しかし毎週テレビで新作アニメを放映するというのは、当時から不可能だといわれていました。予算だけでなく、作画の作業量からいっても間に合うわけがないと思われたのです。実際に「テレビの毎週放映」という形式は今もなお海外では珍しく、それが日本のアニメの独自性につながっています。では、毎週のテレビ放映を低予算・短期間で可能とするために、手塚さんはどうしたのでしょう?
もっとも代表的なものが、セル画の省力化です。絵の動く場所を口や腕などに限定する、静止画にカメラワークをつけて迫力を出すといったことだけでなく、アトムが飛行する時の絵をストックしておいて何度も使いまわす(銀行にお金を預けて引き出すことにたとえ「BANKシステム」と虫プロでは呼ばれていました)などの工夫を凝らすことで、1話あたりの作画枚数が1500枚以下というアニメを実現したのです。
ディズニー的なフル・アニメーションで30分の動画を描いた場合は、平均してその10倍は必要だといわれることを考えると、驚異的に少ない作画枚数です。そのため、手塚さんは「アトム」を「これはアニメーションでなく、アニメだ」と説明しています。この「アニメ」は後に、日本製アニメーションを指す言葉として海外にも広がっていきました。
そして「アトム」は、絵の動きを省力化する代わりに、ストーリーの魅力で視聴者を釘付けにします。なんといっても「漫画の神様」である手塚さんの原作であり、しかも自分でアニメ化しているのです。「科学の進歩」を背景にした物語は感動的で、常識破りの作画枚数だったにもかかわらず、最高視聴率は40.7%を記録しました。以降、日本のアニメは新時代の物語を提供する媒体として認められるようになります。
◆ケトル VOL.35(2017年2月14日発売)
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