大手コンビニが、8月限りで成人誌の取り扱いをやめることになり、残りあと数時間でほぼすべてのコンビニからエロ本が消え去る。そこで、風前の灯となったエロ本への感謝と惜別の意を込めて、アダルトメディア研究家の安田理央氏が上梓したのが、7月2日に発売された『日本エロ本全史』だ。


同書は、日本最大級のアダルト誌コレクターの安田氏が、アダルト誌創刊号コレクションから、エポックメイキングな雑誌100冊をピックアップし、オールカラーで紹介するもの。1946年から2018年まで、日本のアダルト誌の歴史を創刊号でたどっている。

安田氏は高校生時代、グラビア目当てで購入した『ボディプレス』(1984年創刊/白夜書房)の面白さに魅了されて、エロ本の世界で働きたいという夢を持ち、アイドル雑誌の編集者としてAVページを担当したことで、エロ本の世界に足を踏みいれる。そして、1994年にフリーライターとして独立し、AV男優やAV監督もやりつつ、ライターとしてメジャー誌、マイナー誌、実話誌などで活躍。一時は年間売り上げが2000万円を超えた年もあったという。

約30年にわたり、エロ本の世界で生きてきた安田氏は、エロ本の終焉をどのように見ているのか? 自分という存在を育んでくれたエロ本文化へのラブレターでもあり、追悼の辞でもある『日本エロ全史』の「エロ本私史」で、安田氏はこのように書いている。

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2010年代に入ると、エロ本は完全に終焉を迎えることとなった。多くのエロ本出版社が倒産、もしくはエロ本から手を引いていった。残ったエロ本も、本そのものよりもDVDがメインであり、付録のブックレットのようなその誌面もAVメーカーから提供された写真だけで編集され、ライターが原稿を書くスペースはそこには無かった。

もはや、エロ本にライターは不要な存在となってしまったのだ。同時に撮り下ろしのグラビアも無くなったため、カメラマンもエロ本を追われている。多くの編集者も会社を去っていった。
かつてのエロ本編集者が長年にわたって磨いてきたスキルは、なんの役にも立たなくなっていた。

プロダクションから企画に合うモデルをキャスティングして、スタジオを押さえ、カメラマンやヘアメイク、スタイリストを決めて、当日は撮影現場を滞りなく進行させる。そんなスキルは、もはや不要なのだ。なにしろ写真も動画も、AVメーカーから提供してもらったものをまとめるだけなのだから。90年代からエロ本という戦場で一緒に戦っていた戦友たちの多くは、消息不明になっていた。

では、筆者を含む「エロライター」はどこで仕事をしているのかといえば、ネットのアダルトニュースサイト、そして一般誌である。筆者は週刊誌や実話誌の仕事が増えている。以前なら、エロ本でやっていたような内容の記事は、現在は一般誌に掲載されることが多い。エロ本のDNAはネットや一般誌の中に引き継がれていると言ってもいいだろう。

80年代までのエロ本はB級サブカルチャーの受け皿としての役割もあったが、90年代にサブカルチャー誌や裏モノ雑誌などが生まれ、00年代にネットがメディアとしての力を持ってくると、エロ本でそうしたコンテンツを扱う必要はなくなっていき、どんどんエロ以外の要素は失われていった。そのエロに純化していった先にあったのは、AVメーカーに全ての素材を頼り切るというスタイルだったのだ。それは合理的な進化だったのか、退化だったのか、わからない。
いずれにせよ、もう筆者のようなライターは、そこに居場所はなくなった。

ライターとして仕事が増えていき、一般誌でも書くようになってくると「なにももうエロ本で書かなくても」などと言われることがあった。エロはステップ、あるいは食うために仕方なく仕事をする場だという考えもあるのだろう。しかし、筆者が書きたかったのは、あくまでもエロ本だった。10代の頃に憧れていたのはエロ本だった。しかし、今はもうそこに筆者は必要とされなくなってしまった。いや、筆者の憧れていたエロ本は、もうどこにも無くなってしまったのだ。

戦後のカストリ雑誌をエロ本の黎明と位置づけるならば、すでに70歳を超えていることになる。メディアとしての寿命で考えれば、仕方のないことなのかもしれない。平成という時代の終わりと共に、ひとつの文化が、その幕を下ろしたのである。

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安田氏は00年代半ばに、ネットの普及に脅威を感じるようになり、やがてエロ本に未来がないことを確信。近年は「アダルトメディア研究家」を名乗り、アダルトメディアの歴史をまとめる仕事が中心となっている。
エロ本の歴史は終わってしまうが、教室や教科書、テレビや新聞では学べない大切なことを、多くの人がエロ本で学んだのは紛れもない事実。まるで目の敵のようにコンビニから“排除”され、ひっそりと姿を消してしまうことになったが、エロ本が果たしてきた役割は、きちんと評価されてしかるべきだろう。
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