韓国を拠点に活動し、アジアの現代アートシーンを担う「Ahn Taewon(アン・テウォン)」が、2025年1月25日(土)から4月16日(水)まで「DIESEL ART GALLERY(ディーゼル・アート・ギャラリー)」で日本初の個展を開催。
今回の展示は「deep sea fish」(ディープ・シー・フィッシュ)をテーマに、深海の環境に適応する過程で目の機能が退化した深海魚と、パソコンやスマートフォンの画面を常に眺めている現代の人々を重ね、従来の「見る」という概念が変化してきていることを示唆。

現代人の「見る」という行為を具現化する
ー今回の展示のテーマ「deep sea fish」のコンセプトについて教えてください。深海の過酷な環境で「目」の代わりに別の器官が発達し「目」を使っていない種類が存在する「深海魚」から着想を得ました。昨今、私たちの世界では目で見た情報を認識するというよりも、他の感覚から吸収していることが多いように感じています。スマホや液晶ディスプレイなどから、実在しないものを見る時間が増えていき、目を開けて何かを見ていても、それは本当に「見てる」と言えるのでしょうか。今回の展示では、目以外からの感覚を具現化させて作品に表しています。人の目を描いたサングラスは前が塞がれているので、それをかけても何も見ることができません。しかし、サングラスの前に広がっている景色が見えないだけで、実際にはサングラスの裏にある何かが見えているはずです。

私は絵画を専攻していましたが、周りにいた友人の多くが彫刻を専攻していて、彫刻の素材を集めやすい環境だったんです。

「猫」はデジタルと現実の世界の間にいる存在
ー現在のスタイルを追求するきっかけなんですか?スタイルを確立している感覚はまだ無く、日々少しづつ変容していると思います。強いていうのであれば、エアブラシを使うようになったのは5年前くらいです。
ー自身の生活や経験は、どのように作品に反映されていますか?大量のミームを日常的に消費しているだけでは疲れてしまうので、友人や猫と触れ合ったり、五感で何かを感じたりすることができる環境は私の作品に密接に関係していています。
ーインスピレーションはどこから得ていますか?自分の身の回りの環境から得ています。愛猫のヒロとマコはもちろん、ポートレートのモデルは私の友人なんです。

寝る前にスマホを2~3時間見ていると、スマホの世界が全てに感じられて、現実の世界に自分がいなくなっていく体験をしたことがあります。その度に匂いや感触がある愛猫が現実世界に引き戻してくれるので、デジタルの世界から現実の世界に引き戻してくれる存在として「猫」を題材にしようと思いました。
ー「仮想」と「現実」を区別するために最も大事なことはなんでしょうか。区別しないといけないのはずっと感じていますが、それは不可能なのではないかと思っています。「仮想」と「現実」のどちらにも当たり前のようにデジタルの環境が絡みあっているので、触覚を感じられるかどうかがキーになるのではないでしょうか。

今後どうなっていくか想像するのは難しいですが、アナログなことは消滅しないと信じています。
国外で活動することの意味
ーミラノでも個展をされていましたが国際的な視点を取り入れていますか?最初は、海外で展示をしたいというような明確な目標はありませんでした。ですが、2023年にイタリア・ミラノのギャラリー「Plan X Gallery」や、今回日本に呼んでくれた日本橋馬喰町のギャラリーCONがコンタクトをしてくれて、段々と興味を持ち始めました。海外で展示をするのは、特別なことだと思っています。猫ミームとかを題材にしてるからこそ、世界的に流行ったものに共通点とか共感を得て、海外から注目されてるのではないかなと感じてます。
ー5年後、何をしていたいですか?細田守監督の大ファンなので、日本の田舎のアトリエで制作活動をしてみたいです。映画「サマーウォーズ」に対して誰かがネット上で、「細田守の作る夏で夏を過ごしたい」っていうコメントがあって、それにすごく共感しています(笑)。

Ahn Taewon(アン・テウォン)
DIESEL ART GALLERYでの展示について / Instagram
アン・テウォン(1993年生まれ)は、感覚を通して表現を探求し、主に絵画と彫刻を制作。SNSやインターネットによって発達した新しい視覚言語、画像処理におけるエラーなどを反映させた作品は、猫のシリーズに見られるように、それ自体がふたたびミームとなって流通するポテンシャルを秘めている。現代テクノロジーの広範な搾取的側面に敏感に反応し、コントロールの喪失を感じる中で、仮想と現実を区別なく物理的に扱う方法を学んでいます。最近の展覧会には、2024年の「PPURI」(P21)、2024年の「Condo London」(Project Native Informant)、2023年の「Liminal Room」(Plan X Gallery)、2022年の「Postmodern Children」(釜山現代美術館)など精力的に作品を発表している。