1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新56巻が絶賛発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。
「いい酒を自主的に飲み放題すると びっくりするほどの値段になるな…」
『酒のほそ道』41巻第13話『飲み放題あるある』©ラズウェル細木/日本文芸社
いつになく疲れた様子の宗達。行きつけの小料理屋でため息をつく。みんなに心配されて本人が語ったところによると、昨日、会社の忘年会で幹事役の後輩を手伝って気を揉んだそうだ。その宴会は飲み放題プランを利用したもので、店側が指定したリストのなかのお酒が飲み放題になっていたのだが、参加者がリストにない飲み物を注文しはじめて最後の会計が面倒だったらしい。
そんな話をきっかけに、酒飲みにとっての「飲み放題」という存在が考察されていく。時間が制限され、得するか損するかギリギリのところに設定してある価格帯で、時間内にできるだけ得をしようと思えば、いつものペースが狂い、飲みたくもないお酒を無理に飲んでしまっていたりする。
「やっぱり吞兵衛には飲み放題は向いてないよな」と語って宗達は気づく。そもそも、いつだって私たちは好きな酒をいくらでも飲んでいいのである。もちろん、予算のなかで、飲みすぎない範囲での話だが、それを「自主的な飲み放題」だと考えれば、いつもの居酒屋にもちょっとしたエンタメ性がプラスされる。宗達は好きなつまみにいちばん合うであろういい酒を合わせ、自主的飲み放題を満喫するのだが、その代償としてお会計は驚きの額に。
「カップ酒の容器はまた… 深酒した翌朝に水道水を飲むのにもピッタリなのである」

1月6日、年明け早々の仕事を終え、同僚と飲みに繰り出す宗達。まだ松の内ということもあって、通りかかった神社の境内には屋台が出ていた。テーブル席がいくつもあって、おでんや焼鳥などが提供されている、ちょっと広めの店。初詣を終えた一行はそこで一杯ひっかけていくことにする。
アルコールメニューはビールとお酒。広いとはいえ簡易な屋台だから、おそらくビールは缶のまま出てくるのだろう。一行が注文した燗酒は、ガラス製のカップのままテーブルに置かれる。湯気の立つ日本酒とおでんに体があったまる。しかし、そこでメンバーのひとり、若手の小篠くんが言う。「このカップ容器の口あたりだけは どうにかならないもんですかねー」と。カップ酒のフチの口当たりが好きではないらしいのだ。
しかし宗達は「違うぞそれは まったく間違ってる」と真っ正面から意見する。「カップ酒の縁はどうしてこんなにブ厚いのか?」「それはカップ酒の酒質に合っているからだ」と言うのだ。手頃な価格のカップ酒の美味しさは、あの容器で飲むからこそ際立つ。宗達らしい考え方だと思う。そして深酒をした翌朝、水道水を飲むのにもカップ酒の容器はしっくりくるのだ。安くて丈夫で、使い勝手がよくて、酒飲みにとってなんとありがたい容器だろうか。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:パリッコ)は4月11日みんな大好き金曜日17時公開予定。
Credit: 漫画=ラズウェル細木/選・文=スズキナオ