パリッコ 大阪・森小路「とくなが酒店」の「自家製チャーシュー...の画像はこちら >>

今年の夏も大阪に飲みに来ることができた。2泊3日の2日目が丸々空いたので気ままに飲み歩くことになった。

ライターのスズキナオさんの提案で千林という街へ向かい、午前中からさんざんハシゴしたあと、同行の人たちが「4時になりますね。“とくなが”が開く時間ですね」と話している。そして歩いてたどり着いたのが「とくなが酒店」だった。

何度やってもそのたび美味しさと楽しさの瞬間最大風速を更新する、関西遠征飲みツアー。昨年の夏に続いて今年の夏も実現し、今もその余韻を噛み締めているところだ。

今回の日程は2泊3日。初日はトークイベント出演で、3日目は神戸での雑誌取材。なか日の2日目が丸々空いたので、その日は関西の友人たちと気ままに飲み歩くことになった。

昼ごろにのんびり、飲み友達でライターのスズキナオさんと合流し、まずは昨年の訪問ですっかり気に入ってしまった「ユートピア白玉温泉」へ。温泉と言いつつも昔ながらの銭湯ではあるんだけれど、近年大リニューアルされた施設が快適で、しかも朝6時から営業している天国。僕はこの白玉温泉の、たまにダクトから氷が落ちてくる氷風呂に、年に一度はどぼんと浸らないと、その夏のあいだじゅう体の芯からの熱が抜けきらない体質になってしまった。今年も無事に入れて、ミッションひとつ完了。

最高にさっぱりした心身で向かうのは、ナオさんの提案で千林という街。日本屈指の商店街があり、しかもアーケードになっているので直射日光を浴びずにすむというナオさんの心遣いだ。僕は、よくわからずについていくのみ。

たどり着いた千林商店街を歩きだすと、確かにどこもかしこも気になる店だらけ。歩き出して3分も経っていないのに、どうにもたまらず「春倉」という酒場に吸い込まれてしまったら、ここがいきなり素晴らしすぎた。軽いつまみに加え、朝食兼昼食がわりの「ホルモン焼うどん」をシェアしたりもして、ウォーミングアップ完了だ。

そこからは徐々に、山琴ヤマコさん、今野ぽたさん、橋尾日登美さんといった愉快な面々が合流。散策をしつつ、モデルガン射撃や酒瓶割り体験ができて酒も飲める謎の店へふらりと寄ったりする(要素が多すぎるで割愛するけど楽しすぎた。いつか機会があれば)。

ところで同行の人たちがさっきから「そろそろ4時になりますね」「あぁ、とくながが開く時間ですね」などと話しはじめている。しかも、明確な目的を持って歩みを進めだしているように感じる。なにが起きるかわからないほうが楽しいのでだまってついて歩いていたら、たどり着いたのが、京阪線で千林のひとつ隣、森小路駅が最寄りの「とくなが酒店」という店の前だった。

外観は街の老舗の酒屋さんふうだが、右手にもうひとつ小さな入り口があって、そこがいわゆる角打ちスペースになっているらしい。中央には持ち帰りの惣菜販売窓口もあるから、缶詰や乾きものだけでなく、手作りのつまみなんかもあるのかもしれない。ふと角打ちスペースの横の看板を見ると、「おでん」「かす汁」「出し巻きたまご」などのオーソドックスなものから、「トマトイタリアンチーズ」「あんかけ焼きおにぎり」「餅皮エビ包みスープ煮」なんていう凝ったものまで、11種類もの料理メニューがあって驚いた。しかもおでんが税込100円、かす汁が200円、出し巻きたまごが300円と、ものすごくリーズナブル。ここ、もはや角打ちの域を超えてるぞ! さすが地元の酒飲みたちが好きな店だけあるな。

……なんて思いつつ扉をくぐったら、さっきの自分が驚いていたことが恥ずかしくなるくらい、想像を超えた空間がそこに広がっていて、完全に打ちのめされてしまった。

縦に細長い店内は、入って左手に立ち飲みカウンター、奥に進むとビールケース製の立ち飲みテーブルがふたつ。我々は計5人だったので、そこへ収まらせてもらう。

圧巻なのは店内の壁じゅうを埋めつくす短冊メニューで、優に数百種類はあるんじゃないだろうか。よくこういう店を称して“もはや居酒屋レベル”と言ったりすることがあるが、いやいや、そんじょそこらの居酒屋では太刀打ちできない充実っぷりで、角打ちとしては確実に日本トップクラスだろう。こんな店がしれっとあるから、やっぱり大阪はすごい。

