宇宙から飛来した”流れ星(隕石)”から作った刀、その名も「流星刀(りゅうせいとう)」。かっこよすぎて漫画の世界に登場する架空の刀かと思いきや、いえいえ、現実にあるらしいです。
幕末~明治期の政治家、榎本武揚が刀工の岡吉国宗に作らせたもので、長短あわせて5振りあり、そのうちの1振りは、大正天皇に献上されたとか。そこで本日は、宇宙規模の壮大なロマンを感じるこの流星刀に注目。深掘りすることに!

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”刀剣ブーム”にのれなかったわたしにとって、刀と聞いて思い出すのはやっぱりこれ、『ルパン三世』に登場する石川五ェ門の「斬鉄剣」。実はこの「斬鉄剣」も宇宙から飛来した隕石で作られていて、正式名称を「流星・斬鉄剣」というそうです。

…といっても、「斬鉄剣」の設定はシリーズによってコロコロ変わるようで、「五ェ門の先祖が発明した特殊合金から作られた」いう設定もあるみたいです(笑)。

余談はさておき、さっそく、隕石で作った「流星刀」について、どんどん深掘りしていきましょう。

まずは、「流星刀」を作ることになったいきさつから。少し長くなりますが、お付き合いいただけると幸いです。

「流星刀」はなぜ作られたのか?完成までの経緯は?

「流星刀」を作ったのはこの方(正しくは、刀工に作らせたんですけどね)。

榎本武揚(えのもとたけあき)。

【隕石から作った刀があるらしい】大正天皇に献上されたレアで高貴な一振りだって!実物画像を大公開!
榎本

画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」

幕末の戊辰戦争で旧幕府軍の一員として参戦し、箱館戦争を指揮して新政府軍に抗戦した人物です。

ご存じの通り、旧幕府軍は戦いに負けたので、普通、反逆者として厳罰に処されるのが筋なのですが、この榎本、1872年(明治5年)から明治政府で働くことになるのです。


なぜかというと、江戸幕府の留学生としてオランダに渡り、航海術や砲術、化学、国際法などを学んだめちゃめちゃ有能な人物だったから。その学識を買われたわけです。

学によって人生が救われた例ですね。勉強はしておくものです、ほんとに。

明治政府で働くことになった榎本は、理系官吏として北海道の地下資源開発、私立東京農学校(現在の東京農業大学)の開校に尽力。さらに、国際法に詳しく、5か国語を使いこなしたため、外務大臣、逓信(ていしん)大臣、文部大臣、農商務大臣などの要職を歴任しました。

賢すぎますね…。

明治政府で働き始めて2年後の1874年(明治7年)にはもう、明治政府の全権公使を任され、ロシア帝国に4年間駐在することになったのですが、その時、運命の出会いをするのです。

榎本は、ロシア皇帝・アレクサンドル1世の秘宝である”隕石から作られた剣” をツアルスコエ・セロー離宮で初めて見て、「いつか自分も隕石で作った刀剣を持ちたい」と、夢を抱くようになったそうです。

やはり、幕臣の家に生まれた榎本だけあって、時代が変わっても、武士としての誇りや刀への特別な思いがあったのかもしれませんね。

ただ、榎本が「流星刀」を実際に手に入れるのは、これからずっと先のこと。

なにせ、「流星刀」を作るには、宇宙からの隕石が必要なんですから。
隕石は手軽に手に入るものではありませんものね。

榎本がロシアで”隕石から作られた剣” に出会って16年ほど経った1890(明治23)年。越中国中新川郡白萩村(現在の富山県中新川郡上市町)の上市川の川原で”やけに重たい石”が発見されました。

そうです!これが、のちに「流星刀」の材料となる隕石…ですが、

最初から隕石だとわかっていたのではなく、しばらく、漬物石として使われていたとか(笑)。

なんでも、あまりに重い石だったため、不思議に思った発見者が、大阪造幣局に鑑定を依頼したものの、その時は”ただの鉄のかたまり”と判断され、分析されなかったらしいです。なので、その重さをいかしてしばらく漬物石に使っていたそうです。

そして、5年後の1895(明治28)年。「やっぱりただの石ではない」と感じた発見者は、今度は、農商務省地質調査所(現在の地質調査総合センター)に鑑定を依頼し、ここでやっと「隕鉄」だと判明しました。「隕鉄」とは、鉄(約90%)とニッケルの合金からなる隕石の一種です。

榎本は、この隕鉄の存在を知るや、なんと自腹で購入。刀工の岡吉国宗にこの隕鉄を使った刀の制作を依頼しました。そして、1898(明治31)年、長刀2振と短刀3振り、合計5振りの刀が完成し、「流星刀」と名付けました。


榎本が自腹で購入した隕石で作らせた「流星刀」がこちら!

こちらが、約25年越しの夢を叶え、榎本が手に入れた「流星刀」です。

【隕石から作った刀があるらしい】大正天皇に献上されたレアで高貴な一振りだって!実物画像を大公開!

画像出典:富山市科学博物館HP

【隕石から作った刀があるらしい】大正天皇に献上されたレアで高貴な一振りだって!実物画像を大公開!

画像出典:富山市科学博物館HP

刀にズームしてみると…。

【隕石から作った刀があるらしい】大正天皇に献上されたレアで高貴な一振りだって!実物画像を大公開!

画像出典:富山市科学博物館HP

刀の表面に現れた、木目のようなこの模様が、地球の鉄では出せない「流星刀」ならではの特徴とのこと。

ただし、「流星刀」は隕鉄だけで作られているのではなく、日本刀の材料に使われる玉鋼も含まれているそうです。

なんでも、隕鉄は普通の鉄に比べてやわらかいため、隕鉄だけで刀を作るのは難しく、刀工の岡吉は、試行錯誤を重ね、配合する材料やその割合、鍛錬の方法などを生み出したそうです。

5振りある「流星刀」のうち最も出来の良かった長刀1振りを当時の皇太子、のちの第123代「大正天皇」に献上し、残りの長刀1振りは、榎本が設立に尽力した東京農業大学に寄贈。短刀は隕鉄が発見された富山県の「富山市科学博物館」、榎本武揚とゆかりの深い北海道の龍宮神社にそれぞれ1振り寄贈されました。残りの短刀1振りは第2次世界大戦中に行方がわからなくなってしまったそうです。

小樽チャンネルのX(旧Twitter)では、龍宮神社が所蔵する「流星刀」の短刀(刃渡り19.7cm)が紹介されていました。

模様が美しいですね。宇宙からの隕石で作られていると思うと、とっても神秘的。

25年の時を経て、夢にまで見た「流星刀」を手にした時、榎本はどんな気持ちだったんでしょうね。


龍宮神社では、コロナ禍を健康で乗り切ってほしいとの思いから2020年に「流星刀」を初公開し、辰年だった2024年にも公開したようです。次回の公開はいつになるのかは残念ながらわかりませんでした。ただ、富山市科学博物館では、たびたび公開しているみたいですよ。

ということで今回は、宇宙から日本に飛来した隕石(流れ星)で作った「流星刀」について深掘りしました。隕石から刃物を製造した例は、古代から世界中にあるそうで、日本においても、榎本武揚の「流星刀」以降、いくつか作られたそうです。けれど、日本に落下した隕石で作ったものは、この「流星刀」だけらしいです。ある意味、国産ですね(笑)。
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