1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新56巻が絶賛発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。
「そんで待ってるあいだにどんなのが出てくるか予想してみるか」
『酒のほそ道』47巻第12話「謎の品書き」©ラズウェル細木/日本文芸社居酒屋のメニューのなかに、文字だけではそれがなんなのか想像もつかないものが並んでいることがある。エピソードの冒頭では「雲子」「おばけ」といった、地方特有の呼ばれ方をする品が取り上げられる。雲子はタラの白子を、おばけはさらし鯨を表す関西言葉である。
また、そういうものとは別に、その店特有のメニュー名が、ある種の謎かけのように用意されている店もある。初めて来るらしき店の壁に「当店名物 ごろつきかぞく」という謎の短冊メニューを見つけた宗達は、「これはなんですか?」などと尋ねることもなく注文してみる。そして、その料理が提供されるまでのあいだ、同僚たちとどんなものが運ばれてくるかを予想し合って楽しもうというのだ。この、ちょっとした面白みをなんでも酒のアテにしてしまう姿勢が素晴らしいではないか。
結果、運ばれてきたのは「イカの肝あえを焼いたもの」で、イカの肝の俗称である「ゴロ」と、イカが漢字で「烏賊」と書かれ、「からすぞく」とも読めるのを略した「かぞく」を組み合わせたネーミングなのだと店主が語る。実際、その料理はとても美味しかったようで「うん うまいっ 味もネーミングもっ」と宗達も満足気だ。
「ああ もっとこうしていた~い もーここん家(ち)の子になる~」

寒い夜、郊外の街を歩いている宗達と同僚の海老沢。
冷えた体に沁みる芋焼酎のお湯割り。食べやすいように骨をはずして串打ちされた「手羽元」も、ササミと青じそを丁寧に巻いてある「シソ巻き」も美味しい。「テキトーに入ったけど 当たりですねこの店」と海老沢が言うと、宗達は「うん 焼酎も焼きとりもうまい でもこの店の当たりはもっと他にある」と返し、「それはそこにあるストーブだよ」とつぶやく。
店内には石油ストーブが置かれ、店の空気を温めていたのだ。穏やかな雰囲気の店主いわく、先代が店を切り盛りしていた頃から50年近く使われ続けてきたストーブらしい。そこまでページをめくってこの回を最初から読み返してみると、宗達がこの店に入った場面から、店内に漂う石油ストーブ特有の香りが、特に言葉で示されることなくコマのあちこちに描かれているのに気がつく。その懐かしい香りがすっかり気に入った宗達は「ああもっとこうしていた~い」とストーブの前をなかなか離れられないのだった。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」第48回(漫画:ラズウェル細木/選・文:パリッコ)は5月23日みんな大好き金曜日17時公開予定。
Credit: 漫画=ラズウェル細木/選・文=スズキナオ