カウンター上のガラスケースには焼鳥用に串打ちされた肉たち。

その横には大皿の惣菜類が並んでいる。短冊メニューも含めてジャンルレスにもほどがあり、オーソドックスな酒場のつまみから、他では見たことのないような凝ったオリジナル料理まで多種多様。初見で楽しみつくすのには無理がある。

せめてほんの一部だけでも例をあげてみよう。例えば、200円、300円、350~400円と値段ごとに、今、店で撮ったメニューの写真を見ながら、気になったものを列挙していく。けれども、実際に店にあるメニューはこの何十倍もあると思っていただきたい。当然、順不同だ。

・200円ゾーン

アスパラフライ、スパイシーごぼうのからあげ、カマンベール一皿包み揚げ、カラシレンコンステーキ、さきいかの天ぷら、明太チーズもち、白身魚のタルタルソース、カニクリームコロッケ、大根天ぷらネギポンズ、あんかけ焼おこげ。

・300円ゾーン

ホルモンにんにくみそ焼き、ミックスピザ、なすのグラタン、しい茸とピーマンの肉詰、生ふの田楽、カレー風味の玉ねぎオイル焼き、イワシ缶マヨネーズオーブン焼き、さんま缶ピザチーズオーブン焼き、ポテト付ハンバーグデミグラスソース、ガーリックライス、豚平焼き。

・350~400円ゾーン

ブロッコリーとスイートコーンとベーコンポテトのチーズグラタン、ささがきゴボウと玉子の柳川風、山いもすりおろしとキムチのチーズ焼き、おすすめおまかせおつまみ四品盛り。

頭がくらくらしてこないだろうか?

パリッコ 大阪・森小路「とくなが酒店」の「自家製チャーシュー...の画像はこちら >>

人間、選択肢が与えられすぎるとむしろ思考する気力は失せるものだ。ここは勝手知ったる友人たちに、いったん注文をおまかせする。

チヂミとクレープの中間のようなオイリーでサクッとした生地にシンプルな醤油味がついた「ネギクレープ焼き(しょうゆ味)」(200円)、自家製の「漬物盛り合わせ」(250円)、串でかりっと焼きあげられたホルモンににんにくみそとねぎがたっぷりのる「ホルモンにんにくみそ焼き」(2串300円)、どれもこれも酒がすすみすぎて困ってしまう。

ところで誰にでも、ふだん何気なく生活していてふと、口のなかになにかの料理の味が突然思い出され、「あ、食べたい」と思うことがあるだろう。僕の場合、この日のそれが「焼いたパン」だったんだけど、さすがにないかなと思いつつ探してみたら、「バゲット(ガーリック味 / 明太子味)」(200円)があったのにも笑った。かりっと焼かれた薄めのバゲットがたっぷりと皿にのり、抜群にいいつまみだ。

また酒類も、「スーパードライ 生中」(400円)や「ウォッカ酎ハイ」各種(300円)をはじめ、さすが母体が酒店なだけあって幅広いが、店内奥の冷蔵ケースには缶ビールや缶チューハイも豊富にあって、申告制でそれを飲んでもよく、とにかくがぶがぶと景気良く飲んだ。

なかでも印象に残った一品が「自家製チャーシュー」(店頭表記は「自家製チャーシュ」。カウンター上メニューのため値段不明)。肉と脂の層が美しく分かれた豚バラ肉が煮込まれて真っ黒に染まり、皿の上にたっぷり。横にからしが添えられている。ひとつつまんでみるとその味がちょっと意外。我が家の定番料理に「鶏のさっぱり煮」があり、これは醤油ベースでありつつ、酢をよく利かせてさっぱり味に煮込んだ鶏の手羽元料理。その味にどこか近く、豚の脂っこさを酸味がほどよく中和していて、これも酒のつまみに抜群だ。

とくなが酒店。一度行った程度で魅力を語れるような店ではとうていないけれど、一度行っただけで圧倒的感動が僕を包み込んでくれたことも真実。

なんて、当日のことをふり返りながら記事を書いていたら、どうしてあれを頼まなかったんだろう!? というメニューがいくらでも見つかってしまって困る。次はいつ行けるだろうか? 大阪は本当に、困った街だ。

パリッコ 大阪・森小路「とくなが酒店」の「自家製チャーシュー」

*       *       *

『酒場と生活』毎月第1・3木曜更新。次回第30回は2025年8月21日(木)17時公開予定です。

<この記事をOHTABOOKSTANDで読む>

Credit: 文・イラスト=パリッコ

編集部おすすめ