1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新55巻が絶賛発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。
「煮汁をこいつに入れて帰ってゆっくり分析してみようかと」

北風の吹くなか、煮込みが評判の酒場で麗と飲んでいる宗達。玉子入りの煮込みを前に、「黄身をほぐしてモツといっしょに食うとうまいんだよ」「煮汁をからめた白身もおいしいよ」「熱燗がすすむよな」と、なんとも幸せそうだ。
すると宗達がおもむろに、懐からカメラのフィルムケースと思われる容器を取り出し、そこに煮込みを採集しはじめる。それを見た麗が「ちょっとちょっと」と慌てているがおかまいなし。その意図は、家で煮込みを作ってもどこか物足りないので、名店の煮込みの隠し味をじっくり分析しようというもの。
かなりとんでもない行動だと言えるが、実は僕には、宗達のことを100%責めることができない。懺悔すると以前、大衆酒場の濃すぎるチューハイの度数がどのくらいか気になって、スポイトで少量採取して持ち帰り、「アルコール濃度計」で測り比べたことがあるから。
「雨の休日も あたたかい春の雨ならまた一興だね」
『酒のほそ道』16巻第6話「のどかに春雨」©ラズウェル細木/日本文芸社「サタ、サタ、サタ……」と春の雨が降る音が一話を通して静かに響く、なんとも雰囲気のある一編。
「ヘタにいい天気だったりすると外出しようか それとも洗濯しようかなんて悩むところだが 朝から雨だと酒飲むくらいしかやることないもんな」と、思わず納得してしまいそうになるものの、よく考えると本当にそうか? とも思えるセリフが宗達らしい。
春の雨に関する「春時雨」「菜種梅雨」「春雨」などの言葉にちなみ、「浅蜊のしぐれ煮」「菜の花のソテー明太子ソース」「春雨とわかめともやしのレモンからし醤油和え」などを用意して飲むところは、さすが粋人。
ただしそれではおさまらず、たまらなく「麻婆春雨」をがっつきたくなって、けっきょく雨のなか買いものに出かけてしまう、いつもどおりの宗達なのだった。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画=ラズウェル細木/選・文=スズキナオ)は10月4日(金)17時配信予定。
Credit: 漫画=ラズウェル細木/選・文=パリッコ