【実は”略語”な言葉クイズ】「さようなら」は略語なんです!では、本来の正しい言い回しは何でしょうか?
例文あり♪「おもはゆい」はこんな時に使います!
美しい日本語クイズの時間です。
【問題】
「おもはゆい」という言葉。どんな意味なのでしょう?
ヒント
・感情を表す言葉
・漢字で書くと「面映ゆい」
thinking time♪
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正解は…
顔を合わせるのが恥ずかしい。きまりが悪い。うれしく照れくさい。
という意味だそう。
わたしの推理は、かすりもしませんでした(笑)。
正解を聞いただけでは、ちょっとピンとこないので、例文を挙げてみましょう。
大きく分けて「照れくさかったり恥ずかしかったりする状況」と「きまりが悪い状況」、この2つのパターンで使うことが出来るみたいです。
◆「照れくさかったり恥ずかしかったりする状況」で使う場合
(例文)
「彼女に告白した後、学校で会うのは面映ゆく、目を合わせられなかった」
「みんなの前で上司に褒められて面映ゆい」など。

画像出典:イラストAC
うれしさもありつつ、気恥ずかしさやくすぐったさを感じるこういう気持ち、ありますよね。
◆「きまりが悪い状況」で使う場合
(例文)
「彼女との待ち合わせに遅れてしまい、顔を合わせるのが面映ゆかった」
「真面目な話を真剣にしていたのに、チャック全開だったことに気づき、面映ゆいったらありゃしない」
「上司の渾身の親父ギャグに笑えず、面映ゆく感じた」など。
「面映ゆい」が意味する「きまりの悪さ」は、他人に迷惑をかけたり、傷つけたり、嘘をついたりといった悪いことをした場合に感じる「きまりの悪さ」ではなく、「人前で体裁良く振る舞えなかった」ときの「きまりの悪さ」なのがポイント。また、「身の置き所がない」「穴があったら入りたい」のような、その場に居続けたくない、その場から逃げ出したい恥ずかしさに比べ、恥ずかしさの度合いは弱めのようです。
「きまりの悪さ」といっても、それほど深刻なものではないみたいですね。
わたしの場合、人前で体裁良く振る舞えないことが多々あるので、この”面映ゆさ”には、思い当たる節がめちゃめちゃあります。
例えば、鼻くそをそよがせたまま、仕事の真面目な打ち合わせをしたりとか…(笑)。あのときのことを思い出すと、今でも「面映ゆい」気持ちになります(笑)。
では、「面映ゆい」の意味や使い方がわかったところで、その由来についても調べてみましょう。
「面映ゆい(おもはゆい)」の語源は?

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「面映ゆい(おもはゆい)」は、古語の「面映ゆし(おもはゆし)」を語源としているそうです。
「面(おも)」は「顔」、「映ゆし(はゆし)」は「照り輝くようなさま。
補足ですが、旺文社『古語辞典』で、「映ゆし」単体の意味を調べてみたところ、「①まばゆい」のほか、「②きまりが悪い」「③面映ゆい」と書いてありました。「映ゆし」単体でも、「面映ゆい」と同じように使えるみたいです。
さて、ここまで「面映ゆい」について紹介してきましたが、個人的に気になることがひとつ。
それは、「映ゆし」の意味のひとつである「まばゆい」の中にも、”はゆい”が入っていること。
「映ゆし」を使う言葉あれこれ♪

