菩提酛(ぼだいもと)とは、日本酒など清酒造りに使用される酒母の一種であり、菩提酛を使用した酒造りの手法のことをいいます。
奈良県奈良市の菩提山正暦寺で確立された菩提酛は、日本酒の発祥と言われています。
今回は正暦寺と日本酒の関係、菩提酛の歴史や特徴についてご紹介します。
正暦寺について
正暦寺は奈良市の南東部、JR奈良駅から車で約30分の山あいにある真言宗の寺院。
992年に一条天皇の勅令で創建され、当初は80以上の頭塔が立ち並んでいましたが、1180年の平家による南都焼き討ちで廃墟となりました。
1218年に興福寺を中心とする法相宗の学問所として復興しますが、江戸時代中期以降、急激に衰退してしまいます。
現在は本堂、鐘楼などのわずかな建物を残すのみとなっています。
正暦寺と日本酒の関係この正暦寺で、画期的な酒造りの技術が開花したと言われています。「三段仕込み」「諸白造り」「菩提酛造り」など、近代醸造法の基礎となる濁ったお酒を搾る製法が確立されたのです。
腐敗を防ぐための「火入れ」もここで生まれたと言われており、これが日本酒など清酒の誕生とされています。
菩提酛の歴史とは
菩提酛とは日本酒など清酒を造る手法の一つです。乳酸菌発酵を利用する方法が、後の生酛造りの原型となったと言われています。
正暦寺では自家製造していた酒(僧坊酒)の醸造技術、品質が非常に高く、鎮守などの献上用としても重宝されていました。
それまでは、麹米は玄米を用いる「片白造り」でしたが、正暦寺では麹米も精白米を用いる「諸白造り」を採用していたとされています。
菩提酛の特徴を知る
日本酒などの酒造りは、通常は寒さが厳しくなってから行いますが、この菩提酛は温暖な時期にも行えるという特徴があります。
この他にも菩提酛の特徴としては乳酸発酵があります。
日本酒の発酵には、アルコールを作る酵母菌の他に乳酸菌も大きく関わっていました。
この方法は、酛をつくる時に少量炊いたご飯をさらし袋に入れて、後で仕込みに使う生米を浸けた水に浸します。これを1日回もんで3日くらいすると乳酸菌が増えてヨーグルトのような匂いがする水になります。そしてその酸っぱい水を酛の仕込みに使うのです。
この水を使うと、乳酸菌のつくった乳酸によって雑菌はなくなり、酵母菌にとって居心地が良い環境が整えられます。そして酵母菌が、ある一定以上のアルコールを作ると乳酸菌も淘汰され、最終的には酵母菌の純粋培養のような状態になるのです。
このように見ると簡単に思える菩提酛造りですが、実際は、乳酸菌が増えて水が酸っぱくなるまでの間にカビ等の雑菌に汚染されることが多く、微生物の影響を受けやすいことから安定した酒質を保つことができず、非常に難しい方法でした。そのため、生酛などの確立により衰退したとされていました。
しかし、1996年に奈良の蔵本や関係者中心に「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」が立ち上げられ、再現・復活が実現したのです。
まとめ
奈良県発祥の菩提酛は、日本酒を造る方法の1つでした。
その製法は難しい方法でしたが、20年ほど前に復活を遂げ、現在も使われている技法です。