不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。
● アパート建築は長期的な投資 収支にこだわる ●
相続対策というと、相続「税」対策に興味を持たれる方が多いようです。専門家に相談せず、相続税の支払いを恐れ、過剰な相続対策で本末転倒な結果をもたらしてしまったご家族のお話です。(文・ともり まゆみ)
連載(1) 沖縄の相続で多いのは現金?不動産? 対策しないと「争続」に
連載(2) 「まさか弟に裏切られるとは」 遺産分割協議書に要注意! 相続人は署名・押印前に確認を
連載(3) なぜ? 「住み慣れた家で暮らしたい」願い叶わず 遺言書で設定しておくべきだった権利とは
概要・経緯
相談者は被相続人の長男。父は先祖から複数の土地を相続し保有していた。土地価格の高騰から相続税対策が必要だと考えた父は、建築会社と相談しアパートを2棟建築。建築費は金融機関から借り入れし、借入金を負債として相続財産と相殺することで、相続税対策になると誰かから助言されたらしい。
どうなった?
父が亡くなり、長男がアパートを相続。経営状況を確認すると、地域特性やニーズを無視した間取りと設備で、入居率は常に8割以下。賃料収入が毎月平均120万円なのに対し、借入金の返済額は125万円。管理費や税金などの諸費用も加えると毎月30万円近くの赤字が続いていたので、売却を余儀なくされる。
どうすべきだった?
・相続税額がいくらになるか、どんな対策が有効か、事前に専門家に確認を。
・アパート経営は長期的な投資という視点を持ち、収支にこだわる。
・無理のない額であれば相続税を支払うことも視野に入れる。
建築費の負債で課税対象額を圧縮
土地の価格の高騰が続く沖縄県。このまま値上がりが続くと相続税も高くなるのでは? と心配する方も多くいらっしゃいます。相続税は相続する方、つまり残された配偶者や子、孫が現金で支払う義務があることから、できる限り負担はかけたくないと考えるのは自然とも言えます。
相続対策の一つとしてアパート建築があります。相談者のように建築費を金融機関から借り入れすることで負債を作り、その負債を財産から差し引くことで、課税される財産を圧縮し、結果的に相続税が軽減されるという効果があるのです。メジャーな相続対策なので、土地を所有している方は聞いたり勧められたこともあるでしょう。
しかし相談者の場合、本当にこの相続対策が必要だったのでしょうか。
本当に必要な対策だったのか
沖縄の不動産は確かに高騰していますが、実際売買される市場価格と相続税の計算をする際の路線価では、価格が大きく乖離します。また、法定相続人の人数に応じた相続税の基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)もあります。以上のことから不動産を所有されている方は思っているほど相続税が課税されることは少なく、また課税されたとしても現実的に支払える程度で収まるケースが多いのです。
今回の相談者の場合、相続財産である不動産やその他の財産を簡易的に計算したところ、かかる相続税は多くても100万円前後で、問題なく支払える額でした。
また、相続対策ばかりに目が向いてしまって、アパート経営の本質を理解していたかも気になります。アパート経営は投資です。金融機関からの借り入れを返済するのはもちろん、残された家族に利益をもたらすものでないといけません。そのためには適正な市場調査を行い、安定したアパート経営をするための環境づくりが大事です。
今回は相続対策が目的となってしまい、その後長期に続くアパート経営の収支については二の次になってしまいました。
今やろうとしている相続対策が本当に必要なのか? 残された家族が安心して暮らせるよう、専門家への相談をオススメします。
用語説明 「路線価(相続税路線価)」
土地の相続や贈与の際の税金を計算するために用いる評価額。毎年7月に発表される。実際の売買額の6割前後となっていることが多い。所有する土地の路線価は国税庁のHP、または「○○市 路線価」で検索すると調べられる。建物は固定資産税評価額がそのまま相続や贈与の計算に用いられる。
[執筆者プロフィル]
友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。
(株)エレファントライフ
https://www.elephant-life.info/
電話=098・988・8247

