先日、2025年6月13日から6月25日まで渋谷PARCOで、ポラロイドによる日本初のポップアップイベント《THE POLAROID ANALOG EXPERIENCE》が開催された。あわせて、ポラロイドのアジアアンバサダーである台湾のフォトグラファー・Yung Hua Chen(別称 Doris)による、俳優・黒木華を撮り下ろした写真展も行われた。
ノスタルジックでエロティック、まるで映画のワンシーンのような魅惑的な作風を特徴とする彼女は、同じく写真家である父の影響もあり、「カメラマンになるという夢は、7、8歳の頃に父と一緒に台北の街を撮り歩いた時間の中で、自然と心に芽生えました。昔から、日常の中にある特別で美しい瞬間を見つけることに情熱を持っていて、大学時代にファッションの魅力に出会ってからは、写真への愛とファッションを掛け合わせることで、自然とファッションフォトグラファーの道を歩み始めました」と語る。 そんな彼女に、作品の制作背景やフィルムの魅力、ポラロイドの可能性についてインタビューした。

人間関係にも通じる、曖昧だけど惹かれる絶妙な距離感の美しさを捉える。
Yung Hua Chen(以降 Doris):コロナ禍で、約2ヶ月間撮影ができなかった時期に「今、自分は何を撮れるだろう」と考え始めました。その時ふと、自分の名前<陳詠華>にある『華(花)』という漢字を思い出し、花と自分の間に何かつながりがあるように感じました。それから花市場で花を仕入れて、リビングで花を撮るようになり、今でもそのシリーズは続いています。 花は私にとって自己投影のような存在で、心の中の感情や思いを映し出し、受け止めてくれるもの。花に触れるたび、癒される感覚があり、静かでやさしい幸せを感じます。
NEUT:光は作品においてどのような役割を持っていますか? Doris:光は、構図や色、被写体、美術、衣装などと並んで、撮影において欠かせない要素のひとつです。空間に奥行きを与えたり、人物の感情を表現したり、作品に生命力を吹き込む鍵となる存在です。 NEUT:モデルや被写体との「距離感」を大切にされているそうですが、その「距離感」はどのように捉え、作品に反映していますか? Doris:距離感はあらゆる場面に存在すると思っています。人との感情的な距離、身体的な近さ、夢と現実の境界、日常と想像のギャップなど…。私の作品では、ぼやけた表現を好んで使います。それは、どこか曖昧で確信の持てない、でも惹かれるような感覚で、人間関係にも通じるように思います。距離感には美しさが宿っていると感じます。
NEUT:鮮やかなカラー作品と、モノクロ作品の両方がありますが、それぞれを選ぶときの気持ちや意図はどんなものですか? Doris:色彩豊かな表現にずっと魅了されていて、感情があふれ出すような強さを感じます。一方で白黒写真には静けさや理性を感じていて、その抑制された美しさも好きなんです。特にコントラストの強さが好きで、ライブの最中に突如訪れる静寂のような、そうしたギャップに惹かれます。 NEUT:日本風のスタイルや日本人を被写体にした作品も見かけました。日本のファッションや文化から影響を受けたと感じる部分はありますか? Doris:日本が芸術や文化に注ぐ敬意や情熱には、いつも感動させられます。作品に対する高い美意識と、細部へのこだわりと丁寧さ、その真摯な姿勢には深い敬意を抱いています。
ポラロイドの魅力は「曖昧で偶然、でも詩的な瞬間」を写し出せること。
NEUT:ポラロイドで撮影する理由や、その魅力について教えてください。 Doris:アナログ写真が持つ、どこかミステリアスでワクワクする感じがとても好きなんです。小さなフィルムはスケッチブックのように持ち歩けて、好きなときにじっくり眺めることができます。中でもポラロイドの魅力は、現像液の反応で像が浮かび上がるプロセスにあります。まるで、冷たい空気と暖かい空気が交差する瞬間に、レンズがとらえた曖昧で偶然、でも詩的な瞬間がそのまま写っているようで、とても惹かれます。
NEUT:ポラロイドのブランドアンバサダーとして、特にお気に入りのモデルがあれば教えてください。 Doris:Polaroid I-2がとても気に入っています。レンズの繊細な描写力に惹かれていますし、光や雰囲気に合わせて絞りやシャッタースピードを調整できる点も魅力です。さらに外部フラッシュも使えるので、自分の創作の自由度を存分に広げてくれるカメラです。
カメラは、友達のような存在。
NEUT:今後挑戦したいテーマやスタイルはありますか?理由もぜひ教えてください。 Doris:最近は自然とのふれあいに魅力を感じていて、自分のスタイルを自然の風景に溶け込ませることに挑戦したいと思っています。これからもっといろんな場所に出かけて、観察し、探索する中でインスピレーションを得たり、豊かな経験を積んでいきたいです。 NEUT:日本の若者の間でもインスタントカメラなどのフィルムカメラが再注目されています。最後に写真を始めたばかりの方にアドバイスや撮影のコツがあれば教えてください。 Doris:カメラは友達のような存在だと思います。時間をかけて向き合い、性格を知っていくことで、次第にお互いを理解し合えるようになります。そのカメラの特徴やクセを理解できれば、自信を持って一緒に世界を探検し、心を動かされる瞬間を切り取れるようになります。

《Polaroid》
Website ポラロイドは1937年に、イノベーションとエンジニアリングの象徴としてエドウィン・ランド博士によって創業されました。当初はパイロット用の高性能ゴーグルと3Dグラスを製造していましたが、1943年、ランドの娘が「どうして撮った写真はすぐに見れないの」と尋ねたことがきっかけで、インスタントカメラの開発へと繋がりました。1947年には世界初のインスタントカメラが製作され、アイデアが製品化されました。1972年には、インスタントフォトグラフィーを確立するPolaroid SX-70が導入されました。 1990年代と2000年代のデジタル技術の台頭によりインスタントカメラが影を潜め、2008年にインスタントフォトフィルムの生産終了を発表しました。しかし、その終焉はインスタント写真の愛好家グループによる「The Impossible Project」の活動によって、オランダにある最後のPolaroid工場が救われ、ビンテージPolaroidカメラ用のフィルムを製造する世界で唯一の工場となり、フィルム生産が続けられることになりました。 2017年には、The Impossible Projectが「Polaroid Original」として再出発し、2020年3月には全ての製品を「Polaroid」という一つのブランド名の下に統一しました。Polaroidはアナログインスタント写真を核とし、世界中の人々に80年以上にわたり愛され続けています 。一貫したグローバルブランドとしての地位を確立し、製品を通じて人々の間に温かな絆を生み出すことを目指しています。