2019年に東京からロンドンへ活動拠点を移した小袋成彬。コロナ禍を経て、5年の月日が流れるなかで、一人の人間として、そしてアーティストとしての気付きがあったという。
ピュアな部分から形作られていくもの
平山 潤(以下、平山):この撮影は、去年(2023年)小袋さんが日本に来ていたときにしていたんですが、そこからあっという間に年が明けましたね(笑)。小袋 成彬(以下、小袋):前々から「NEUT」で何か一緒にできたらいいなとは話していたけど、去年帰国したときに、ようやく撮影が実現しました。あけましておめでとう!(笑)平山:あのときはゆっくり話せなかったので、今日こうしてお話ができるのがうれしいです。最近はどんな感じで過ごしてましたか?小袋:変わらず元気に過ごしているけど、デジタルデトックスしてました。単純に時間がなかったからというのもあるけど、現実世界としっかり向き合っていました。

平山:今は制作中ですか?小袋:そうです。今年はほぼ毎日スタジオに引きこもってます。ロンドンの友人たちと一緒に曲を作っています。アジア、アフリカ、アメリカと人種も結構バラバラで、どんなグルーブになるのか楽しみです。それぞれの見た目も違うので、ビデオでも残したら面白いかなと思っています。平山:楽しみです。小袋:あとは、最近、ジャズやファンクにハマっていて。

平山:そのピュアさっていうのは、結局その人たちの音楽に対する愛だったり、本人の生き様だったり。もちろん技術的なこともあると思うんですが、小袋さんが惹かれる人たちの共通点ってありますか?小袋:なんだろう。繰り返しになってしまうけど、ピュアさとクリエイティビティが共通点になるんですかね。本当にピュアなアートって、子どもの絵だと思うんです。でもそれに感動するかって言ったら、そのピュアさに対しては微笑ましいと思うけれど、心は奪われるほどではない。だから大人になっていく段階で、ピュアさを失わないことと、表現に付随していくクリエイティビティが大事になってくると思うんです。素晴らしいアートを作るためには、アプローチの仕方や言い回しなどを工夫したり、新しい視点と発想が必要になったりするから。平山:あとは、持続性とかですかね? やっぱり、続けていくことで、自身の作家性やスタイルが築きあげられていくのかなって、個人的には思いました。小袋:もちろん。でも俺は何かを続けようと思っているわけではなくて、これを作りたいという気持ちが当たり前のようにあるから。

嫌いなものが減って、自分という人間がどんどん見えてきた
平山:小袋さんの音楽を最初のアルバムから聴いてきて、毎回作風がちょっとずつ変わってきている印象があって。一枚目と今って全然違うと思うんですよ。どのアルバムも好きですが、自身の中で変わってきているなと思うところはありますか?小袋:作品をリリースすることで人生にケリをつけるタイプなので、当時なにを考えていたか細かく覚えていないんですよね。特に一枚目は、まだ20代でキャリアの前半だからフレッシュなところもあると思うし。具体的に何が起きてどう変わってきたかを言葉で説明するとなると、難しいところではあるかな。平山:個人的には、小袋さんとこうして言葉を交わしていくなかで、小袋さんの考え方がどんどん洗練されてきたのかなとは思いました。小袋:それは間違いないかもしれない。

平山:それって自分を受け入れていく作業だと思うんですが、どういうタイミングでそれを感じましたか?僕自身も今年からNEUTを一人で運営するようになって、改めて自分がどういう人間なんだろうって、考えるときがあって。小袋:どうだろう。嫌いなものが減ってきたことに気づいたときかな。20代前半は、音楽や他のアートでも、あんまり好みじゃなかったらすぐ簡単に嫌いと思ってしまっていた気がするんだよね。若い頃は、まだ自分という存在が確立されてないがゆえに、早く本当の自分にたどりつきたくて、まるで彫刻のようにいろんなものをまず削ぎ落としてきた感覚があった。でもだんだん自分の本来の形が見えてくると、削ぎ落とすことよりもやすりで磨いていくことにエネルギーを割くようになって、それが「自分を受け入れていく」という感覚なのかもしれないです。ロンドンに住んでいるからそう思えてきたのかもしれないけど。
ロンドンで暮らしてから見える東京という場所
平山:ロンドンでの生活はいかがですか?もう住み始めてから5年くらい経ちますよね。小袋:俺はお米にうるさいらしいよ(笑)。というのも、自宅で同居人がお米を炊飯器に放置したままにするのが信じられなくて、ラップにくるんでから冷凍庫に入れるように教えたら「あなたは服を散らかすくせに、お米にはいちいちうるさい」て言われて、思わずハッとしたんですよ。

平山:僕も一年間アメリカに住んでいたり、最近だとアジア諸国に遊びに行ったり、違う国で過ごすことで日本という国が見えてくることがあると思うんですが、イギリスと日本の違いを感じたことはありますか?小袋:たくさんあります。でもこの前日本に帰ったら、観光客がめっちゃ増えていて、見た目のバラエティーはロンドンとあまり変わらなかった気がします。国際都市だなあって。ビヨンセが渋谷のタワレコに来るなんて、他の都市では絶対に考えられないことが起きてるよね(笑)。平山:確かに(笑)。

小袋成彬(おぶくろなりあき)
日本・埼玉県出身、イギリス・ロンドン在住のアーティスト。株式会社TOKA創業者。