ゆったりとしたサウンドと、内面を静かに掘り下げるリリックが特徴の、福岡出身のラッパーで詩作家のmaco marets。2016年のデビュー以来、2018年に立ち上げた自主レーベル「Woodlands Circle」を拠点に、作品を自らの手で生み出し続けてきた。
巨大なシステムに飲まれないために。自主制作で得た自由と責任
NEUT:maco maretsさんの音楽は、なめらかなフロウと詩情豊かなリリックが特徴的です。ラップや詩を書くとき、言葉とビートの関係、音と言葉のバランスについて大切にしていることは何でしょうか。maco marets:理想を言うなら、音として美しく聴こえることと、歌詞としてリリカル&クリティカルであることの両方を大事にしたいと思っています。それが一番難しく、だからこそ挑戦のしがいもあるのですけれど……。実際のところ、両者のバランスは曲ごと、作品ごとに異なります。「言葉の意味や繋がりを重視したい」というときもあれば、「なによりリズムの快さを優先したい」というときもある。その時々の気分や、トレンドの影響も受けているはずです。最新作『Helix’95』の場合はポエトリー的なパートを多用していることもあり、結果的に軸足はやや「言葉の意味や繋がり」に傾いたといえる内容になったかもしれません。
NEUT:初期作から自主レーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ、現在まで自主制作というスタンスを貫いています。その選択をした理由と、そこに込めている思いを教えてください。maco marets:わたしは楽曲そのものはもちろん、アートワークやビデオ、ライブ、そのほかプロモーションにまつわる要素までひっくるめて「作品」の一環であると認識しています。それらの制作全般を自分の納得いくかたちで、且つスピード感をもって進めていこうとすると「自主レーベル」という方法がいちばんラクだったんです。業界の動向は日々変わっています。そんな中でもなるべく、巨大な資本のシステムに翻弄されずに活動したい。選択の自由をなるべく取れるようにしておきたいと思っています。ひとりはとにかく身軽です。嫌なことはボイコットしちゃえばいい。少なくとも身内に文句は言われないですから。正直、まだまだ「既存の支配構造からの脱却」なんて達成できていないし、今は活動を維持するだけで必死です。
言葉を扱う創作は、表現の“拡張”ではなく“原点回帰”
NEUT:近年はラップだけでなく、詩集の刊行、連載執筆、ビジュアル・アートとの協働など、多方面へ表現を広げています。こうした広がりは、あなたにとってどのような意味を持っていますか?maco marets:考えてみれば、どれも「言葉を扱う」という意味では同じもの。あまり自分の中で区別はしていないかもしれません。実は、もともとラップより先に詩や小説などを書いていたので、自分にとっては表現の「拡張」というよりはむしろ創作の「原点」に立ち戻るような感覚でもあります。自分の興味・関心に従ってさまざまな表現の様式にチャレンジできるのは、純粋に楽しく幸せなことです。どんな表現でも、それを通じて得られた感触は、必ず生活の主軸である音楽活動にもフィードバックされる。より豊かな、色鮮やかな世界に触れられる気がします。NEUT:多岐にわたる創作のルーツとして、影響を受けた音楽、詩、アート、映画、本など、今でも大切にしている作品や思想はありますか。
「喪失」や「孤独」の痛みと真っすぐに向き合った2025年
NEUT:2025年12月3日にリリースされる新作ラップアルバム『Helix’95』について、まずはタイトルに込めた思いを聞かせてください。maco marets:螺旋を意味する「Helix」は、以前アズマさんと制作したアルバムタイトル『Circles』で描いたような円環的なイメージをさらに推し進めるようなワードとして選びました。9枚目のアルバムにかけて、ローマ数字の「ix(=9)」がスペルに入っている点もお気に入りです。それから「’95」という数字はわたしの生まれ年、1995年を指しています。『Helix’95』は、95年からはじまった、わたし自身の人生の螺旋模様を表すというわけです。今年2025年はちょうど30歳の節目を迎えたタイミングで、色々と心境の変化がありました。そういう、なんとなくパーソナル、かつメモリアルな意味合いを含ませたかったんです。
NEUT:「螺旋(Helix)」という言葉に象徴される、“ループ”“上昇と下降”“DNA”といったテーマに、どのように向き合ったのでしょうか。
NEUT:30歳という節目で発表される『Helix’95』ですが、過去作と比べて、制作アプローチや精神面で大きく変えた点、あるいは見直した点はありますか?maco marets:今作はその時々の勢いというか、言葉に対する直感的なものをなるべく優先するような作り方になりました。
