもどんな原因でEDになるのか、知識がつくようなコンテンツも発信しています。意外とウェブサイトやSNSの閲覧層を確認すると、半分くらいは女性なんです。今まで知らなかったことを知るだけでも、パートナーとのコミュニケーションが変わったり、対処法のきっかけにもなると思うので、性別を定めずに誰が見ても得られるものがあるようにしていきたいなと思っています」

「性についてオープンに話すこと」は、誰かをポジティブにする可能性もあり、同時に自分のパーソナルな部分を晒すことでもある。そんな時に、”DONT’T WORRY, WE ARE THE SAME”(心配しないで、みんな一緒だよ)とささやいてくれる、Oopsの存在は心強いものになるのではないだろうか。
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平野巴章(ひらの ともあき)
株式会社SQUIZ代表取締役。1991年大阪生まれ。2014年サイバーエージェントに入社。広告クリエイターとして多くの企業のマーケティングやブランディングを担当。2021年株式会社SQUIZを設立。自身が20歳の頃にEDで悩んだ経験からOopsをローンチ。▷Twitter