線路は続くよ~、どこまでも~♪と、北海道から九州まで、野を越え、山越え、谷を越え、全国に張り巡らされている日本の鉄道。その中には、なんと百獣の王であるライオンの糞を線路に撒いている路線があるそうです。
…とここで、問題!一体、なんのためにライオンの糞を線路に撒くのでしょう?糞を撒くだなんて聞いたこともありませんでしたが、ライオンの糞が線路の滑りをよくするとか?線路が錆びにくくなるとか?さて、正解は…。

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【問題】

日本の鉄道で、”ライオンの糞”を撒いた路線があるそうですが、その理由とは?

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正解は…「シカが線路内に立ち入って列車と衝突する事故を避けるため」でした。

【鉄道クイズ】日本の鉄道には「ライオンの糞を撒いてある路線」がある!え、ライオンの糞!?それはナゼ?
しか

画像出典:photoAC

都市部に住んでいるとピンとこないかもしれませんが、9月から11月はシカの繁殖期で活動的になるため、日本各地の山間の路線では、シカと列車の衝突事故が増えるそうです。その衝突件数たるや、年間5000件とも言われています。

X(旧Twitter)にもシカが線路内に立ち入る様子がポストされていました。

ピョーンとジャンプして落ちないか心配w

QT @wakya33: 鹿がいて三陸鉄道進めません http://t.co/vKvbkn0XMt— pocopapa (@GHTJ40S) August 13, 2015

鉄を求めてシカがレールを舐めに来るから。北海道でシカの列車事故が多発している原因を、そのようにまことしやかに言う方がいる。極寒の地でレールを濡れた舌で舐めたらどうなる?冬の道内ではそれがシカが線路に近付く主な原因では無い。除雪され雪が締まった線路周辺を通り道として多用しているのだ pic.twitter.com/n2FZip2wni— 猛禽類医学研究所 齊藤慶輔 (@raptor_biomed) February 10, 2023

シカとの衝突事故は、列車の遅れや運休の原因になり、車両も破損するので、鉄道会社にとって死活問題。そのため、シカの習性を分析し、様々なシカよけ対策をしているそう。その対策のひとつが、「ライオンの糞」なのです。

【鉄道クイズ】日本の鉄道には「ライオンの糞を撒いてある路線」がある!え、ライオンの糞!?それはナゼ?
ライオン

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ライオンとは意外。


アフリカならわかりますが、日本に野生のライオンはいないので、日本のシカはライオンを知らないと思うんだけど…。

なぜ、ライオンの糞が”シカよけ”になるのでしょう?

その理由について、はっきりとしたことはわかっていないそうですが、シカには捕食者の臭いを避ける本能があるのではないかと考えられているみたいです。また、シカに限らず、天敵の多い草食動物は、嗅いだことのない匂いに敏感。普段とは違う匂いを感じると、拒否反応を示すそうです。

では、いつ頃から、線路にライオンの糞を撒くようになったのでしょう?

ライオンの糞が鉄道を救う!?その始まりは?

【鉄道クイズ】日本の鉄道には「ライオンの糞を撒いてある路線」がある!え、ライオンの糞!?それはナゼ?
ライオン

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日本で最初にシカよけ対策としてライオンの糞を使った鉄道会社は、JR西日本の和歌山支社といわれています。

JR西日本の紀勢線では、1996年頃から列車とシカの衝突事故が増加。年間10数件程度だったものが、2002年には200件を超えたそうです。

対応を迫られる中、和歌山支社の社員の方が、徳島県森林林業研究所の「猛獣糞による造林木へのシカ食害忌避効果に関する研究」を紹介した新聞記事を読み、それを応用することにしたのだとか。

ちなみに、この徳島県森林林業研究所の研究は、ニホンジカが造林木を食べてしまう食害問題の対策として、トラとライオンの糞を活用するという研究でした。

本来、ニホンジカの”捕食者”である天敵は、ニホンオオカミだけだそう。ところが絶滅してしまったので、はるか昔、日本列島と大陸が繋がっていた頃のニホンジカの祖先までイメージを膨らませ、そのころの捕食者だったであろう、トラとライオンの糞を使ったみたいです。

…ニホンオオカミかぁ。
こう聞くと、シカと電車の衝突事故や造林木のシカの食害の増加は、ニホンオオカミが絶滅したことも関係しているのかなと思いますよね。ニホンオオカミは、明治38年(1905年)に目撃されたのを最後に絶滅したといわれています。この100年ほどの間に、少しずつ生態系のバランスがあれこれ崩れているのかも。どうなんでしょうね。

さて、話を和歌山支社のシカよけ対策に戻しましょう。

和歌山支社では、徳島県森林林業研究所の研究を参考にして、ライオンを飼育している南紀白浜の「アドベンチャーワールド」でライオンの糞をもらい、2002年11月に、事故が多発する紀勢線江住ー和深間の400mの線路沿いに、糞40kgを水に溶いて散布したそうです。