NEUT:今回の作品は「喪失」「孤独」「痛み」を中心的なテーマに掲げています。特にご家族の喪失といった個人的な経験が反映されているとのことですが、こうしたテーマと向き合うことで、ご自身や表現にどのような変化がありましたか?maco marets:親しい家族を亡くしたのは初めての経験で、今までにない大きな動揺を感じました。今までの作品でも喪失の「予感」や孤独、痛みの感覚を歌ってきたつもりでしたが、特大のそれを身をもって実感した。陳腐ですが、生きていれば人間誰しもが直面するであろう痛みを知ったことで、世界や死に対する認識が更新され、これまで抱くことのなかった他者への共感が生まれた気がしています。
コラボ相手の世界観が新しい自分を見つけてくれる
NEUT:トラックはこれまで何度もタッグを組んできたプロデューサー・アズマ リキ(Small Circle of Friends / STUDIO75)との5作目。彼とのクリエイションで、あなたが最も尊敬している点、そして今後ともに挑戦してみたいことはありますか?maco marets:制作のたび、アズマさんはまるでまっさらな壁のように、わたしの表現を受け止める「場」としてあらゆる言葉を許してくれます。決して現行のトレンド的でない歌の作りでも、どんなに「動揺」したラップでも。それは何よりも尊敬、そして感謝している点です。ともすれば「曲未満」の場所に留まるような、断片的な言葉の連なりも、アズマさんのサウンド・プロデュースにかかればひとつの楽曲としてきらきらと輝きはじめる。その手腕にいつも惚れ惚れします。maco maretsとして5作もご一緒できたことは、とてつもない幸運です。また何か共作の機会をもらえるとしたら、アズマさんのプロデュース作品では他のビートメーカーや楽器のプレイヤー、シンガー、ラッパーなどとのコラボはほとんどやっていないので(わずかにシンガー・浮とギタリスト・宮田泰輔の参加のみ)、そういった外部の表現を積極的に加える作り方ができたら楽しそう! あとはもっと実験的な、ヒップホップのトラックに留まらない表現もトライしてみたいです。「やろう」と言ってくれるかどうかはわからないけれど。笑NEUT:多くのアーティストやプロデューサーとのコラボレーションも続けていますが、あなたにとってコラボ制作の魅力や、自身の表現への影響について教えてください。maco marets:コラボレーションはmaco maretsの活動において大きな軸のひとつであり、いつもワクワクしながら取り組んでいます。多くの場合、相手には相手の表現したいサウンドや歌詞の世界観があり、それは自分の中からは決して出てこないものです。これまで自分の作品では触れることのなかったテーマで歌詞を書いたり、今までにない歌い方を求められることもある。知らなかった自分の一面を発見できるのは、とても喜ばしいことだと思います。これからも、機会をもらえるならばどんなジャンルのコラボも積極的にトライしたいです。
派手さはないけど、救いや癒しになる存在でありたい
NEUT:ライブ活動も精力的に行っていますが、近年の台湾公演や国内フェス出演を経て、「自分の音楽の強み」や「これから強化していきたい部分」はどんなところにあると感じていますか?maco marets:「強み」を自分で言葉にすることは難しいですが、ありたい姿として言うなら、必ずしもエクストリームでなくていい、派手ではなくてもいいというか。むしろ、「そうはなれない」という葛藤に裏打ちされた静けさにこそ共感してもらえるものがあればと思っています。わたしは普段、感情を激しく煽る、煽られるような表現とはついつい距離を置いてしまう、人一倍気弱でシャイな性格です。ライブでは毎回緊張して手が震えますし、何度も「君は人前に立つ仕事は向いてないよ」と言われてきました。でも、そういう人間が作品を作り、ステージに立ち続けることこそが一つのメッセージになるはず。たとえ格好悪くても、その姿が誰かにとっては救いや癒しになってくれるのではないかという期待があります。強さではない、「脆さ」の表現だからこそ、言語の壁を超えて海外のリスナーにもやさしく受け止めてもらえているのかもしれません。そう思いたいだけかもしれないけれど。強化していきたい部分としては、やはり音楽的なパフォーマンスのクオリティです。最近は楽器の生演奏を入れたりバンドセットにしたりと試行錯誤しているけれど、根本的なスタイルは10年間ほとんど変わっていません。派手さはなくとも、単なる音源の再現ではない、よりライブらしい手触りのあるステージを模索していきたいです。
「自分のため」それは「他者のため」でもある
