いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。

長いのが似合うといって鼻先を髪の奥まで埋めてくれる

太ももに私を乗せて抱いたあと子猫のことも等しく抱いた

銀幕の前につがいを座らせて貞子がまずは井戸を這い出る

きみの目をぼくの小指できみが掻くぼくに読書を中断させて

音だけが後からついてくるようなビーチサンダル脱ぐ ふたりきり

妖精に生まれ変わるのはきみだろう屋上への南京錠開けて

くちびるが首の傾斜を下るころもはや二人というより二頭

てのひらの痣は母にもあることをまどろむきみになぜか教えた

クリスピークリームドーナツ六個入り肩寄せるたび傾いてしまう

地下をゆく電車にも窓はついていて、なくてもいい恋なんてなかった

どの恋もきみにやさしくあるための予習だったな 十の深爪

ぼくたちが兄妹である世界線なんてへし折るほど抱きしめる

匿名の誰かと誰かであった冬この駅はまだ工事中だった

渋谷スクランブル交差点のまんなかにふたりの墓を建てたい

正しくは渋谷駅前交差点また出会うみたいな待ち合わせ

カップルをゴールテープのように切りながらまっすぐ歩く青年
この続きは、2023年4月20日(木)更新予定。
※この記事の続きは、OHTABOOKSTAND(https://ohtabookstand.com/)に無料登録するとお読みいただけます。Credit: 文=木下龍也・鈴木晴香/写真=鈴木晴香/イラスト=じまこ