パリッコ 酒と運転の画像はこちら >>

本連載のテーマ「酒と子育て」。元々相反するものではあるが、それ以上に相性の悪いものが「酒と車の運転」だ。

僕のような重度の酒好きにとっては、車の運転がある日は、「おあずけ」と「ごほうび」のあいだで揺れ動くことになる。夏休み、家族で、車で一泊旅行に出かけた。

「おあずけ」と「ごほうび」

この連載のテーマはずばり、酒と子育て。その時点で、水と油のように相反するものを扱っているわけで、毎度おっかなびっくり、この内容で大丈夫かな? 記事を読んだどなたかからお叱りを受けたりしないかな? と思いつつ書いている。しかし、酒との相性を考えたとき、それ以上に悪いものもある。それは、車の運転。数十年前はもっとおおざっぱだったという話も聞いているが、現代の日本において、ほんの少しでも酒を飲んで運転をするなど絶対にご法度。許される行為ではない。

コロナの状況が次第に落ち着きだして以降、買いものや旅行などで、家族で車で出かける機会も増えてきた。我が家で免許を持っているのは僕だけだから、必然的に僕が運転手を担当することになる。僕のような重度の酒好きにとっては、これが一大イベント。「おあずけ」と「ごほうび」のあいだで、その日一日が揺れ動くことになるのだった。

先日も、夏の思い出にと、家族で一泊の旅行に出かけた。

行き先は、埼玉県の秩父方面にある「休暇村奥武蔵」という宿。コロナ前の2019年にも家族で一度行ったことがあり、とても良い宿だったので、ふたたび行こうということになった。我が家にマイカーはないけれど、隣駅にある実家には車があり、車で出かけたいときはそれを借りることになる。朝の9時ごろに自転車で実家へ向かい、我が家へ戻って妻子をピックアップ。さて、長い一日の始まりだ。

絶品料理と絶景を前に……

家から宿まではのんびりと行っても2時間くらいだけど、当然、せっかくだからどこかに寄りながら行こうということになる。今回であれば、以前から一度娘を連れていってやりたいと話していた「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」という公園がちょうど寄りやすい場所にあり、そこに行く予定を立てていた。ムーミンの世界を再現した建物が園内のあちこちにあって、実際に入って遊べたりして、ずっと前に夫婦で行った思い出の場所でもある。ただ、出発の朝に念のため調べてみると、なんとその日は休園日。そこで予定を変更し、同じく飯能市にある「メッツァビレッジ」に寄ってみることにした。

これまたムーミンの世界をテーマにした「ムーミンバレーパーク」を併設する施設で、ムーミンのほうは入場料がかかるんだけど、北欧をテーマにした公園で、飲食店やおみやげ屋やいろいろな体験施設のあるメッツァビレッジは入場無料。そっちのエリアだけでもじゅうぶん楽しめる。そこで娘が見つけ、気に入りすぎて前から動かなくなってしまったアヒルのぬいぐるみを、甘いことだけど「旅行の思い出に、特別ね!」と買ってあげたりしたあと、昼食をとろうということになった。

で、レストラン棟に入っている一軒「ROBERT’S COFEE」という店が、それはもう非常~に良かった。注文したのは「デミグラスハンバーグとチキンライスのカフェプレート(スープ・ドリンク付)」(1320円)と、「蟹のビスクセット(サンドイッチ・ドリンク付)」(990円)。それらを家族でシェアしたんだけど、どちらも手頃な値段ながら、ちょっとびっくりするくらいに満足度が高い。デミグラスソースをたっぷりまとったハンバーグとチキンライスの、濃厚なうまさ。ハードなパンにぷりぷりの海老が挟まったサンドイッチと、蟹の味を凝縮したビスクの相性。どちらも、ちょっと背伸びをして行くレストランのようなクオリティで、うっとりしてしまう。北欧最大のカフェチェーンで、関東地方にはここだけにしかないらしいけど、もっともっと日本に進出してほしい。

ただし! 僕は運転手であるから、それをつまみにワインの一杯も飲むことができないのだった。しかも、目の前に広がるのは広大な宮沢湖の絶景。そのおあずけ感といったらない。僕はそもそも、うまい料理の横には常に酒があってほしいタイプで、そうでないととたんにテンションが下がってしまい、まぁ、食えればなんでもいいよ。ってな態度になってしまう異常者だ。

最近、それはどうかと思い直し、かたわらに酒がない場合でも、純粋に料理の美味しさを楽しもうとなるべく考えるようになったんだけど、そんなの、誰でも当たり前にやっていることだし。なので、ハンバーグもサンドイッチもスープも、美味しいねぇなんて言いながら食べつつ、やっぱりそのお供がアイスコーヒーなことが寂しい。これこそが、車の運転と酒、両立しようのないふたつにおける、最大のネックと言えるだろう。

ついにありつけた缶チューハイのうまさ

その後無事宿に着き、子供用のプールで娘を遊ばせつつ、買っておいた缶チューハイをぷしゅりと開けられたのが、午後3時のこと。いや、酒を飲みはじめる時間としてはじゅうぶん早いんだけど、たとえばこれが列車の旅なら、行きの新幹線からもう、崎陽軒のシウマイをつまみに缶ビールを飲みはじめているに違いないんだから、僕としてはじゅうぶんがまんしたと言えるだろう。

そんなわけで、娘がプールではしゃぐ姿と、眼下に流れる高麗川の清らかな流れを眺めつつ、数時間のおあずけの末に飲んだ缶チューハイのうまいこと! スーッと体に染み込むスポーツドリンクのようであり、ふわりと心が軽くなる魔法の液体でもある。

ちなみに、本題とはあまり関係ない話。休暇村奥武蔵の夕食はビュッフェ形式なんだけど、小鉢に盛られた小粋なつまみがものすごく充実していたり、目の前で料理人の方が作ってくれる天ぷらや寿司も食べ放題だったりと、本気の本気で料理がうまい。それを好きなだけとってきて、追加で頼んだ飯能の地酒「天覧山」とともにやる時間は、あのおあずけの時間があったからこそより幸福な、ごほうびの時間なのだった。本気でおすすめ。

と、なんだか今回、終始愚痴を言っているみたいな内容になってしまったが、家族のためにも言っておこう。僕はわりと、車の運転が嫌いではない。

妻子のためならばしばらく酒が飲めないことなんかは本当は苦でもないし、娘も車に乗ること自体が好きなようだ。しかも、おあずけからのごほうび酒の美味しさには、特別なものがある。今後もできるだけ末長く、その喜びを享受できたらいいなと願っている。

*     *     *

パリッコ『缶チューハイとベビーカー』次回第40回は、2023年9月15日(金)17時配信予定です。

<この記事をOHTABOOKSTANDで読む>

Credit: 文・イラスト=パリッコ

編集部おすすめ