記録的な暑さが続き、秋が近づいてもまだまだ暑さが続いています。体調管理に気をつけたいところですが、とくに要注意なのが「脳梗塞」。
冬場に発症しやすいと思われている脳梗塞ですが、脱水によって血液がドロドロになることで、夏場でも発症のリスクがあるといいます。脳梗塞は、日本では毎年10万人以上が亡くなる主要な死因の一つとなっています。


一般的に、脳梗塞は発症から3~6時間を経過して脳細胞が死に至るといわれ、早期治療が重要になります。しかし、現状で急性期脳梗塞の治療薬として承認されている血栓溶解薬は発症後4.5時間以内の使用に限られるため、投与が限定的となっています。そんな中、創薬ベンチャーの会社「株式会社ティムス」では、脳梗塞治療薬の新薬候補「TMS-007」を研究開発中。この度、新薬実用化に関する現状についてプレス説明会が行われました。

脳梗塞は死亡原因の第4位

 会の冒頭、株式会社ティムス 代表取締役 若林拓朗氏が登壇。会社説明及び脳梗塞治療の現状を説明しました。脳血管疾患は大きく2つに分かれており、脳の血管が詰まる症状のことを「脳梗塞」と呼び、脳の血管が破れて出血してしまう症状が「脳出血」と呼ばれています。世界的に見るとお国柄によって違うものの、日本ではその70%ぐらいが脳梗塞だといい、死亡原因の4位と言われています。また、死亡に至らずとも言語障害などの大きな後遺症が残る場合が多いことも特徴です。

脳梗塞が起こると、脳の血管がほぼ完全に遮断されてしまい、数分ぐらいで脳細胞が死滅してしまうエリア「コア領域」があります。
その周りには脳の血管がかなり密に流れているため、主要な血管が遮断されてもその周りから血液が供給されるため、この領域の脳細胞は、数時間から数日かけて徐々にダメージを受けて、死滅していくそうです。そのため、このペナンプラ(救済可能な脳組織の領域)をどうやって救うかが、脳梗塞治療の一番大事なポイントになっています。その救済方法としては2つあり、まず1つは血栓を除去して血流を再開させる「血栓溶解療法」。もう1つは、神経細胞がダメージを受けるのを軽減して炎症を抑える方法です。ただし、現在先進国で共通に使われている急性脳梗塞治療薬は、FDA(アメリカ食品医薬品局)が承認した「t-PA」です。

唯一の承認薬「t-PA」療法の限界

ところが、治療薬がこの1つしかないにも関わらず、実際に投与されているのは、脳梗塞患者全体の10%未満にすぎません。その一番の理由は、脳梗塞を発症してから、4.5時間以内に投与しないといけないという制限があることです。発症から3時間以内に投与した場合と3時間から4.5時間以内に投与した場合を比較してみると(図)、3時間~4.5時間以内にt-PAを投与したことによる改善は減っており、逆に副作用で悪化してしまう場合もあることがわかります。また、4.5時間から6時間が経過すると、改善と悪化が拮抗してくるため、それ以降はもう投与してもメリットがなく、場合によってはデメリットの方が大きいかもしれないといいます。そのため、t-PAの投与は発症から4.5時間以内に制限されているのです。

【TMS-007がもたらす脳梗塞治療の可能性】


続いて株式会社ティムス 取締役会長で農学博士の蓮見惠司氏が登壇。現在開発中の新薬候補「TMS-007」について、開発に至った経緯とその可能性が語られました。
TMS-007は、蓮見氏らが農工大でカビのバイオ液から発見した化合物の1つ。当時、遠藤章博士のもとで探査研究の手ほどきを受け、長い時間をかけて行った研究の先に生まれたものだといいます。遠藤博士は、史上最大の新薬と呼ばれた「スタチン」の発見者であり、このスタチンがきっかけとなって生まれた化合物が「SMTP」(カビの一種であるスタキボトリス・ミクロスポラにより産出される低分子化合物)です。その中で開発されたのが、今回のTMS-007です。

脳梗塞を抑えるメカニズム

SMTPなどの化合物は、酵素活性のない前駆体のプラスミノーゲンの形を変えて、速やかにプラスミに変換する作用があります。プラスミはタンパク質酵素の1つで、血栓の主成分のフィブリンというタンパク質を切断していくことで、脳梗塞になったときの血栓(血の塊)を小さくちぎれた形にして溶かしていきます。説明会では、SMTPをマウスの脳梗塞のモデルに投与したときの血栓の溶け方を示した動画が公開されましたが、SMTPを投与することによって、約17分ほどで血栓溶解が目に見える形で進んでいました。

さらにSMTPにはもう1つの特徴があります。これまでは、血栓溶解を進めることイコール出血が助長されるのが常識でしたが、SMTPには血栓だけではなく出血を抑える作用があることも、マウスの脳梗塞モデルを使った研究の結果わかっています。

優れた有効性と安全が確認された

こうしたデータをもとに、株式会社ティムスでは、脳梗塞患者さんを対象とした臨床試験「前期第二相臨床試験」を実施しました。脳梗塞の治療には2つあり、t-PAを投与した治療(30%以下)と、薬を使わずに金属製のワイヤーを通して脳の血管までアプローチして血栓を回収する「血栓回収療法」の2つが代表的な方法ですが、両方を合わせても30%以下と言われています。そのほかのおよそ70%は、「保存療法」と呼ばれる、有効な治療法がなく症状に合わせた対症療法だといいます。
今回の臨床試験では、有効な治療法がない患者さんの領域まで踏み込んで行われました。発症から投与までの時間を平均9時間、最長で12時間までを対象として、90名の患者さんに対して臨床試験を行ったそうです。その結果、優れた有効性と安全性が確認されました。

「血栓を溶解して血流を戻してあげる。さらに戻すだけでは危ないところに炎症を抑えるという相乗効果を引き出すという、これまでにない新しい薬という風に位置付けています。」(蓮見氏)。

現在、グルーバル規模で臨床試験「ORION」が始まっており、740名を対象にフェーズ2、3と進み、日本でもこれから治験が始まる予定。実施期間の終了は2029年12月が予定されています。新しい脳梗塞治療薬として、多くの患者さんを救う切り札になることがおおいに期待されます。




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