農にまつわるリアルを伝えるドキュメンタリー連載。情熱をもって地元で「農」を盛り上げる「人」にスポットを当て、いま起こっているコトをお届けします。
今回の舞台は、岡山県倉敷市連島地域。江戸時代の干拓地で始まったゴボウ栽培を今に受け継ぐ、三宅晴夫さん(52)を訪ねました。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.19】ミニトマトに魅せられ、郷里に戻り土を耕す

秋の日ざしを反射して、川砂によく似た土の粗い粒がキラッと光る。
生き生きと波打つ緑色の茎葉のつけ根を手でつかんでていねいに引き抜くと、スラリとまっすぐに伸びた、長さ八十センチものゴボウが姿を現した。

昭和二十二年頃から岡山県倉敷市連島(つらしま)地域で栽培され、国内随一の品質の高さで評価されている「連島ごぼう」だ。

連島ごぼうを深い地中から鮮やかな手際で次々と引き抜くのは、JA晴れの国岡山・東部出荷組合組合長の三宅晴夫さん。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」


多いときは一日に二千本の連島ごぼうを、手作業で一本ずつ抜いて収穫する。
祖父の代から連島ごぼうを生産してきたという三宅さんが、産地の成り立ちを説明する。

「この畑は、もともと川の支流が流れていた廃川地(はいせんち)なんです。明治時代に始まった国の改修事業によって川の流れがせき止められ、現在の水はけのよい沖積砂壌土の畑ができたと聞いています」

瀬戸内海に面した連島地域は、その名のとおり、かつては小さな島だった。

江戸時代の干拓によって形成された低平地で、一級河川の高梁川(たかはしがわ)とその支流に挟まれた土地だったため、明治時代までは五年に一度ともいわれるほど、度重なる水害に苦しめられた。

そこで国が明治~大正時代にかけて、河川の改修工事を実施。

高梁川の支流が流れていた場所は、豊かな農地に生まれ変わった。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」


「もともと川砂なので根が伸びやすく、根菜が向くといわれ、祖父の代まではダイコンも生産していました。いろいろな作物を試した結果、ゴボウ栽培に最適な土地だということがわかり、昭和二十二年頃からゴボウの生産が本格的に始まりました」

輝く白肌と甘さは唯一無二

連島ごぼうの魅力は、白さと柔らかさ、そして甘さ。うっすらと土の付いた皮をむけば、ゴボウとは思えないほどきれいな白肌が輝く。

こうした特徴は連島の砂壌土で育つゴボウならではのもので、他県ではまねできない品質だと三宅さんは言う。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」


「雨が降っても水がスーッと抜けちゃうので、浸水による根腐れの心配はありません。ただし、設備がぜったいに必要です。この辺りは伏流水が豊富なので、灌水(かんすい)には困りません。砂壌土で水はけがよく、かつふんだんに水を与えることで、白く柔らかいゴボウになります」

基本的には、毎日夕方に灌水する。ポンプでくみあげた地下水を、畑に設置したパイプの細かい穴から畑全体に行き渡るように散水する。さらに収穫前は早朝にも灌水し、土中深くまで水分を浸透させることによって、ゴボウを抜けやすくしている。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」

 
いい土づくりが栽培のカギ

ちなみに岡山県は「晴れの国」といわれるほど、晴天率が高い土地。
連島地域も晴天が多く、比較的雨が少ないため、こまめな灌水が栽培の成否のカギを握る。

ただし近年は不測の豪雨に見舞われることもあり、後、すぐに大雨が降れば種が流されてしまうこともあるため、「直感」もたいせつだと三宅さんは笑う。

土づくりでは、水もちをよくするために堆肥や土壌改良剤をき込む。
連島ごぼうを生産する東部出荷組合の生産者は、年二~三回、作型ごとに公的機関で土壌診断を受けて、資材が過剰にならないような土づくりを徹底しているという。
 
さらに作付け前には手押しの自走式トレンチャー(溝掘り機)を使い、深さ八十センチもの深耕をする。そこを平らにして、種を五~八センチ間隔でまく。播種前の深耕によって、土がほぐされ、連島ごぼうがまっすぐに長く伸びる。

収穫した連島ごぼうは、細い根を取り、澄みきった地下水にドブンとつけて、きれいに洗う。
そのあと、サイズ別に分別し、一本ずつ袋詰めしたものを段ボール箱に詰め、JA連島集出荷場に運んで出荷する。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」


【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」


風土が生んだ奇跡のゴボウを「次世代」へ

JA晴れの国岡山倉敷アグリセンター営農課課長の松本浩二さんは、こう話す。

「連島ごぼうは、この土地のさまざまな条件が重なって、奇跡的に誕生した日本一のゴボウだと思っています。市場での評価も高く、一般的なゴボウの二倍ほどの価格で取り引きされています。
風土の産物を、次世代に伝えていきたいです」

出荷シーズンは、ほぼ通年。三つの作型を組み合わせて、中国・四国地方を中心に出荷されている。なかでも近年、市場で引く手あまたの人気を誇るのが、八月末~九月初めに種をまき、十二月に出荷される「新旬ごぼう」だ。

真冬の連島ごぼうが出回ると、まもなく新春が訪れる。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.20】砂地ですくすく育つ、白くて甘~い「連島ごぼう」


※当記事は、JAグループの月刊誌『家の光』2024年12月号に掲載されたものです。
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