1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新56巻発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。
「これはソーメンを介した新しい飲酒だね」
『酒のほそ道』37巻第2話「酒ソーメン」©ラズウェル細木/日本文芸社梅雨が明けたらしいある日、宅急便の荷物が届く。親戚の家で留守番を頼まれている宗達がそれを受け取ると、品名には「手延素麵」とある。お中元に贈られてきたもののようだ。しかし、あちこちから同じようにそうめんが贈られてくるのか、親戚の家にはすでに大量の“在庫”があるのを宗達は知っている。
その在庫を減らす手伝いをしようと、そうめんを茹でて食べることにする。とはいえ、親戚の家の台所を借りて自分流に薬味やつけダレを用意するのは気が引ける……という条件が揃ったところで、宗達はあるチャレンジをすることになる。
すでにタイトルが雄弁に語っているが、麺つゆでもなく、醤油でもなく、塩でもなく、そして水でもない。酒にそうめんをつけて啜ろうというのである。「こないだ飲み屋で聞いた」と、それがきっかけらしいのだが、さすがの宗達も半信半疑で試みている。が、意外にも「な なんだっ この不思議な感覚はっ⁉」と目を輝かせる結果に。
「しかしこれはもはや…ソーメンとは言えないのではあるまいか」と言いつつ、チュルチュルと食べ続けていると、用事を済ませた親戚が帰ってきた。大切な飲み仲間であるおじさんに、宗達は早速「酒ソーメン」を勧める。器の中に入っているのが酒とは知らずにそうめんを啜ったおじさんは驚くが、「意外といけるなーっ」と言っている。
ふたりはそうめんと酒をそれぞれおかわりし、「あ~酒とソーメンがいっしょくたに口の中に入ってくるのがたまらねえ」「これはソーメンを介した新しい飲酒だね」と楽しそうだ……が、本当に美味しいんだろうか。試す勇気が私にはまだない。
「気やすめだよ気やすめっ あるいは個人の感想 さあさあさあさあたのむぞ酒を~っ」

同僚たちとの飲み会。宗達は「さあ 呑むぞ 呑むぞ 吞むぞ 吞むぞ」と4回も繰り返しながら意気揚々と居酒屋へ。早速飲み物をオーダーしようとする宗達を前に、同僚たちは、しじみエキスを配合したドリンクや、朝鮮人参カプセルや、ウコンエキス入りドリンクを飲む。「お酒の前に飲んでおけば安心でしょー」と同席メンバーのかすみさんはつぶやく。
しかし、宗達だけは「酒の前にかならず飲むようにしてるもの」が「ないっ」とのこと。「気やすめだよ気やすめっ」と言い放ち、「ギュビビビビ」とすごい音を立てて豪快に生ビールを飲んでいる。「こいつの前によけいなものをカラダに入れるなんてありえんよ」と、いかにもこの人らしいひと言も飛び出す。
おでんや馬刺しを食べ、生ビールから日本酒へ移行し、上機嫌で杯を重ねる宗達だったが、翌朝の二日酔いはなし。それは丈夫な肝臓のおかげ……とは言い切れない。なぜなら部屋のテーブルの上には同僚からもらった朝鮮人参カプセルを飲んで寝た形跡があったからだ。これを飲んだからすっきりと目覚められたのか、そもそもコンデションがよかったのか。明確な答えは出ないが、それでも酒飲みたちは自分なりの“気やすめ”を追い求めてしまうのだ。宗達だけはいつまでも変わらなそうだけど。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:パリッコ)は3月14日みんな大好き金曜日17時公開予定。
Credit: 漫画=ラズウェル細木/選・文=スズキナオ