不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。

● 「血族に財産を引き継ぐ」前提の相続について親族で話し合う ●
 最近では多様な家族の在り方が認識され「○○家一族」なんて表現は少なくなりました。しかし、先祖代々の財産を引き継ぐ相続の現場ではまだまだ家督制度的な考えが根強いことを感じます。(文・ともり まゆみ)
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概要・経緯
 相談者はともり家(仮名)の次男。被相続人はその兄(長男)。ともり家が代々所有する不動産や仏壇は、生前長男が相続していた。長男は結婚していたが子はいない。今回の相続で遺言書などはなかったが、次男は「先祖から受け継いだ財産はともり家の血族が引き継ぐのが当たり前」と考えていた。
【相続関係図】

 

どうなった?
 長男の死亡後、先祖代々の財産をともり家の血族に相続させる手続きを行おうとした。すると長男の妻が法定相続割合に応じた配分を主張。裁判を経て、不動産を含む財産の4分の3が長男の妻のものとなった。
 長男の妻は再婚で、前夫との間に子がいた。長男の妻が財産を相続したことで、将来的に前夫との子へと、ともり家の血族ではない者へ財産が相続されることになる。

どうすべきだった?
・「血族に財産を引き継ぐこと」を前提とした相続について親族で話し合う
・血族へ財産がスムーズに相続されるよう養子縁組制度を活用
・遺言書を作成し、血族も配偶者も納得できる遺産分割を指示
長男・男系親族による相続の慣習は法的に考慮されない
 県内では先祖から受け継いだ財産は長男、または男系の親族が引き継ぐとする根強い慣習があります。しかし遺言書のない相続は、民法の規定に合わせた遺産配分が推奨され、配偶者や子以外の家系の都合は法的には考慮されないという現実があります。
 先祖代々の財産をできる限り血族に引き継がせたいという気持ちは分からなくもありません。配偶者への相続割合を減らし、もめない相続を実現するには、相続に関する法制度を理解した上での準備が必要です。
養子縁組で配偶者の相続割合を縮小
 民法上、配偶者は常に法定相続人となりますが、子がいることで配偶者の相続割合を小さくできます。今回の被相続人である、ともり家の実子がいない長男の場合「普通養子縁組」という方法が活用できます。
 養子縁組は、血縁関係とは無関係に親子関係を生じさせることができる制度。養子は養子縁組をした日から実子と同様に法定相続人になり、財産を相続できるようになります。子のいない長男の元に、他兄弟の子を養子に入れて財産を引き継がせたという話を聞いたことはありませんか? 養子縁組はその際に利用される制度でもあります。
 例えば、次男の子の一人が長男の養子になれば、養子への法定相続割合が2分の1となり、長男の妻への割合も4分の3から2分の1へと小さくなります。
遺言書で相続先を指示
 次に遺言書の作成。長男がともり家の財産を養子である子へ相続させる旨の遺言書を作成することで、先祖代々の財産をともり家の血族へ相続させることが可能となります。
長男の妻には法定相続割合の半分(今回は4分の1)を請求する権利(遺留分侵害額請求権)があるので、その分を考慮した財産を妻に相続させる旨を併記することも必要です。 養子縁組と遺言書の作成により、法的に有効な形で財産を血族へ引き継がせることが可能となります。同じような状況の方は、相続に関する法律と慣習との違いを理解し、専門家の力を活用しながらご検討ください。
用語説明 「養子縁組」
 血縁関係とは無関係に法的な親子関係を築くことができる制度。養子縁組をすることで法定相続人となり、相続税控除額計算も加算される。養子となっても実の親との親子関係は解消されず、法定相続人の権利も維持される。
[執筆者プロフィル]

 

友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
ともりまゆみ事務所
https://tomomayu.com/
電話=098・988・8247
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