すると、3か月以上に渡り、散布区間でシカとの衝突事故がなんと0件に!”ライオンの糞効果”は、てきめんだったそうです。

しかしながら、近隣住民から「くさい!」と、糞の悪臭に関する苦情が。さらに、糞を入手して薄めて撒くという作業員の負担、環境への配慮などから、継続的な使用を見合わせることにしたそうです。

ライオンの糞は、動物の中でも強烈に臭くて、目にくるほどのアンモニアの刺激臭がするらしいですよ。作業する人も近隣住民も、たまらなかったでしょうね。

JR西日本の和歌山支社では、悪臭や手間暇などの問題で、”ライオンの糞の散布”は続かなかったようですが、ライオンの糞がシカに対して忌避効果を持つ可能性が示唆されたのも事実。
そこで2004年からは、JR東日本と岩手大学が、ライオンの糞を利用した、シカの忌避剤の開発を始めたそうです。

2004年というと、今から20年以上も前。実用的な忌避剤は開発されたのでしょうか?

ちょっと気になったので調べてみると…。

「ライオンの糞を利用したシカの忌避剤」は開発された?

【鉄道クイズ】日本の鉄道には「ライオンの糞を撒いてある路線」がある!え、ライオンの糞!?それはナゼ?
シカ

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結論からいうと、ライオンの糞から抽出した成分を含んだ”悪臭を発生しない”忌避剤が開発され、特許も取得していました。すごっ!

共同研究をきっかけに、ライオンの糞を原料としたニホンジカ用忌避剤の製造・販売などを行う合同会社岩手野生動物研究所というベンチャー企業が設立。2017年に復興庁主催の「復興ビジネスコンテスト」で、「アイリスオーヤマ賞」と「野村HD賞」も受賞していました。

ライオンの糞のどの成分がシカに効くのかを分析するのに膨大な時間がかかり、予算的にも厳しかったそうですが、なんとかシカ用の忌避剤の事業化にこぎつけたそうです。

忌避剤は、ライオンの糞を乾燥させ、粉砕してから忌避効果のある成分を抽出するため、不快な臭いは乾燥の段階で消えるそう。また、使用する際、水で希釈して除草剤の散布用のタンクなどを使って撒くそうなので、悪臭と作業員の手間暇の問題はクリアしたみたいです。

気になる効果ですが、散布前1か月間で200頭前後見られていたシカが、忌避剤を撒いた後の1か月間では4頭、その後の1か月間では0頭と、出現頭数が激減したとか。ただし、降雨があるので効果は2か月ほどになるそうですが、”シカよけ”としての効果を、科学的にも検証出来ているみたいです。

とはいえ、課題はまだまだあるようで…。


原料であるライオンの糞を一定量集めるのに時間がかかること、糞を乾燥させて粉砕する作業は手作業なので、いかに機械化出来るかという点、そして、機械化するには十分な資金が必要となり、機械化して効率的に生産出来ないと価格を下げられない…などなど。ただし、この情報は2017年のものなので、8年前の状況ですが…。

そして、わたしが探した範囲内では、このライオンの糞の忌避剤に関する一番新しい情報は、2022年2月15日の読売新聞の記事でした。(岩手野生動物研究所の公式HPは見つけられませんでした。HPを作る時間も予算もないのかもしれませんね)

新聞記事の内容は、JR東日本管内の2021年度の野生動物と列車との衝突事故が、過去最多の約1800件にのぼったこと。その対策として、光でシカを威嚇する装置や、シカが嫌がる高周波音を発する装置、ライオンの糞の忌避剤を使っていることを紹介していました。そして、いずれの対策も、時間とともに効果が薄れることが多く、費用対効果も含めて検討する必要があり、抜本的な解決策は見つかっていないと、記事は締めくくっていました。

ライオンの糞を利用したシカの忌避剤は、シカよけに一定の効果があるものの、”費用対効果”の面で足踏みしているみたいですね。

ということで今回は、シカが線路内に立ち入らないよう、ライオンの糞が使われているという話題を紹介しました。

ライオンの糞がシカよけになるということも興味深かったですが、シカと列車の衝突事故が年間5000件も発生していることに驚きました。山間部の鉄道は利用者の減少などで赤字が続き、存続の危機に瀕していますが、車を運転出来ない人たちにとって大切なライフラインです。

山間部で生まれ育ったわたしはそれを身をもって感じているだけに、シカと列車の衝突事故により、車両の修繕費がかさみ、廃線に追い込まれないことを願うばかりです。


参考文献

『四国新聞社~ライオンのふん効果抜群/紀勢線、シカ衝突事故0件~』
https://www.shikoku-np.co.jp/national/life_topic/20030221000028

『ライオン排泄物の忌避効果−列車とシカの衝突を防止するために−』
https://core.ac.uk/download/pdf/144248819.pdf

『「新しい東北」復興ビジネスコンテスト 2017 アイリスオーヤマ賞 記念対談』
https://www.newtohoku.org/bcontest/resource/1522311281000/BC_common2017_af/pdf/20180125_report.pdf

『読売新聞オンライン~シカ寄らないで…急増する列車衝突対策に「ライオン糞のにおい」「スズメバチの羽音」~』
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220215-OYT1T50190/2/
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