農にまつわるリアルを伝えるドキュメンタリー連載。情熱をもって地元で「農」を盛り上げる「人」にスポットを当て、いま起こっているコトをお届けします。
今回の舞台は「日本三大酒どころ」のひとつ、広島県東広島市西条町。この地に伝わる名物鍋が「美酒鍋」です。味付けは、塩、こしょう、日本酒だけというシンプルながらも味わい深いレシピを、JAひろしま女性部の皆さんに教えてもらいました。

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忙しい農家にもぴったりの「時短鍋」

良質な地下水に恵まれ、酒造りが盛んな東広島市西条。この街ならではの郷土料理が「美酒鍋(びしょなべ)」です。始まりは、酒蔵の賄いだったそう。

「忙しく働く蔵人(くろうど)さんのために考案されたので、簡単にできて、栄養もたっぷり。忙しい農家にも、ぴったりです」

そう話すのは、JAひろしま女性部広島中央地区本部部長の渡邉美恵さん(57)。他の役員といっしょに、作り方を教えてくれました。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.28】酒蔵の‟賄い”から生まれた郷土料理「美酒鍋」


まずは鍋ににんにくを入れ、豚肉、鶏肉、砂ずりを炒めます。調理場は、たちまち食欲をそそる香りでいっぱい。

「砂ずりを使うのが特徴です。
もともと賄い料理だから、安くて栄養がある砂ずりを使うようになったんです」
と、女性部副部長の池野芳子さん(73)が話します。

肉に火が通ったら野菜を加え、しんなりしてきたら日本酒を加えます。
味つけは、日本酒と塩、こしょうのみ。濃い味つけをしないのは、蔵人さんが作業の合間に食べても利き酒に影響が出ないように、という配慮からだそうです。

【田園日記~農と人の物語~ Vol.28】酒蔵の‟賄い”から生まれた郷土料理「美酒鍋」


地元では給食にも登場!

すべての具材に火が通ったら味見をし、塩、こしょうで味をととのえたら出来上がり。最小限の味つけだからこそ、野菜の甘み、肉のうまみがしっかり感じられます。

試食した副部長の藤井悦子さん(81)ら役員も、大満足の様子です。

「やさしい味ね。いくらでも食べられるわ」
「だしを買わんでもいいのがええ。肉だけあれば、うちにある野菜でできるもん」

日本酒をたっぷり使いますが、加熱してアルコール分をとばすため、子どもが食べても問題なし。市内では学校給食にも登場します。渡邉さんの子どもは、かつて給食をきっかけに美酒鍋が好きになり、郷土の歴史にも興味を持ったそうです。


学校給食の重要性を理解する女性部は、献立を考える栄養士に、地元の野菜を使った農家ならではの料理を教える取り組みもしています。

「昨年は特産の大型ピーマン"でかピー"やれんこんなどを使った料理を教えました。雑誌『家の光』の記事も参考にしたんですよ(笑)。こんな料理もできるのね、と栄養士さんも驚いていました」
笑顔でそう話す渡邉さんですが、夢も熱く語ってくれました。

「今後もJA女性部活動を通じ、食の楽しさを伝えていきたいです。以前は、地元の〝酒まつり”で美酒鍋を振る舞っていたそうですので、復活できたらおもしろそうですね」

「美酒鍋」の作り方

【田園日記~農と人の物語~ Vol.28】酒蔵の‟賄い”から生まれた郷土料理「美酒鍋」


材料(4~6人分)
豚ばら肉・鶏もも肉…各200g
砂ずり(砂肝)…80g
こんにゃく・厚揚げ…各1枚
野菜…適量
(長ねぎ2本、白菜1/2個、玉ねぎ1個、にんじん1/2本、しいたけ4個、にんにく2~4かけ)
日本酒…180mL
塩・こしょう・油…各適量

作り方
1. 豚肉、鶏肉は一口大に切り、砂ずりは薄切りにする。

2. 野菜は食べやすい大きさに切り、にんにくは薄い輪切りにする。

3. こんにゃく、厚揚げは一口大に切り、下ゆでをする。

4. 鍋に油をひき、にんにくを入れて香りがたったら、1を加えて塩、こしょうをする。

5. 火の通りにくい順に、野菜(白菜を除く)を入れて3を加える。

6. 野菜に火が通ったら、白菜を内ブタ代わりにかぶせて日本酒を入れ、鍋のフタをかぶせて蒸し焼きにする。

7. 全体がしんなりしたら、炒めるように混ぜる。
最後に味をととのえて完成。

※当記事は、JAグループの月刊誌『家の光』2025年3月号に掲載されたものです。
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