NEUT:今後挑戦してみたい表現や、コラボしてみたいアーティスト、あるいはライブを行ってみたい国や都市はありますか?maco marets:まだまだラッパーとして半人前なので、よりストイックさを極めたフローも追求したいですし、逆に歌い上げるような、ボーカルとしての幅も広げたいです。それからポエトリー的なアプローチも。ソロワーク以外だと、映像作品の劇伴や主題歌など、他の作品に音楽で関わる仕事や、空間自体を使った、視覚的にも五感に訴えかけるような体験型の作品作りに興味があります。あとは執筆業。詩や小説、エッセーなど、もっとたくさん書いていきたい。「コラボしてみたいアーティスト」は具体的にはありませんが、日本国内に限らず、国籍や言語を超えた広がりのあるコラボレーションができたらより良いなと思っています。ライブも同様に、国内外のあらゆる場所に行ってみたいです。今パッと浮かんだだけのアイデアだけど、アメリカでブローティガンゆかりの地を(勝手に)訪ねるとか、やりたいかも。
NEUT:そして、10年後・20年後にはどのような表現者でありたいと考えていますか。30歳を迎えた今の視点から、将来の理想像を聞かせてください。maco marets:そのときどうなっているかは正直わかりません。もし今のような形でなくても、何か表現を続けられているならば……、ひとりの同時代人として、今も踏みにじられている誰かの尊厳や痛みとともに立つことができるような作品を問うことができていれば良いなと思います。わたしにとって作品づくりは何よりもまず自分のための行為です。ただ、その「自分のため」とは、「他者と生きるため」というテーマと繋がっているものなのです。それを突き詰めてゆきたいです。NEUT:最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。maco marets:デビューから9年、maco maretsとしてがむしゃらに作品を作り続けてきました。その「作り続ける」ことが可能になっているのも、聴いてくれる方々のおかげです。ありがとう!来年はいよいよ10周年の節目を迎えます。記念すべき10thアルバム、2年ぶりの詩作品集など、せっかくのアニバーサリーなので、これまで以上に多くの作品・企画をリリースしていくつもりです。ぜひこれからも、少しでも気にかけてもらえたらうれしく思います。ともに生きていきましょう。
maco marets
Website / Instagram / X / YouTube1995年福岡生まれ、現在は東京を拠点に活動するラッパー / 詩作家。2016年に1stアルバム『Orang.Pendek』でCDデビュー。2018年にはセルフレーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ、自身9作目となる最新アルバム『Helix’95』に至るまでコンスタントに作品リリースを続けている。近年はEテレ「Zの選択」番組テーマソング『Howl』や、藤原さくら、浮、Maika Loubté、Shin Sakiuraほかさまざまなアーティストとのコラボレーションワークに加え、詩集『Lepido and Dendron』の刊行、アートブックイベントへの展示 / 出店、メディアでの連載執筆など多岐にわたる活動で注目を集める。2022~23年、渋谷WWWにてワンマンライブを開催。2024年には2度の台湾公演を成功させたほか、続く2025年には「ap bank fes’25」で東京ドームのステージ出演を果たした。
maco marets 9th Album “Helix’95” Release Party
Website日時:2025年12月20日(土)16:00~21:00会場:砂箱(東京都世田谷区北沢2-6-4ミカン下北 E街区2F)入場料:¥3,500全3部にわたる、それぞれ異なるスタイルのライブ・パフォーマンス。【Part 1: Poetry Reading Session】ゲスト:真名井大介 / 五十嵐ソフィー / 宮田泰輔詩人の真名井大介、五十嵐ソフィーをゲストに迎え、詩の朗読セッションを行います。伴奏は宮田泰輔が担当。【Part 2: 9th Album “Helix’95” Release Live】ゲスト:アズマリキ(Small Circle of Friends / STUDIO75)アルバム『Helix’95』のプロデューサー・アズマリキと共に、作品の世界を表現したこの日だけのライブセットを披露します。【Part 3: Classics & Fan Favorites Live】ゲスト:宮田泰輔
9th Album『Helix’95』
Spotify / Apple Music1.Returning2.Staywithmeawhile3.Helix Dreams4.S.S.S. 5.In Transit6.Deer Tracks7.What You Called Beautiful8.Perfect Days9.Remembering10.Tsumiki (2025 Remastered)
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