完璧な歌唱力や洗練されたアレンジではない。けれど、まっすぐに心に届いてしまう。
そんな不思議な力をもった“泣けるカバー”が、インターネットの海のなかにはたくさん眠っています。プロではないからこそ独特の味があったり、感情の揺れや声の震え、悦びがそのまま音ににじみ出て、聴く側の記憶や感情を静かに刺激してくる。今回は、そんな心に響く“泣けるカバー曲”を3つご紹介します。

●『Vaundy 踊り子』もどき
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白髪の紳士・s.etsuoさんは2015年からYouTubeにアコースティックギターによる弾き語り動画を投稿し続け、これまでにアップした楽曲は800曲以上。時代もジャンルも超えた選曲と、淡々としながらも味わい深い歌声が魅力です。なかでも再生数1位を誇るのが人気アーティスト・Vaundyの代表曲「踊り子」のカバー。高齢の方ならではの独特な節回しと声質がこの曲に新たな輪郭を与え、歌謡曲のような趣を帯びています。「回り出した あの子と僕の未来が止まりどっかでまたやり直せたら」——このフレーズに、年輪を重ねた歌い手だからこそ滲む“時間の重み”が加わり、原曲とはまた違う深い余韻を残しています

●祝日-カネコアヤノ cover 路上
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カネコアヤノの「祝日」をカバーするのは大学生くらいの男女6人。動画の説明文には「3.20 大阪城公園 朝9時集合で解散22時過ぎ 最後の大合唱 また集まろうね。」とだけあります。酒を片手に一日中歌い、語らい、笑った末に、最後に選んだのがこの「祝日」だったのでしょう。肩を組みながらの合唱、間奏のガヤ、ぶれたカメラの先に映る彼らの笑顔。そのどれもが、遠い昔の春の日を思い出させます。
青春はいつも散らかっていて、少し寂しくて、でもどうしようもなく愛おしい。「飽きないな若気の至りか 気持ちの問題か あとは抱き合って確かめて」——この曲が持つ奔放さと切なさは、彼らの一日とぴったり重なって、見る者の胸にも沁みてきます。

●椎名林檎/幸福論  結婚式/披露宴/余興
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2025年、個人的に最も心を揺さぶられたCMは花王「メリット」のアニメーションCMでした。椎名林檎の「幸福論」が子供の声でカバーされ、恋愛の歌という印象が一転、家族愛の歌として胸に届きました。そしてそのCMよりも早く、「幸福論」に家族のぬくもりを重ねて見せてくれたのが、2022年に公開されたこの動画です。舞台はある結婚披露宴の余興。タンバリンと鈴を持った小さな姉妹が跳ねるような声で「幸福論」を歌い、その隣にはギターを弾く父親と思われる男性の姿。きっと家で何度も練習したのでしょう。緊張と高揚が入り混じった少女たちの声に、手拍子で応える参列者たち。うまくいった瞬間に見せる、少し誇らしげな表情。その光景には、「幸福」という言葉そのもののような空気が満ちています。椎名林檎の名曲が、家族の記憶として新たな意味を帯びて響いてくる動画です。

(written by 山崎健治)



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