【画像を見る】ダンディーな佇まいが素敵!【渡辺謙さん】
――映画『国宝』では、上方歌舞伎の人気役者・花井半二郎を演じられていますね。
単に歌舞伎の世界を描いているのではなく、そこに命を懸けた男たちが何を考え、どんな情熱を持って生きてきたのかが、この映画の大きなテーマだと感じています。
原作を読んだ時、映像化は難しそうだと思いましたが、李監督が見事に歌舞伎の世界観を作り上げてくれました。
――歌舞伎の魅力はどんなところだと思いますか?
歌舞伎役者は、物心がついたときから休むことなく研鑽を重ねているわけです。彼らにとって舞台に立つことは、まるで呼吸をするように自然なこと、まさに”生きている延長線上”にあるのだと思います。その点は、僕らのような役者との大きな違いでしょうね。
――主演の吉沢亮さんと横浜流星さんとの共演はいかがでしたか?
2人の演技には頭が下がりました。重い衣装とカツラを身につけて踊るのは、所作はもちろん、体力も相当必要で大変なことです。
彼らは、僕の10倍じゃ利かないくらいの稽古をして、撮影に臨んだと思います。
――才能が異なる喜久雄(吉沢亮さん)と俊介(横浜流星さん)は、歌舞伎の世界で切磋琢磨しながら高め合っていきますが…渡辺さん自身がライバルだと思う相手はいらっしゃいますか?
若い頃は多少なりともそういう気持ちもありましたが、今はライバルのような存在はいないかな。
真田広之くんや佐藤浩市くん、中井貴一くんは同世代の役者だけど、今では「お互いぼちぼちやっていこうね」というような、ライバルというより良き仕事仲間という感覚です。
仕事でストレスは感じない!?一番のご褒美は山での”生活”
――過去に大病を経験されていますが、それがきっかけで健康に気を遣うようになりましたか?
特に意識的に何かを変えたということはないですけど、何事も”過ぎないように”というのは心がけています。
お腹がいっぱいにならない程度にバランスよく3食食べて、ストレッチを中心に体を動かして、あとは穏やかに過ごしています。

――渡辺さん流のストレス発散法はありますか?
仕事してる時でも、そんなにストレスを感じることはないんですよ。
――ええーっ!本当ですか!?
ええーって!(笑)。まるで仕事がすごいストレスみたいじゃない(笑)。僕はないですね。撮影中は予定がだいたい決まっているので、そんなにアンコントローラブルなことがないから、ストレスなく楽しんでやってます。
もちろん、一つの役を演じている間は、病気や怪我もできないから自分の体を拘束されているような感覚があるので、撮影が終わると解放感がありますね。
――大きな仕事が終わった時、何かご褒美はありますか?
物欲があまりないので、特に欲しいものはないかな。それよりも山の生活でリフレッシュするのが一番のご褒美です。
山では朝5時半や6時くらいに起きて、夜9時には寝るという生活で、気がついたら一日が終わっているという感じ(笑)。もちろん洗濯や掃除、犬の世話もするけど、そういうことはまったく苦ではないので、清々しく一日が終わっていますね。
山にいる方が、時間が経つのを早く感じるんですよね。「あれ、今日って何してたっけ?」って思う日もあるくらい。
それで5年くらい前から三行日記を書き始めました。
面白いのが、10年分をまとめた日記なんだけど、2年前や3年前の同じ日の出来事を見返すと、毎年同じ日にカレーライスを食べてたりするんですよ(笑)。
三行メモを読んだだけで当時のことを思い出せるんですよね。
旬のものは必ず炊き込みご飯に!
――新潟ご出身で、海外にもコシヒカリを持参されるほどお米がお好きだそうですね。
海外の撮影現場で朝食にブリトーを食べたとしても、どこかで必ずお米は食べます。お米を食べないと力が出ないんです。お米はわたしのパワーの源。こればかりはしょうがないですね。そうやって体ができてるんだから。
――以前のインタビューで、コシヒカリに合うおかずとしてなすの浅漬けを挙げられていましたね。
お袋が生きていた頃は、実家に帰るといつも「なす漬けが食べたい」と言っていました。なす漬けを食べるために帰省したようなものでした(笑)。手でパカッと割って食べるのが本当においしいんですよ。
あと、故郷の味で言うと塩鮭。子どもの頃から白飯と一緒によく食べてましたね。
今は青果店の友達がいて、旬の野菜が出ると連絡をくれるんですよ。今日もこの後、帰りにたけのこをもらって帰る予定です(笑)。

――たけのこはどのようにして食べるんですか。
ワカメとたけのこを煮たり、今回はたけのこご飯にするつもりです。
旬のものが手に入ると、必ず炊き込みご飯にするんですよ。たけのこ、えんどう豆、とうもろこし、そして松茸も。わが家の土鍋には色々な香りが染みているので、奥深い味になるんですよ。
――東日本大震災の後、宮城県気仙沼市に「K-port」という”音楽と食で人々を繋ぐ”をテーマにしたカフェをオープンされました。そちらでも定期的に、旬の野菜を使った朝食会を開催されてますね。
これからの時期は、高原野菜が美味しくなりますよね。2、3か月に一度は顔を出したいと思っていますが、4月に行った際は、新玉ねぎと新にんじんのポタージュ、キウイと小松菜とヨーグルトのスムージー、菜の花とスナップエンドウとアスパラガスを使った春のサラダ、それにパニーニなどを提供しました。
メニューも、青果店の友達に相談しながら旬の野菜を発注して、自分で考えているんですよ。
その時期のものをちゃんと食べる、ということが自分自身のテーマでもあるし、来てくださったみなさんとも共有したいという思いもあって、朝食会を開催しています。
――2013年のオープンから12年が経ちましたが、お客さんの様子に変化はありましたか?
震災直後と比べると、日常を取り戻してきたように感じます。だからお客さんの表情から特別な何かを感じることはもうないですね。
でも、それで良いんです。みんなが笑顔で楽しんでくれたら。そのためにカフェを作ったようなものですから。最後に帰るとき、一緒に写真を撮って笑顔で「イエーイ!また来るね」みたいなノリでいいと思うんです。
【プロフィール】
わたなべ・けん
1959年、新潟県生まれ。映画『ラスト サムライ』でハリウッド映画に初出演以降、『明日の記憶』『硫黄島からの手紙』、ミュージカル『王様と私』など国内外で活躍。
現在、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に出演中。
【映画情報】
『国宝』
任侠の家に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、十五歳のときに抗争で父親を亡くし天涯孤独となるが、喜久雄の才能を見抜いた上方歌舞伎の花形役者・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、半二郎の息子・俊介(横浜流星)と兄弟のように育てられる。二人がよきライバルとして芸を磨いていたある日、半二郎が自身の代役に喜久雄を指名したことで、二人の運命の歯車が狂っていく。
■6月6日(金)全国東宝系にて公開
■配給/東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
※渡辺謙さんのインタビューは、月刊誌『家の光』2025年7月号にも掲載されています。
https://www.ienohikari.net/press/hikari/