伊丹さんが亡くなってすでに20年以上が経過していますが、伊丹監督とはどのような人だったのでしょうか? 周防監督は『ケトルVOL.47』で、このように語っています。
「監督としての伊丹十三さんを間近に見て感じたのは、当時の『日本映画の枠組み』の中で撮ることを良しとしていないということ。特に、アメリカの娯楽映画に負けないものを日本映画としてつくる意志を強く持っていらっしゃいましたね」
伊丹さんの姿を間近で目にした周防監督。彼が気づいた伊丹映画の核心とは果たして何だったのでしょうか。
「たとえば……昔の浅草六区の街をセットで再現するとします。ただ、街全体の再現に走ってしまうと、建物や小道具のひとつひとつが安っぽく見えてしまう。どうしても、予算が限られていますからね。手が回らない。でも伊丹さんならば、浅草のセットをあえて『狭くする』、あるいは『狭く撮る』と思うんです。実際に、マルサの女はそのようにつくられていましたから」
その具体例として周防監督が挙げるのが、マルサの女の冒頭シーン。
「これを狭く撮らずに、セット全体で雪が降っているように見せようとすれば、非常に大掛かりになってしまいますよね。しかも、予算が限られているわけですから、広い場所で勝負すれば、安っぽくならざるをえない。でも、伊丹さんは狭く撮ることで豊かな画をつくり上げたのです。病院の外側にある階段の手すり、そこに降り積もる雪を、とても細かく、時間をかけて再現していました。
なぜなら、病室の外から手すりを手前に入れて撮ることで範囲が狭くとも、リアリティある雪の積もる手すりが雪国の街のイメージを思い起こさせるからです。さらに、奥の病室の窓の中で老人と看護師が戯れているといった奥行きをつくった。つまり、狭く撮りながらも、『奥行き』をつくるという空間設計が、マルサの女にある映像の豊かさの理由だと思うんです」
こうした「撮り方」が確立されたのは、伊丹さん自身の経験にあるのではと、周防監督は話します。
「きっと、伊丹さんが役者をされていたときから、日本映画の制約を強く感じ、さらに活路をどこに見出すべきかを考えられていたのではないかと思います。その中で思い浮かんだひとつが、奥行きを持たせた撮り方だったのではないでしょうか。
予算が無ければ知恵で勝負をするのはどんな世界でも同じこと。「元気がない」と言われることも多い日本映画ですが、伊丹さんが追求したやり方に学ぶことは多いのではないでしょうか。
◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売)
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