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「まばゆい」を漢字にすると「目映い」となり、古語では「目映し(まばゆし)」となるそうです。
小学館『デジタル大辞泉』で「目映い(まばゆい)」の意味を調べてみると、
①光が明るすぎて、まともに見られない。まぶしい。
②まともに見られないほどきらびやかで美しい。
③恥ずかしい。照れくさい。
④度が過ぎていて、見ていられない。
と書いてありました。
「目映い」は、①②の意味だけかと思ったら、「面映ゆい」と同じ「③恥ずかしい。照れくさい」という意味と、ちょっとマイナスイメージの「④度が過ぎていて、見ていられない」という意味もあるようで、ちょっとびっくり。古語辞典で「目映し」も調べてみましたが、同じように①~④の意味が書かれていました。
さらに、「映ゆし」を使うこんな古語も発見!
それは「顔映ゆし(かおはゆし)」。
「面映ゆし」の「面」が「顔」になったバージョンで、略語が「かはゆし」となるそうです。
これと似た言葉、現代にもありますよね。
そうなんです!
「顔映ゆし」は、現代の「かわいい」の語源なんだそうです。ひとつの説みたいですけどね(笑)。
旺文社『古語辞典』で調べてみると、意味は以下の通り。
①恥ずかしい。面映ゆい。
②ふびんだ。気の毒だ。
③愛らしい。かわいらしい。
ここにも、「面映ゆい」登場(笑)。「映ゆし」「目映し」「顔映ゆし」は、「面映ゆし」の仲間と言えそうですね。
この「顔映ゆし」は、略語の「かはゆし」とともに、平安時代あたりから使われている言葉で、「顔が火照るような恥ずかしい状況」を意味する言葉だったそうです。
そこから、「あわれで気の毒な見ていられない状況」、さらには、「小さくて弱い守るべきものに対する愛情が湧く様子」と、言葉の意味を広げていったようです。
③の意味のように、現代の「かわいい」に通じる、いとおしい気持ち、好きな気持ちを表す言葉として使われるようになったのは、室町時代末~江戸時代くらいだそうです(諸説あるようですが…)。
現代では、ほめ言葉としてポジティブに使われる「かわいい」が、「恥ずかしい」「あわれで気の毒」といったネガティブな意味の言葉を語源とするのは、おもしろいですよね。
なんか、人間の心の複雑さを感じるなぁ(笑)。
余談ですが、「顔映ゆし」の略語「かはゆし」は、「見ていられない、見るに堪えない」という意味で、鎌倉時代の随筆、吉田兼好の『徒然草』の第175段にも登場します。

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第175段は「世には、心得ぬ事の多きなり。ともある毎には、まづ、酒を勧めて、強ひ飲ませたるを興とする事、いかなる故とも心得ず」と始まる、お酒嫌いの兼好さんがお酒に関することを書いた段です。
簡単に現代語訳してみると、「世の中には理解に苦しむことが多い。何かあるたびにすぐに酒を勧め、無理に飲ませておもしろがるのはどんな理由があっても理解に苦しむ」というような意味です。
まさにこれ、「飲酒の強要」への指摘。『徒然草』は700年ほど前に書かれたものですが、現代のアルコールハラスメント(アルハラ)に通じるものがありますよね(笑)。おもしろっ。
そんな第175段で、「かはゆし」が使われている一文がこちら。
「年老い、袈裟かけたる法師の、小童の肩をおさへて、聞えぬ事ども言ひつつ、よろめきたる、いとかはゆし」
現代語訳すると「袈裟をかけている年老いた僧侶が、子どもの肩に寄り掛かり、訳の分からないことを言いながらよろめきつつ歩いているのは、見るに堪えない」となります。
現代でも、酔っ払ってくだを巻き、他人に絡むおじさんやおばさん、いますよね。確かに、見るに堪えないかも(笑)。
鎌倉時代の兼好さんも、現代人と同じ感覚だったんですね。
せっかくなので、今回の主役「面映ゆし」についても、何かおもしろい古文がないか調べてみましたが、残念ながらピンとくるものがみつかりませんでした。残念。
…ということで、けっこう横道に逸れてしまいましたが(笑)、今回は、「面映ゆい」と、それに関連する言葉について調べてみました。
古風な響きの「面映ゆい」ですが、過去の言葉ではなく、現代でも使われている、味わい深さを感じる美しい日本語でした。
「恥ずかしい」「照れくさい」に似た言葉であるものの、「恥ずかしい」「照れくさい」より、複雑でちょっとシャイな心の内を表現出来る奥行きのある言葉だなと思います。さりげなく使えたら素敵ですよね。
<参考文献>
WEB
『@DIME~知ってる?「面映ゆい」の意味と正しい使い方~』
https://dime.jp/genre/1185324/
『マイナビウーマン~「面映ゆい」の意味とは? 読み方・使い方・類語(例文付き)~』
https://woman.mynavi.jp/article/210323-6/
『伊藤洋のページ・徒然草DB~徒然草(下)第175段 世には、心得ぬ事の多きなり。~』
https://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure150_199/turedure175.htm