神奈川の横浜で育ち、2018年9月よりアーティスト活動をスタートさせた、xiangyu(シャンユー)。一風変わった名前は、自身の本名である「あゆみ」に由来し名付けられた。
自分の目で確かめることで分かる、フィルターなしの世界
「幼少期は、好奇心旺盛な子でした。自分の目や耳できちんと確かめたものでないと、信用できないタイプで、周りの意見には左右されないほうでしたね。中学から高校時代はグループに属せなくて、クラスメイトとは仲良くなりたいけど、常に一匹狼状態だったんです」 小学校から高校までの期間は、学校で過ごす時間が多いからなのか、どうしても社会がそこだけにしか存在しないように思えてしまう。その場から一歩出たら世界は広いのに、当時はなかなか気付かず、悩んだ時間を過ごした人も多いのではないだろうか。「学校では、『このグループに入ってみたいかも!』と、思いながらも、一歩を踏み出せませんでした。今思うとすごくダサいんですけど(笑)。いじめを受けたこともあったから、自身のことを大事にできなくて、人前に立つなんてもっての外でした。ただ、興味のあることに対しては前のめりになるタイプだったので、学校以外の場所では自らの力で活発に動いていたかもしれないですね」 高校の頃には、毎年学校の文化祭で展示形式での研究発表があり、テーマだった死刑制度や環境問題などについて専門家に話を聞いたりするなど、社会が抱えている問題に自然と触れる機会があった。

高校を卒業後は文化服装学院へ進学し、ファッションの道へ一歩踏み出した。「両親が物作りが好きで、家にはそれぞれが作ったものがそこら中に転がっていました。その影響からなのか、子どもの頃から落ちていたゴミや廃材を使って、手を動かして何かを作ることが好きだったんです。けど、美術の時間で洋服作りをしたとき、説明書を見ながら作業をしても思った以上に上手くできなくて、洋服作りって奥深いのかもしれないと感じました。すでにできることよりも、やってみたいことや知りたいと思ったことに目を向けていきたくて、文化服装学院を選んだんです」 服作りのノウハウを習得した彼女だが、後にマネージャーとの出会いのきっかけになる、一風変わったアイテムを使用してファッションを表現することを始めたのもこの頃だ。「パターンを引いて、生地屋で布を選び、それを縫っていくという服作りも楽しかったですが、そのフォーマットのなかで制作しないと、授業のなかでは服として成立しないこともあり、自分にとってそれが本当にやりたいことなのか疑問を持ち続けていました。そんななか、小さい頃からよく足を運んでいたホームセンターで、ビニールシートを見て、これで洋服を作ったら面白いかも!と、授業以外の時間で、それを素材とした服作りをはじめたんです」


使用する素材は、ビニールシートのほかに、軍手やカラーコーン、工事現場のロープ。何着も作りためて、東京のビッグサイトにて開催するデザインフェスタに出展した。
自分を認めていくことが、セルフラブに繋がっていく

これまではパタンナーやアシスタントとして、服を影で支える役割をしていた彼女。自身が前に出て表現をするミュージシャンとして活動をスタートするにあたり、最初に必要とされたのは、自分を認めていく作業だった。「自身で表現をしていきたいと思っていたのに、作品にスポットが当たるのと自分の存在に当たるのとでは全然違いました。

2019年には、初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。赤裸々で誰もが共感できるユニークな歌詞や、南アフリカのダンスミュージックである Gqom(ゴム)をベースにしたリズミカルな音が話題を呼ぶ。コアな音楽ファンを中心にじわじわと人気を集め、ライブやフェスなどへの出演や、さまざまなミュージシャンともコラボレーションし楽曲を制作するなど、精力的に活動している。「アーティスト活動をしていると、よく自分のなかで起こるのが、他の人と比べてしまうこと。私なんてまだまだだなって思うことなんてたくさんあるけど、そう思っているとお客さんや周りの人にも伝わってしまうと思うんです。なので、できれば自分のやっていることには自信を持っていたいなと思います。
自分のやりたいことに正直でいることで、見えてきたもの
最近ではファッションや音楽の他にも、彼女の活動が執筆にまで広がっている。神奈川は横浜市にあるドヤ街・寿町の出来事を軸に、自身のこれまでを振り返ったエッセイ「ときどき寿」を今年の11月に出版。執筆を初めて経験をした。

「ドヤ街の炊き出しに誘われたことをきっかけに、寿町にはよく足を運ぶようになりました。行くたびにいろんなことが起こるので、そこでの出来事を忘れないように、日記のような感覚でメモをしていたんです。それを知り合いの編集の方に話していたら、「Maybe!」で連載をすることになったのが始まり。本を出すことが決まってからは、幼少期からの自身の経験も加えて執筆をしたので、それは大変な作業でした。私は言葉を音に乗せて表現をしているけど、文章として言葉を書くと、句読点の位置が違うだけでも伝わり方が変わってくるので、どうしたら自分が思っていることを、自分が思うままに表現できるのかが難しかったですね」 音楽やアートにファッション、執筆の他にも、さらにラジオのパーソナリティや俳優活動まで。まるで自分に枠などが存在しないかのように、幅広いジャンルで活動をする彼女。

「周りにはたくさん尊敬しているアーティストの方がたくさんいて、そういう方々って、自分のやっていることに自信があるし、自分で歩んできた道に責任を持っているなと感じていて。だから私も自分のことは自分できちんと責任を持っていたい。

xiangyu(シャンユー)
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2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。名前は本名が由来となっている。 Gqom(ゴム)をベースにした楽曲でミステリアスなミュージックビデオも公開中。2019年、5月22日に初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。また、xiangyuとファッションブランドPERMINUTEのデザイナー半澤慶樹で主宰する川のごみから衣装を創作するプロジェクト“RIVERSIDE STORY”では、渋谷川編と題し2022年9月に初の個展を恵比寿KATAにて開催するなど、音楽以外でも元々活動しているアートやファッション、映画への出演など、垣根を超えた活動を行っている。今年2022年の7月16日からはxiangyu自身が主演・主題歌を担当した、映画『ほとぼりメルトサウンズ』が新宿のK’s cinemaより順次、全国公開。また、11月25日には初の書籍「ときどき寿」を小学館から発売している。